背屈が0度まで出ないランナー。関節か腓腹筋かを分けて、狙って伸ばす
セラピスト向け
膝を曲げると背屈が入る。その一点が、伸ばす場所を決める
痛みはないのに、足関節の背屈だけが出なくなったマラソンランナー。ストレッチを続けても変わらないとき、原因を関節に置くか筋に置くかで、伸ばす場所が変わります。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった一例をもとに、切り分けと選択的なストレッチの考え方をたどります。
痛みはないのに、足関節の背屈だけが出なくなる。マラソンランナーにときどき起こる相談です。
この方は1日に15キロから20キロを走るランナーで、1年ほど前から背屈が0度まで届かなくなっていました。自動運動やストレッチを1ヶ月ほど続けても変化が出ず、どこにアプローチすればよいか分からないという状況でした。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎膝を曲げると背屈が戻る。その一点が示すもの
この方は膝を伸ばした状態だと背屈が1度2度ほどしか出ませんが、膝を曲げると背屈が入り、左右差も小さくなります。ここが評価の分かれ目になります。
腓腹筋(ひふくきん)はふくらはぎの表層にあり、膝とアキレス腱の両方をまたぐ二関節筋です。膝を伸ばすと引き伸ばされて張り、膝を曲げるとゆるみます。だから膝屈曲で背屈が戻るなら、制限しているのは腓腹筋のタイトネスだと考えやすくなります。
反対に、関節包性の制限なら、膝の曲げ伸ばしで背屈量は変わりません。膝を伸ばした状態と曲げた状態で背屈を比べる背屈テストは、この切り分けにそのまま使えます。
- 膝伸展位では背屈が出ないが、膝屈曲位では背屈が入る → 腓腹筋(二関節筋)のタイトネスを疑う
- 膝の曲げ伸ばしで背屈量が変わらない → 関節包性の制限を疑う
- 底屈時の痛みや受傷歴がない → 外傷に由来する足関節の問題は考えにくい
- 背屈時に痛みがなく可動域制限だけ → 疼痛回避ではなく、伸張性の問題として見ていく
ストレッチしてもアキレス腱ばかり突っ張る理由
この方はストレッチを続けても背屈が変わらず、伸ばすとアキレス腱ばかりが突っ張ると訴えていました。腓腹筋を狙っているつもりが、手前のアキレス腱に伸張が逃げている状態です。
ストレッチでは、硬い組織よりも相対的に柔らかい組織から先に伸びます。腓腹筋の筋腹が強く硬いと、それより伸びやすいアキレス腱が先に引き伸ばされ、腱の突っ張り感だけが出てしまいます。
腱は筋腹のような収縮要素を持たないので、伸ばしても長さそのものは大きく変わりにくい組織です。滑走性が上がることはあっても、背屈の可動域が伸びにくいのはこのためだと考えられます。
腱の伸び方や滑走性には個人差があり、ここは感覚的な部分も含みます。アキレス腱そのものの痛みが主訴なら、かかとの後ろの痛みとして原因を分けて考える視点が要りますし、捻挫のあとに残る腱の痛みなら距骨下関節から遺残症状を評価する見方も別に必要になります。
筋腱移行部を固定して、腓腹筋を狙って伸ばす
腓腹筋を選んで伸ばすには、伸張が手前のアキレス腱に逃げないよう、筋腱移行部を固定してから背屈させる考え方が使えます。パートナーで行う方法と、セルフで行う方法を挙げてみます。
- パートナー・まずは一般的な形を確認するアキレス腱のストレッチでは、かかとを固定して前腕で足底を押し、背屈させるのが一般的です。この形だと、狙う前にアキレス腱が先に伸びてしまいます。
- パートナー・移行部より上に伸張を集める反対の手で腓腹筋の筋腱移行部あたりを押さえておき、もう一方の手で足関節を背屈させます。移行部より上に伸張を集めることで、腓腹筋を狙う形に近づきます。
- セルフ・背屈位でタオルを締める足関節を背屈位にした状態から始め、結び目が筋腱移行部に当たるようタオルをしっかり締めます。移行部から先へ伸張が逃げにくくなります。
- セルフ・膝を伸ばして腓腹筋を伸ばす膝屈曲・足関節背屈位でタオルを締めたところから、膝をゆっくり伸ばしていきます。二関節筋である腓腹筋に伸張を集める操作です。
いずれも背屈時に痛みが出ない範囲で、じわじわと行います。その場での大きな可動域拡大を急ぐより、伸ばす場所が腓腹筋に合っているかを確かめながら進めたいところです。
ハムストリングスのタイトネスも見ておく
この方はハムストリングスも硬く、SLR(下肢伸展挙上テスト)で45度ほどでした。ハムストリングスの張りは腓腹筋の負担を相対的に高める方向に働くことがあり、そちらの柔軟性を上げておくのも一手として挙がりました。
背屈が0度まで届かない強い制限が1年で完成した背景は、この一例だけでははっきりしません。膝の既往が落ち着いたあとに生じている点も含め、経過を追いながら伸ばす場所の当たりを確かめていく段階です。
伸ばす場所を、腓腹筋に合わせる
背屈が出ないランナーでも、膝を曲げると背屈が入るなら、制限の主役は腓腹筋に絞り込めます。アキレス腱に伸張が逃げているなら、筋腱移行部を固定して腓腹筋へ伸張を集める。評価で場所を決めてから伸ばすことで、続けても変わらなかったストレッチの当たりを変えられます。
瀬谷崎




