大腿筋膜張筋ばかり触っていないか。股関節・膝への影響を考える
セラピスト向け
前もも外側が働きすぎる理由を探る
大腿筋膜張筋は悪者ではありません。ただ、股関節や膝の動きを大腿筋膜張筋に頼りすぎている時、腰椎伸展痛、ニーイントゥアウト、ランナー膝、股関節応力の増加につながることがあります。
大腿筋膜張筋へアプローチする前に、なぜ大腿筋膜張筋が働きすぎる状態になっているのかを見たいです。
股関節伸展、殿筋群、腸腰筋、膝の回旋、腸脛靭帯へのストレスをつなげて考えます。
臨床で、朝から晩までやたら大腿筋膜張筋を触っている。
そんな場面は少なくありません。
大腿筋膜張筋は、股関節の屈曲、外転、内旋に関わり、腸脛靭帯を介して膝の安定にも関わります。
そのため、股関節痛、膝痛、ランナー膝、腰部の伸展痛など、いろいろな場面で名前が出てきます。
ただし、大腿筋膜張筋が触って硬いから、大腿筋膜張筋を緩めればいい。
これだけだと少し短絡的です。
大事なのは、大腿筋膜張筋が過剰に働かざるを得ない運動の背景を見ることです。
まなぶ先生
瀬谷崎
大腿筋膜張筋は股関節と膝をまたいで考える
大腿筋膜張筋は大腿前外側に位置し、腸脛靭帯と連続する筋です。
股関節では屈曲、外転、内旋に関わり、腸脛靭帯を介して膝外側の安定にも関与します。
つまり大腿筋膜張筋は、股関節だけの筋でも、膝だけの筋でもありません。
股関節から膝外側へつながる前外側ラインとして見ると、臨床での意味が見えやすくなります。
屈曲、外転、内旋に関わります。股関節伸展制限や殿筋群の出力低下とセットで見たい筋です。
大腿筋膜張筋と大殿筋が腸脛靭帯へ連続し、膝外側の張力や安定性に関わります。
膝周囲では外側支持や回旋の制御に関わります。外側膝痛やランナー膝の文脈で重要になります。
股関節伸展制限と腰椎伸展痛
大腿筋膜張筋の緊張や股関節前外側の制限が強いと、股関節伸展が出にくくなることがあります。
股関節伸展が不足したまま歩く、走る、反る、立つ。
すると、足りない伸展を腰椎で補いやすくなります。
その結果、腰椎伸展時の痛みや、腰部への過剰な反り動作につながることがあります。
- 股関節前外側が制限される大腿筋膜張筋、腸腰筋、大腿直筋、前方関節包などが関わることがあります。
- 股関節伸展が不足する歩行やランニングで後方へ脚を運びにくくなります。
- 腰椎で代償する股関節の代わりに腰椎伸展が増え、腰部に負担が集中することがあります。
- 大腿筋膜張筋だけ触っても戻る背景の動作が変わらなければ、同じ負担が繰り返されます。
この場合、大腿筋膜張筋への局所介入だけでなく、股関節伸展の再獲得、殿筋群の使い方、歩行や立位姿勢の調整まで見たいところです。
膝の回旋とニーイントゥアウトを考える
大腿筋膜張筋は大腿骨の内旋に関わります。
腸脛靭帯を介して下腿外側にも影響するため、大腿骨内旋と脛骨外旋のようなねじれが強くなると、膝周囲の負担が増えることがあります。
いわゆるニーイントゥアウトのような見え方では、膝だけでなく股関節外側の働き方も確認したいです。
ニーイントゥアウトを見た時に、膝の位置だけを直そうとすると不十分なことがあります。股関節内旋、足部の接地、骨盤の制御、殿筋群と大腿筋膜張筋のバランスまで含めて見ます。
大腿筋膜張筋が強く働いているように見えても、それは単に大腿筋膜張筋が悪いのではなく、殿筋群や腸腰筋、足部の制御がうまく使えていない結果かもしれません。
この場合、「大腿筋膜張筋を緩める」だけではなく、「大腿筋膜張筋に任せない動き」を再学習する必要があります。
ランナー膝では、腸脛靭帯を単純にこするだけでは足りない
腸脛靭帯症候群、いわゆるランナー膝では、外側大腿骨上顆付近の痛みが問題になります。
腸脛靭帯と外側大腿骨上顆周囲の圧迫や摩擦、ランニング量の変化、股関節や膝の制御、下肢アライメントなどが関わると考えられます。
大腿筋膜張筋は腸脛靭帯と連続するため、ここでも名前が出てきます。
ただし、腸脛靭帯を単純に押す、こする、伸ばすだけで十分とは限りません。
