徒手検査の感度・特異度を読む前に。画像所見を「正解」にする落とし穴
瀬谷崎コラム
正解がずれていれば、数字もずれて見える
徒手検査の感度・特異度を見る時、数値だけを読んでいませんか。その数字は、何を「正解」として計算されたものなのか。ここを見落とすと、検査の性能を過大評価することがあります。
画像で異常があることと、いまの痛みの原因であることは同じではありません。磁気共鳴画像検査(MRI)などを正解として計算された徒手検査の精度は、臨床でそのまま使う前に読み方を考える必要があります。
徒手検査を学ぶと、感度や特異度という数字が出てきます。
下肢伸展挙上テスト(SLR)の感度は高い。
クロスドSLRテストは特異度が高い。
ドロップアームテストは腱板断裂でどうか。
マックマレーテストは半月板損傷でどうか。
こうした数字は、臨床推論を組み立てる上でとても役に立ちます。
ただし、数字を読む前に確認したいことがあります。
その研究では、何を「本当に疾患がある」と判断しているのかです。

まなぶ先生

瀬谷崎
感度・特異度には「正解」が必要になる
感度や特異度を計算するには、基準となる「正解」が必要です。
診断精度研究では、これを参照基準と呼びます。
たとえば、腰椎椎間板ヘルニアに対する下肢伸展挙上テスト(SLR)を調べる時、研究によっては磁気共鳴画像検査(MRI)所見を基準にします。
「磁気共鳴画像検査(MRI)でヘルニアがある人に下肢伸展挙上テスト(SLR)を行い、陽性なら真陽性、陰性なら偽陰性」
「下肢伸展挙上テスト(SLR)が陽性だった患者に磁気共鳴画像検査(MRI)を行い、ヘルニアが見つかれば真陽性」
こうした設計は、運動器の研究で珍しくありません。
問題は、磁気共鳴画像検査(MRI)で見つかった構造変化が、必ずしも症状の原因とは限らないことです。
もし参照基準が「画像上の異常の有無」だけなら、その検査が測っているのは「画像所見との一致」です。
でも臨床で知りたいのは、多くの場合「いまの痛みやしびれの原因として関係しているか」です。
ここにズレが生じます。
画像異常は、痛みのない人にも見つかる
椎間板ヘルニア、腱板断裂、半月板損傷、変形性関節症。
これらは、画像で見つかると「原因」に見えやすい所見です。
しかし、痛みのない人にも一定の割合で見つかります。
無症状者でも椎間板変性や膨隆、突出などの画像所見は年齢とともに増えます。
腱板断裂や腱板異常は、症状がない人にも見つかることがあります。
磁気共鳴画像検査(MRI)で半月板損傷や軟骨変化が見つかっても、痛みと必ず一致するとは限りません。
つまり、画像所見は重要な情報ですが、それだけで「痛みの原因」とは言えません。
画像は存在を示します。
臨床では、それが症状、神経学的所見、疼痛誘発、生活上の困りごとと合うかを見ます。
画像所見があるかどうかと、その所見が目の前の症状に関係しているかどうかは別です。検査精度の研究を読む時も、この違いを意識する必要があります。
その検査は、何の性能を測っているのか
ここが大事です。
磁気共鳴画像検査(MRI)でヘルニアがある人を「疾患あり」として下肢伸展挙上テスト(SLR)の感度を計算した場合、その数字は何を表しているのでしょうか。
「下肢伸展挙上テスト(SLR)が、症状の原因としてのヘルニアを見つける性能」でしょうか。
それとも「下肢伸展挙上テスト(SLR)が、磁気共鳴画像検査(MRI)上のヘルニア所見とどれくらい一致するか」でしょうか。
この2つは似ていますが、同じではありません。
| 参照基準 | 見ているもの | 臨床で注意したいこと |
|---|---|---|
| 画像所見 | 構造変化の存在 | 無症候性所見も含まれる可能性がある |
| 手術所見 | 術中で確認された構造病変 | 手術に至る集団に偏るため、一般外来とは違う可能性がある |
| 臨床診断 | 症状、所見、画像などを合わせた判断 | 判断者の経験や基準の影響を受ける |
| 患者の困りごと | 痛み、機能、生活制限 | 構造病変の有無とは一致しないことがある |
どの参照基準にも長所と限界があります。
だから、研究の数値を読む時は「感度が高い」「特異度が高い」だけで止まらず、何を正解にした数字なのかを見ます。
数字を過信すると、臨床判断が狭くなる
徒手検査の数字を知ることは大切です。
でも、数字だけで意思決定すると危うくなります。
たとえば、磁気共鳴画像検査(MRI)でヘルニアがある人を基準にした検査で陽性だったとします。
その時、すぐに「ヘルニアが原因です」と言い切ると、別の要因を見落とす可能性があります。
