慢性痛にTENS(経皮的電気神経刺激)を「とりあえず」使わない。電気刺激の効き方を痛みの状態から読む
症状コラム
電気を流す前に、まず痛みの状態を知る
TENS(経皮的電気神経刺激)などの物理療法は、うまく使えば痛みを下げる助けになります。ただし、慢性痛に対して「とりあえず当てる」だけでは、期待した変化が出ないこともあります。
物療は、効くか効かないかの二択ではありません。どんな痛みに、何を狙って、どの変化を見たいのか。そこを決めずに使うと、効果判定も介入方針もぼやけます。
整骨院やリハビリの現場では、TENS、干渉波、超音波、マイクロ波などの物理療法がよく使われます。
電気を流す。
温める。
刺激を入れる。
こうした介入は、患者さんにとっても「何かしてもらった感」が分かりやすいものです。
ただ、分かりやすいからこそ、臨床では注意が必要です。
痛みがあるから物療。
慢性痛だから電気。
いつもの流れで何となく当てる。
この使い方になると、物療は「治療」ではなく、ただの習慣になってしまいます。
まなぶ先生
瀬谷崎
TENSは痛みを下げることがある
TENSは、経皮的電気神経刺激とも呼ばれる鎮痛目的の電気刺激療法です。
皮膚の上から電気刺激を入れ、痛みの感じ方を変えることを狙います。
強度、周波数、パルス幅、刺激時間、電極の位置などによって、刺激の入り方は変わります。
近年は、刺激を強めに入れる高強度TENSも報告されており、急性の実験痛や一部の痛みに対して鎮痛効果が示されることがあります。
TENSは「意味がない機械」ではありません。ただし、「どんな慢性痛にも同じように効く機械」と見るのも違います。
ここで大事なのは、TENSに鎮痛効果があるかどうかだけではありません。
その痛みが、どんな状態にあるのか。
末梢の組織刺激が中心なのか。
神経系の過敏さが強いのか。
疼痛促通系が強く働いていそうなのか。
ここを見る必要があります。
疼痛促通系が強い痛みでは、効き方が変わるかもしれない
痛みの感じ方には、痛みを抑える仕組みだけでなく、痛みを強める仕組みも関わります。
この痛みを強める方向の働きは、疼痛促通系と呼ばれることがあります。
慢性疼痛では、この促通側の働きが強くなっている可能性があります。
つまり、同じ刺激でも痛みを強く感じやすい状態です。
畿央大学の研究では、健常者31名を対象に、高強度TENSがNFR(侵害受容屈曲反射)には効果を示した一方、疼痛促通系の指標として用いられるTS-NFR:Temporal Summation of Nociceptive Flexion Reflex(侵害受容屈曲反射の時間的加重)には効果を示しませんでした。
NFR(侵害受容屈曲反射)は、侵害刺激に対する反射的な反応を客観的に見る指標です。
TS-NFRは、刺激が繰り返されることで痛みの反応が増強するような、疼痛促通系の働きを見るために使われます。
この研究では、高強度TENSによってNFRは変化しました。
つまり、鎮痛的な変化は見られたと言えます。
一方で、TS-NFRには変化が見られませんでした。
この結果から、高強度TENSは痛みを下げる可能性があるものの、疼痛促通系そのものを十分に抑えるとは限らないと考えられます。
この研究は健常者を対象にしたものです。慢性疼痛の患者さんにそのまま当てはめるには限界があり、実際の疼痛患者での検証が必要です。
慢性痛では「効かなかった」の読み方も大切
慢性痛に対するTENSの研究は、結果が一枚岩ではありません。
コクランレビューの概説では、慢性痛に対するTENS研究のエビデンスの確実性は非常に低いとされています。
慢性一次性腰痛に関するWHOガイドライン作成のためのレビューでも、TENSは偽刺激と比べて短期的に小さな疼痛軽減を示したものの、効果の大きさは限定的でした。
だからといって、TENSを完全に否定する必要はありません。
ただし、慢性痛に対して「物療を当てれば改善するはず」と見込むのは危ういです。
| 見たい視点 | 物療が合いやすい可能性 | 慎重に見たい状態 |
|---|---|---|
| 目的 | 一時的に痛みを下げ、動くきっかけを作りたい | 物療だけで慢性痛を根本的に変えようとしている |
| 痛みの特徴 | 刺激部位や動作と痛みの関係が比較的はっきりしている | 広範囲の痛み、刺激に釣り合わない痛み、強い過敏さがある |
| 効果判定 | 施術後の動作、痛み、安心感の変化を確認できる | 毎回当てているが、何が変わったか評価していない |
| 次の介入 | 痛みが下がった後に運動や生活動作へつなげられる | 物療で終わり、セルフケアや行動変化につながらない |
慢性痛では、痛みの強さだけでなく、睡眠、活動量、不安、恐怖回避、生活背景も関わります。
そのため、物療の反応が乏しい時に「もっと強く当てればいい」「別の機械に変えればいい」とだけ考えると、見立てが狭くなります。