- 最近、走行距離や練習量が増えていないか
- 坂道や下り、トラック走などで悪化しないか
- 股関節外転・外旋の制御が落ちていないか
- 片脚立位や着地で骨盤が落ちていないか
- 膝外側だけでなく、股関節外側や足部も見ているか
- 大腿筋膜張筋への局所介入だけで終わっていないか
腸脛靭帯は単なる細い紐ではなく、大殿筋や大腿筋膜張筋と連続する複雑な筋膜構造です。
そのため、外側膝痛を見た時は、膝局所だけでなく、股関節外側、骨盤制御、ランニングフォームまで含めて考える必要があります。
股関節疾患では、筋バランスと関節応力も見る
股関節周囲では、腸腰筋や殿筋群の出力低下によって、大腿筋膜張筋や縫工筋、内転筋群、半膜様筋などに負担が寄ることがあります。
たとえば腸腰筋がうまく働かない場合、股関節屈曲時に大腿筋膜張筋や縫工筋などの張力が増え、前方・内方・上方への関節応力が増える可能性があります。
また、殿筋群の出力低下がある場合、伸展時に大腿筋膜張筋や半膜様筋が代償的に働き、股関節への応力が増えることも考えられます。
大腿筋膜張筋の張りを見つけた時は、腸腰筋や殿筋群が働いているか、股関節伸展や屈曲がどの筋に依存しているかを確認します。大腿筋膜張筋だけを処理しても、筋バランスが変わらなければ再発しやすくなります。
つまり大腿筋膜張筋は、結果として働きすぎていることがあります。
原因そのものというより、他の筋が担えない役割を引き受けている可能性があります。
大腿筋膜張筋から股関節・膝へ広がる影響
大腿筋膜張筋に圧痛がある。
触ると硬い。
ストレッチで伸びにくい。
それ自体は臨床上の手がかりになります。
ただし、そこで止まると「大腿筋膜張筋が悪いから大腿筋膜張筋を触る」というループになります。
本当に見たいのは、その人の動きの中で大腿筋膜張筋に何を任せているのかです。
- 股関節伸展が不足していないか
- 殿筋群が使えず、大腿筋膜張筋に頼っていないか
- 腸腰筋の出力低下を大腿筋膜張筋で代償していないか
- 片脚立位や歩行で骨盤が安定しているか
- ランニングやスクワットで膝の回旋が強くないか
- 外側膝痛を膝局所だけで見ていないか
まなぶ先生
瀬谷崎
大腿筋膜張筋を悪者にせず、頼りすぎる理由を探る
大腿筋膜張筋は、股関節と膝をつなぐ重要な筋です。
股関節の屈曲、外転、内旋に関わり、腸脛靭帯を介して膝外側にも影響します。
だからこそ、いろいろな症状で関与が疑われます。
股関節伸展制限。
腰椎伸展痛。
ニーイントゥアウト。
ランナー膝。
股関節応力の増加。
こうした場面で大腿筋膜張筋を見ることは大切です。
ただ、大腿筋膜張筋を悪者にして触り続けるだけでは不十分です。
殿筋群や腸腰筋が働けているか。
股関節伸展が出ているか。
膝や足部の制御が崩れていないか。
そこまで見て、大腿筋膜張筋に頼りすぎない動きを作ることが重要です。
瀬谷崎
参考資料
- StatPearls. Anatomy, Bony Pelvis and Lower Limb: Tensor Fasciae Latae Muscle. NCBI Bookshelf.
- Flato R, et al. The Iliotibial Band: A Complex Structure with Versatile Functions. J Anat. 2022.
- Fairclough J, et al. The functional anatomy of the iliotibial band during flexion and extension of the knee. J Anat. 2006.
- StatPearls. Iliotibial Band Friction Syndrome. NCBI Bookshelf.
- Lavine R. Iliotibial band friction syndrome. Curr Rev Musculoskelet Med. 2010.