筋・関節由来の痛み、末梢神経障害、仙腸関節、股関節、血管性の問題、中枢性感作、心理社会的要因。
こうした要素も、症状に関係していることがあります。
検査陽性は、病態を疑う材料です。画像所見や症状の説明と矛盾がないか、他の所見で補強できるかを確認してから臨床判断に使います。
反対に、画像で異常があるのに徒手検査が陰性だった場合もあります。
その時に「検査が外れた」と見るのか。
「画像所見が症状の原因ではない可能性」を見るのか。
ここで臨床家の読み方が問われます。
徒手検査研究を読む時のチェックポイント
研究の数字を臨床に使う時は、次の点を確認すると読みやすくなります。
- 何を正解としているか磁気共鳴画像検査(MRI)、手術所見、臨床診断など、参照基準を確認します。
- 対象者は誰か手術予定者なのか、外来患者なのか、無症状者を含むのかで意味が変わります。
- 症状との一致を見ているか構造変化の有無だけでなく、痛みや機能との関係が評価されているかを見ます。
- 検査者は画像結果を知っていたか画像結果を知った状態で検査すると、判定にバイアスが入る可能性があります。
- 自分の患者に当てはまるか研究対象と目の前の患者の年齢、症状、重症度、背景が近いかを考えます。
これらを見ると、同じ感度・特異度でも、臨床での重みづけが変わります。
数字を疑うためではなく、数字を使いこなすための確認です。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、徒手検査も画像所見も大切にします。
ただし、それだけで患者さんを決めつけることはしません。
検査結果が陽性だった。
画像で異常があると言われた。
それは大事な情報です。
でも、いまの痛みやしびれ、生活で困っていること、動作での変化、神経学的所見と合っているかを見ます。
画像や検査を否定するのではなく、患者さんの症状と照合して読む。数字を覚えるだけでなく、数字が作られた前提まで見たいと考えています。
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画像も検査も、患者さんに照らして読む
徒手検査の感度・特異度は、臨床で役立つ重要な情報です。
ただし、その数字は空から降ってきた真実ではありません。
どんな患者を対象にして、何を正解として、どんな条件で検査したのか。
そこから作られた数字です。
画像所見を正解にしている場合、無症候性の構造変化が入り込む可能性があります。
だから、検査の数字を使う時ほど、画像、症状、機能、生活上の困りごとを分けて見たいところです。
大事なのは、画像を否定することでも、徒手検査を否定することでもありません。
それぞれの情報を、目の前の患者さんに照らして読むことです。

瀬谷崎
参考
- Whiting PF, et al. QUADAS-2: a revised tool for the quality assessment of diagnostic accuracy studies. Ann Intern Med. 2011.
PubMed - Brinjikji W, et al. Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. AJNR. 2015.
PMC - Minagawa H, et al. Prevalence of symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears in the general population. J Orthop. 2013.
PMC - Englund M, et al. Incidental meniscal findings on knee MRI in middle-aged and elderly persons. N Engl J Med. 2008.
PMC - Culvenor AG, et al. Prevalence of abnormal findings in 230 knees of asymptomatic adults using 3.0 T MRI.
PMC - Maher CG, et al. Musculoskeletal healthcare: Have we over-egged the pudding? Int J Rheum Dis. 2019.
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