効かなかった時こそ、痛みの状態を見直すタイミングです。
「とりあえず物療」が難しい理由
物療が悪いのではありません。
問題は、評価と目的がないまま使うことです。
慢性痛の患者さんに毎回同じように電気を当て、同じように温め、同じように終わる。
これでは、患者さんも施術者も「何を目指しているのか」が分かりにくくなります。
- 痛みを一時的に下げて、何をしやすくしたいのか
- 施術前後でどの動作や感覚を比較するのか
- 効果がなかった場合、何回で方針を見直すのか
- 物療後に運動、教育、生活動作の練習へつなげているか
- 患者さんが「機械を当てないと治らない」と感じていないか
ここを決めておくと、物療は臨床判断の中に位置づけやすくなります。
反対に、ここがないと、物療は「やったこと」にはなっても、治療戦略にはなりにくいです。
まなぶ先生
瀬谷崎
物療を使うなら、出口まで決める
TENSや温熱、超音波などを使う時は、始める理由だけでなく出口も決めておきたいところです。
始める理由とは、なぜその物療を選んだのか。
出口とは、物療後に何へつなげるのかです。
たとえば、痛みが強くて動くのが怖い方に、TENSで一時的に痛みを下げる。
その直後に、恐怖が少ない範囲で動作練習を行う。
「動いても大丈夫だった」という経験を作る。
この流れなら、TENSは単なる鎮痛ではなく、行動を変えるための準備になります。
物療は、痛みを消す主役というより、評価・運動・教育・生活動作の練習につなげる補助として使うと、臨床上の意味がはっきりしやすくなります。
もちろん、禁忌や注意もあります。
ペースメーカーなどの植込み型医療機器、感覚障害、皮膚トラブル、妊娠中の使用部位、悪性腫瘍が疑われる背景などは、慎重な判断が必要です。
電気刺激に不安が強い方もいます。
「効くから我慢してください」ではなく、不快感や怖さも含めて確認することが大切です。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、物療を使うこと自体を否定していません。
ただし、物療を「毎回なんとなく当てるもの」とは考えていません。
痛みの状態を確認し、目的を決め、変化を見ます。
変化があれば、次の動作や運動につなげます。
変化がなければ、漫然と続けずに方針を見直します。
慢性痛では、痛みの回路、生活、睡眠、不安、活動量が複雑に絡みます。
だからこそ、機械に任せきりにしないことが大切です。
物療は便利な選択肢です。ただし、評価の代わりにはなりません。患者さんの痛みの状態を読み、必要な時に必要な目的で使うことを大切にしています。
こんな状態は一度ご相談ください
- 電気や温めを続けているが、慢性的な痛みが変わらない
- 物療後は少し楽だが、すぐ元に戻ってしまう
- 痛みが広範囲で、刺激に対して過敏になっている
- 痛みが怖くて、運動や日常動作を避けている
- 物療以外に何をすればいいのか分からない
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当てる前に、狙いを決める
TENSは、痛みを下げる助けになることがあります。
しかし、慢性痛では、痛みの仕組みが単純ではありません。
疼痛促通系が強く働いているような状態では、電気刺激だけで十分な変化が出ない可能性もあります。
だから、物療を使う時は、まず目的を決める。
何を変えたいのか。
どの変化を確認するのか。
変化が出たら、何につなげるのか。
そこまで考えて使うことで、物療はただの流れ作業ではなく、臨床判断の一部になります。
瀬谷崎
参考
- 畿央大学. 疼痛促通系に対する高強度経皮的電気刺激の効果.
畿央大学 - Gibson W, Wand BM, Meads C, Catley MJ, O'Connell NE. Transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) for chronic pain - an overview of Cochrane Reviews.
PMC - Resende L, Merriwether EN, Rampazo ÉP, et al. Systematic Review to Inform a World Health Organization Clinical Practice Guideline: Benefits and Harms of TENS for Chronic Primary Low Back Pain in Adults.
PMC - Johnson MI, Paley CA, Jones G, Mulvey MR, Wittkopf PG. Efficacy and safety of TENS for acute and chronic pain in adults: a systematic review and meta-analysis.
PMC





