症状・徴候・症候・症候群の違い。臨床で言葉を雑に使わないための整理

患者が訴えるもの、検者が見つけるもの

症状、徴候、症候、症候群。似た言葉ですが、臨床で雑に使うと問診、評価、記録、説明の精度が少しずつ崩れます。

まず押さえたいのは、症状は患者側の主観、徴候は検者側の客観所見という違いです。ここが整理できると、患者さんの訴えと検査所見を分けて考えやすくなります。

臨床では、「症状」「徴候」「症候」「症候群」という言葉がよく出てきます。

ただ、日常会話ではかなり混ざって使われます。

患者さんの訴えも、検査で見つかった異常も、なんとなく全部まとめて「症状」と呼んでしまう。

それでも会話は成立します。

しかし、評価や記録、病態の整理をする時には、この言葉の違いを分けておいた方が臨床が楽になります。

まなぶ先生
まなぶ先生

痛みやしびれは症状ですよね。じゃあ腱反射の消失も症状でいいんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

腱反射消失は、検者が確認する客観的な所見なので徴候と考える方が整理しやすいですね。患者さんが感じるものと、こちらが観察するものは分けておきたいです。

4つの言葉を整理する

症状symptom(s)

患者さんが自覚する、病気や不調に関する具合の悪い現象や感じる異常です。

例:痛み、しびれ、排尿困難、息苦しさ、めまい

徴候sign(s)

検者が客観的に観察、測定、確認できる病的な現象です。患者さんが自覚していない異常も含まれます。

例:発熱、腱反射消失、拘縮、筋力低下、皮膚の色調変化

症候symptom(s) and sign(s)

症状と徴候を合わせて扱う言葉です。症状と徴候を明確に峻別しにくい場合に用いられることがあります。

例:咳、筋萎縮、パーキンソン症候など

症候群syndrome

複数の症状や徴候の組み合わせから、一定の病態、疾患群、局在などを示す時に用いられます。

例:パーキンソン症候群、ネフローゼ症候群、手根管症候群

最初に大事なのは、症状と徴候を分けることです。

患者さんが「痛い」と感じていることは症状です。

検者が「腱反射が低下している」と確認したことは徴候です。

この違いを曖昧にすると、患者さんの主観的な困りごとと、検査上の客観所見がごちゃ混ぜになります。

記録では、主観と客観を混ぜない

臨床記録では、この違いがかなり重要です。

たとえば、患者さんが「右足がしびれる」と訴えている場合、それは症状です。

一方で、検査で「アキレス腱反射が低下している」「足関節底屈筋力が低下している」と確認できれば、それは徴候です。

記録の考え方

症状は患者さんの言葉として残し、徴候は検者が確認した所見として残す。これだけでも、評価の見通しはかなり良くなります。

症状は、患者さんの経験です。

徴候は、検者が観察できる情報です。

どちらが上という話ではありません。

どちらも重要ですが、役割が違います。

症候群は、単なる症状の集まりではない

症候群という言葉も、かなり幅があります。

いくつかの使われ方がありますが、臨床では大きく次のように整理できます。

  • 特定の病気を中心に置き、その周辺の疾患群を症候で括るもの
  • 一連の症候の組み合わせから、特定の病態を指すもの
  • 特定の症候の組み合わせが、病変の局在部位を示すもの

たとえば、手根管症候群は、正中神経の絞扼に関連する一連の症状や徴候から病変部位を考える言葉として扱いやすいです。

一方で、ネフローゼ症候群のように、症候の組み合わせから特定の病態を指すものもあります。

同じ「症候群」でも、使われ方が一つではない点には注意が必要です。

症候群という名前がついていても、それだけで原因が一つに決まるわけではありません。名前は整理の道具であって、思考停止のためのラベルではありません。

患者説明では、言葉を翻訳する

医療者同士では、症状、徴候、症候群を分けて話すことに意味があります。

ただ、患者さんにそのまま専門用語を並べても伝わりにくいことがあります。

大切なのは、医療者の頭の中では正確に分け、患者さんには分かる言葉で翻訳することです。

患者さん
患者さん

しびれているんですけど、これは何が悪いんですか?

セラピスト
セラピスト

しびれは患者さんが感じている症状です。そこに加えて、反射や筋力などこちらで確認できる所見を見ながら、どこで神経に負担がかかっていそうかを考えていきます。

このように説明できると、患者さんの訴えを軽視せず、同時に検査所見も丁寧に扱えます。

「症状があるからこの疾患」と短絡するのではなく、症状と徴候を組み合わせて推論する姿勢が大切です。

言葉が曖昧だと、推論も曖昧になる

臨床推論では、言葉の雑さがそのまま思考の雑さにつながることがあります。

たとえば、患者さんが「痛い」と訴えているだけなのに、検査所見まで確認せずに「神経症状ですね」と言ってしまう。

逆に、検査で徴候が出ているのに、患者さんが自覚していないから問題ないと見逃してしまう。

どちらも危険です。

臨床での使い分け

症状は患者さんの困りごとを拾うために、徴候は病態を絞るために使います。両方を分けて見た上で、必要に応じて症候や症候群という枠で整理します。

言葉を分けると、評価が分かれる

症状、徴候、症候、症候群。

似ていますが、役割は少しずつ違います。

患者さんが感じている異常なのか。

検者が確認できる異常なのか。

それらをまとめて扱う言葉なのか。

複数の所見の組み合わせから病態や局在を示す言葉なのか。

この整理ができると、問診、検査、記録、説明が少し締まります。

瀬谷崎
瀬谷崎

言葉を細かく分けるのは、難しいことを言いたいからではありません。患者さんの訴えと、こちらが確認した所見を分けて考えるためです。そこが整理できると、臨床推論はかなり見やすくなります。

参考:医学用語では、一般に symptom は患者が感じる主観的な異常、sign は検者が確認できる客観的な所見として説明されます。

NCBI MedGen: Sign or Symptom

Cleveland Clinic: Signs and Symptoms

NCI Dictionary: symptom

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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