何年も肩が上がらない、五十肩と違う肩の痛みをどう考えるか。症例をスタッフで検討

長年上がらない肩、なぜ「腱板と肩甲骨の動き」に着目したのか

1つの症例を、担当した鈴木英二先生(とんとん整骨院 東武練馬店)と、瀬谷崎・まなぶ・教子とともに検討します。10年来、上がらない左の肩。発症のしかたや動きの出かたから、凍結肩(五十肩)とは違う、腱板と肩甲骨の動きに出どころを見た判断について、所見という事実と、経過という結果から、その妥当性を確かめていきます。

とんとんでは、1つの症例を担当者だけの判断で終わらせず、スタッフ同士で検討して見方を確かめています。今回は、シッターの仕事をする50代の女性。10年来、左肩が上がらず、洗髪や帯を結ぶ動作ができない方の症例です。事実と結果から見ていきます。

症例カルテ:長年上がらない肩、腱板と肩甲骨の動きに着目
今回検討する症例(担当:鈴木先生)。詳しい経過は症例レポートに掲載しています。
事実:所見と経過

主訴=左肩が上がらない、痛み(50代・女性)。背景=シッターの仕事で腕をよく使う。10年来、上がらない状態が続き、洗髪・結髪・帯を結ぶ・腕を上げる動作ができない。整形外科では特に異常なしとの結果。マッサージでは緩和しなかった。所見=肩関節の外転45度・屈曲90度の制限、帯を結ぶ動作の制限、僧帽筋上部の弱化。とらえ方=肩を動かすときに、三角筋による上方への滑りと棘下筋による前方への滑りが起き、さらに肩甲骨の上方への回りが小胸筋・肩甲挙筋に妨げられていたと考えた。対応=三角筋・棘下筋への手技で滑りを抑え、肩甲骨の上方回旋を妨げる肩甲挙筋・小胸筋への手技、前鋸筋・僧帽筋下部のトレーニングで肩甲骨の上方回旋を働かせる。経過=洗髪・結髪・腕を上げる動作がしやすくなってきた。現在は再発予防を継続。
※経過には個人差があり、すべての方に同じ変化を保証するものではありません。気になる症状は医療機関への受診もご検討ください。

何年も上がらない肩、原因は腱板と肩甲骨の動きか

主訴は10年来、上がらない肩。けれど鈴木先生は、肩の関節そのものより、腱板と肩甲骨の動きに出どころがあるのではないか、と考えました。その根拠を確かめます。

鈴木先生鈴木先生

主訴は10年来、左肩が上がらないことでした。所見をとると、腕を上げるときに肩の骨が滑って収まりが悪く、肩甲骨の上方への回りも妨げられていました。肩の関節そのものより、腕を上げる土台となる腱板と肩甲骨の動きに出どころがあるのではないか、と考えました。

まなぶ先生まなぶ先生

肩が上がらないと聞くと五十肩を思い浮かべます。それでも腱板や肩甲骨に目を向けたのはなぜですか。

鈴木先生鈴木先生

腕を上げる動きは、腕の骨が関節に収まりながら、肩甲骨が上へ回って初めてスムーズになります。この方はその収まりと肩甲骨の回りが崩れていて、上げる土台が働いていなかった。だから上がらない、という像が所見と一致したんです。

五十肩とは違うのか。腱板と肩甲骨の動きで分ける

「肩が上がらない」は原因を分けたいところです。教子先生がそこを確認しました。

教子先生教子先生

肩が上がらないと、凍結肩(五十肩)や腱板の断裂も思い浮かびますよね。そこは分けられていましたか。

鈴木先生鈴木先生

そこは確認しました。凍結肩のように全方向が一様に固まって夜間痛が強い、という出かたではなく、急に力が入らなくなる断裂を思わせる所見もありませんでした。腕を上げる動きで滑りと肩甲骨の回りが崩れる、という特徴だったので、腱板と肩甲骨の動きの問題として進めました。鑑別が必要なときは医療機関での画像評価もご検討いただく前提です。

瀬谷崎瀬谷崎

『肩が上がらない』でも、関節が固まる凍結肩、腱が切れる断裂、動きの土台が崩れるもの、と分けたいですよね。全方向の制限や夜間痛、急な脱力を外したうえで、滑りと肩甲骨の回りに絞る。長年続いていたのも、土台が崩れたまま固定化していたと考えると筋が通ります。順序が妥当だと思います。

腕を上げる土台を整える介入と経過

肩そのものを上げにいくのでなく、土台から、というのが今回の要点でした。

まなぶ先生まなぶ先生

肩そのものでなく、滑りと肩甲骨の動きから整えていったんですね。

鈴木先生鈴木先生

はい。腕の骨が滑りすぎないよう三角筋や棘下筋を整え、肩甲骨の上方への回りを妨げる筋肉をゆるめました。そのうえで肩甲骨を上へ回す筋肉を働かせています。洗髪や結髪、腕を上げる動作がしやすくなってきました。腕をよく使う仕事なので、肩まわりのケアを続けてもらっています。

瀬谷崎瀬谷崎

腕を上げる土台を、腱板の収まりと肩甲骨の回りから立て直しているのが要点ですね。土台が働けば、肩は上げやすくなる。長年の症状でも変わってきた経過が、その方向を支持しています。ただ腕をよく使う方なので、続ける前提で見ていきたいところです。

考察:腱板と肩甲骨の動きからとらえる長年上がらない肩

所見という事実(腕を上げるときの骨の滑り・肩甲骨の上方回旋の妨げ・外転と屈曲の制限)と、経過という結果(洗髪や結髪、腕を上げる動作がしやすくなったこと)。この両方が、「凍結肩とは違う、腱板と肩甲骨の動きに出どころを見た」という見立ての妥当性を支えています。同じ『上がらない』でも、関節が固まるもの、腱が切れるもの、動きの土台が崩れるものは分けて考える。鑑別を外したうえで、土台から整える。この症例では、その姿勢が妥当だったと言えます。

※本記事は実際の症例をもとにスタッフで検討したものです。経過には個人差があり、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。強い痛みやしびれ、安静時にも続く痛み、力が入りにくいなどがあるときは、医療機関への受診もご検討ください。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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