肘内障の整復がうまくいかないとき。粘るか、整形外科へ送るかの判断
セラピスト向け
整復できなかった肘内障、次の一手の選び方
肘内障(ちゅうないしょう)のお子さんに整復を試みたものの、うまくいかなかった。話を引き継いだ立場なら、もう一度自分の手で試みるか、それとも整形外科へ送るか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった相談をもとに、粘るか送るかの判断を考えます。
相談者が別店舗へヘルプに入った日、肘内障のお子さんが来院しました。対応したのは、整復の経験が何回かあるスタッフです。回内法・回外法のどちらも試み、クリック音は確認できたものの、お子さんは腕を上げられないままでした。
何度か腕を動かされたお子さんは「もう嫌だ」という様子になり、付き添いのお母さんにも不信感がにじむ状況。そこで話を引き継いだ相談者は、自分での再挑戦を選ばず、その日のうちに整形外科への受診を勧めました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎「肘内障は簡単」という印象のほうを疑う
肘内障は、徒手整復で比較的すぐに解決することの多いケガです。だからこそ、自分が経験した数件がたまたま全部一発で入っていると、「簡単なもの」という印象ができあがります。
瀬谷崎自身も経験は4〜5件ほどで、すべて一発で整復できていました。ただ、ここ数年で難治例や手術適応となる例があることが治療家の間でも知られてきており、「奇跡が続いていただけかもしれない」と捉え直したといいます。
- 経験した症例がたまたますべて一発で入っていると、難易度を低く見積もりやすい
- 難治例や手術適応例の存在が認知されてきたのは比較的最近
- 引っ張られた明確なエピソードがなく、転倒などから発生することもある
- 小さなお子さんは患部を言葉で示せず、骨折との切り分けが必要な場面がある
今回のお子さんも、過去に何度か肘内障を繰り返していて、初回は整形外科でもすぐには整復に至らなかった経緯があったそうです。一度で入るのが当たり前、とは言えない相手だったわけです。
失敗のあとの再挑戦は、成功率だけでは測れない
引き継いだ側には、自分の手なら入るかもしれないという気持ちが働きます。実際、ここで整復できれば信頼は回復に転じます。問題は、入らなかった場合です。
お子さんの恐怖はさらに強まり、お母さんの不信感は担当者個人ではなく院全体への評価として固まりかねません。再挑戦するかどうかは、成功したときに得るものと、外したときに失うものの両方で見る必要があります。
再挑戦して入れば、信頼は回復に向かいます。ただし外せば、子どもの恐怖と保護者の不信は一段深くなります。信頼関係がすでに揺らいでいる場面では、整形外科への紹介が、失うものの少ない選択になります。
迷ったときの動き方を、今回の対応に沿って並べるとこうなります。
- 状況の聞き取り誰が・どの方法で・何回試みたか、クリック音の有無、いまの腕の使い方を確認します。
- 再挑戦か紹介かの判断自分の成功見込みと、外した場合にお子さんと保護者が受ける影響を比べます。
- 保護者への説明経過を率直に伝え、医科での対応を提案します。担当者を責める言い方は避けます。
- 受診先の確保と結果の確認できれば当日中に受診してもらい、整復されたかどうかまで連絡を受け取ります。
今回のケースでは、その日の午後に整形外科を受診でき、無事に整復されたという連絡ももらえています。結果から見ても、紹介は妥当な判断でした。
うまくいかない日は、誰にでも来る
今回整復にあたったのは、経験が何回かあるスタッフでした。それでも入らないときは入らない。個人の腕の問題に落とし込む話ではなく、肘内障というケガ自体が持っている幅の問題です。
失敗談を出し合ってみると、経験のある先生からも似た話が出てきます。受傷の状況がはっきりせず、骨折を疑って固定したうえで病院へ送ったら肘内障だった、という例もありました。引っ張られて起こるという典型のイメージだけでは、現場の実像は拾いきれません。
新人に経験を積ませたい場面かどうかも、同じ物差しで考えられます。整復の経験自体は積ませたい。ただ、信頼が揺らいでいる場面は練習の場ではありません。相談者も、今回は新人に任せなくてよかったと振り返っています。
送る判断も、対応の質のうち
紹介を選ぶと、その場では何も解決していないように見えます。ただ今回のように、確実に対応できる医療機関へつないだ結果、当日中に整復が済み、治ったという報告まで届く。これは施術で解決した場合と同じくらい、患者さんのためになった対応です。
腕が足りないから送るのではなく、その場面で失うものが最も少ない選択として送る。この考え方が院の中で共有されていれば、担当者は失敗を隠さず相談でき、次の動きも早くなります。
整復手技そのものの手順や力加減には触れていません。肘内障の整復は、講習や実技指導のもとで習得することを前提にしています。また、難治例や手術適応の具体的な条件は医科の判断領域です。
瀬谷崎




