検査で確定できない病態を患者にどう説明するか。除外できたところまで伝える
セラピスト向け
説明は、確かめられた範囲で組み立てる
評価を尽くしても、原因を1つに絞りきれない痛みがあります。検査で白黒つかない病態を、患者さんにどう説明するか。深殿部症候群(ディープ・グルテアル・シンドローム、DGS)の線維性バンドを例に、とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に出た検討をたどります。
題材は、DGS(深殿部症候群)の一因とされる線維性バンドです。坐骨神経と坐骨結節、あるいは梨状筋と坐骨神経が、線維性の組織で物理的につながっている状態を指します。厄介なのは、次のような確認のしにくさです。
- 開いてみないと本当のところは分からない
- エコー(超音波)でも部位が深いために描出しづらい
- 通常の画像検査で確定しにくく、保存療法で改善したという研究報告も現時点では見当たらない(改善の報告はいずれも外科的処置によるもの)
詳しくはDGS(深殿部症候群)という名前が臨床を変えるで扱っています。
つまり、疑うことはできても確定はできない。この宙ぶらりんの状態を、評価・紹介・患者説明の3つの場面でどう扱うかが、この回の論点でした。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎変異があるから痛むわけではない
共有されたのは、坐骨神経の解剖学的な変異と症状の相関を調べたデータでした。あくまでカンファレンスで紹介された数値です。
- 梨状筋症候群に近い症状が出た人: 変異のある神経で1050人中17人ほど、正常な神経でも633人中の1割弱で、大きくは変わらない
- 坐骨神経痛のある人の割合: 変異ありでおよそ22パーセント、正常でおよそ25パーセントと近い数字
- カルテに殿部痛と記載された人: 変異ありが33パーセント前後、正常が34パーセント前後で、ほとんど差が見られない
変異があるから症状が出るわけでも、症状がないから変異がないわけでもない、という受け止め方の土台になります。
線維性バンドや解剖学的変異は、原因を言い当てるための札というより、動きの反応を見て「これは違うな」と外していくための判断材料として持っておく。そう位置づけると、評価の見通しがつきやすくなります。
初回の説明は、大づかみでよい
初回から個々の筋名や病態仮説を細かく並べる必要はありません。「このあたりの筋肉に負担がかかっている状態です」程度の説明で施術を始め、反応を見ます。
評価が進むほど説明は具体的にできますが、確定していない段階で細かく語るほど、後で修正が必要になったときの負担も増えます。まずは大づかみに置いておくのが無難です。
頭打ちになったら、精査の提案に切り替える
- 頭打ちが切り替えの合図評価的な介入をひと通り行っても改善が頭打ちになる。そのときが説明を切り替えるタイミングです。
- 精査を提案して医療機関へつなぐ「他にも原因が考えられますが、ここでは少し見切れない可能性があるので、一度詳しい検査を受けてみませんか」と伝えます。
- 介入を尽くしたこと自体が紹介の根拠線維性バンドのように保存療法の報告が見当たらない病態は、消去法でたどり着く落としどころとして扱います。
線維性バンドらしいからといって、すぐにオペが必要という意味ではありません。正確に言えば、オペで改善した報告しか存在しない、という言い方が適切かなと思います。
神経の滑走性が改善したり、運動療法で疼痛の閾値が上がったりして、バンドがあっても楽になる人もいるだろう、というのが検討での見立てでした。症状の強さと相談しながら、外科という選択肢を提示するかどうかを見極めることになります。
紹介先の当てを持っておくことも実務です。確定しにくい病態ほど、診てくれる医師は限られます。
こちらから「線維性バンドの可能性があるのでMRI(磁気共鳴画像)を」と指定するわけにもいかないので、詳しい医師を前もって把握しておき、そこへ送る。それが現実的な範囲だという話でした。
「除外できたところまで」を患者さんと共有するのが軸です。分かっていないことを覆い隠すのではなく、ここまでは確かめて違った、残る候補はこれ、と評価の足取りをそのまま渡す。これなら確定していなくても、説明は誠実に成立します。
誘発動作の違いを手がかりにする
検査で線維性バンドを絞り込むことはできません。どの検査に引っかかっても、可能性は残り続けます。それでも、疼痛を誘発する動作の違いは、優先順位をつける手がかりになります。カンファレンスで挙がった感覚的な目安は次の通りです。
- 線維性バンド: 牽引や伸張のストレスで痛みが出やすい印象
- 坐骨結節と小転子のインピンジメント(挟み込み): 伸張よりも物理的な圧迫のストレスで誘発されやすい
- 等尺性収縮で症状が出れば筋由来の可能性が少し上がるが、それで線維性バンドを外せるわけではない
病態から当たりをつける、という水準の話です。
除外を並行して回し続ける
1つの病態に寄りかからないことも確認されました。線維性バンドを疑う場面では、腰部疾患のスクリーニングを先に済ませることが前提で、原因が2か所で重なるダブルクラッシュ症候群は、初診の評価段階で毎回疑って確かめます。
除外は一度で終わるものでもなく、疼痛の範囲によっては改めて疑い直すこともあります。確定できない候補が残っている間も、除外の手を動かし続ける。説明が「分からない」で行き詰まらずに済むのは、評価が回り続けているからです。
- 初回は「この部位に負担がかかっている」程度の大づかみな説明から始める
- 解剖学的変異と症状はほぼ相関しないと踏まえ、名前を独り歩きさせない
- 評価的介入をひと通り行って頭打ちなら、「念のため詳しい検査を」と精査を提案する
- 線維性バンドらしくても、外科は症状の強さと相談して提示する選択肢の一つと扱う
- 確定しにくい病態に対応できる紹介先を、前もって把握しておく
- 除外できたところまでを患者さんと共有し、評価の足取りを渡す
確定できない病態こそ、説明の段取りが技術になる
検査で確定できない病態は、これからも臨床に残り続けます。初回は大づかみに、頭打ちで精査の提案に切り替え、除外できたところまでを共有する。診断の空白を段取りで支えるこの運用は、線維性バンドに限らず、確定しにくい病態全般に応用できます。
瀬谷崎





