両手中指の朝のこわばり。TOSの診断基準と圧刺激つきULTTで評価する
セラピスト向け
誘発テストが決め手を欠くとき。TOSは診断基準と確認検査で考える
朝起きると両手の中指がこわばる。リウマチの検査は問題なく、手根管症候群の所見もそろわない。TOS(胸郭出口症候群)を疑いたくなるのに、決め手を欠く。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった相談をもとに、非典型例の評価の進め方を紹介します。
相談の例は50代後半の女性です。朝起きたときに両手の中指がこわばり、左手は動かしているうちに楽になる一方、右手は日中もこわばりが続きます。しびれは肘から前腕にかけて出ており、エリアとしてはC6〜C7(頚椎6〜7番)の周辺でした。
50代で朝のこわばりといえば、まず関節リウマチを考える場面です。ただこの方は検査で問題がなく、指の腫脹もなく、エコー(超音波画像検査)でも炎症反応が出ていません。リウマチらしさは乏しい。では次に何をどう疑うか、が今回の論点です。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎所見がそろわないとき、何が残っているか
この例で確認されていた所見を並べます。
- リウマチの検査は問題なし。指の腫脹なし、エコーで炎症反応なし
- チネル徴候・ファレンテストは陰性で、手根管症候群の典型像に合致しない
- スパーリングテストなど頚部の誘発テストは陰性、牽引でも変化なし
- モーリーテストは陽性、肩甲帯を引き下げると症状が誘発される
- 前腕の伸筋群を押さえながら動かすと症状が一時的にやわらぐ
モーリーテスト陽性などからTOSを疑い、首まわりへの施術を続けたところ、モーリーテストは陰性化し、肘のしびれは消えました。
ただ、ペインスケールで10から4まで下がった症状が、来院のたびに8ほどまで戻り、指のこわばりだけが残ります。TOSと考えたいのに確証が持てない。ここで評価が止まった、という相談でした。
誘発テストの数字は、除外にも確定にも使いにくい
TOSにはモーリー、アドソン、ライト、エデンといった有名な誘発テストがあります。ところがこれらは、文献によって感度・特異度の数字が大きくばらつくことで知られています。
理由のひとつは研究の組み立てにあります。感度を調べるには「この人は確かにTOSだ」という患者群を集めてテストの陽性率を見る必要がありますが、そのTOSと判断した基準自体が曖昧な研究が少なくありません。すると感度の数字は当てにできず、テストが陰性でも除外の根拠にできません。
一方の特異度は、安定して低い報告が多い印象です。つまり健常な人に行っても陽性が出やすい。陽性だからTOS、という確定の使い方も難しいわけです。
モーリー・アドソン・ライトなどの誘発テストは、感度の根拠が弱いため陰性でも除外に使えず、特異度が低いため陽性でも確定に使えません。参考所見にとどめ、これだけでTOSかどうかを判断しない扱いが無難です。
診断基準に照らして考える
瀬谷崎がTOSを検討するときに軸にしているのは、誘発テストではなく診断基準です。おおまかには次の条件を確認します。
・症状が単一の頚神経根や末梢神経の分布を超えて広がっている
・症状が少なくとも12週間にわたって存在している
・他の疾患で十分に説明できない
注目したいのは、この基準にモーリーもアドソンもライトもエデンも登場しないことです。有名な誘発テストが一文字も出てこない。それだけテストの信頼性が低く見られている、と読むこともできます。
今回の例を基準に置いてみると、リウマチでも手根管でも頚部でも説明がつかず、症状は単一の神経分布を超えて広がり、経過も長い。誘発テストの陽性・陰性に振り回されるより、この照合のほうがTOSとして扱う判断に根拠を持たせやすくなります。断定はできなくても、検討の足場としては確かです。
まなぶ先生
瀬谷崎圧刺激を加えたULTTで、絞扼が疑われる部位を絞り込む
ULTTは神経に伸張ストレスをかけて症状の再現を見るテストですが、健常者でもだいたい痛みが出ます。単独の陽性所見だけで判断するには弱く、使い方に工夫が要ります。
発想はこうです。神経のどこかで感作が起きていると、普段なら問題にならない程度の滑走不全でも症状が出ます。ならば、走行上の怪しい部位に圧刺激を加えて条件を変えたとき、症状がどう動くかを見れば、関与している部位を推定できるはずです。
- 障害が疑われる神経を推定するULTTで症状が再現されるかを神経別に確認します。イーストテスト(腕を挙げた姿勢でグーパーを繰り返す誘発テスト)も併せて使います。
- 走行上の絞扼好発部位に圧を加える推定した神経の走行上にある典型的な絞扼部位(正中神経なら円回内筋など)を押圧します。
- 圧を保持したままULTTを再検する症状が減弱すれば、その部位の滑走不全が症状に関与している可能性が高いと考えます。
とんとんでは、この「原因と疑う組織を押圧しながら症状の増減を確かめる検査」をANOテスト(エーエヌオーテスト)と呼んでいます。呼び名は院内のものですが、やっていることは押圧で条件を変える確認検査で、特別な道具は要りません。
施術は持続圧と神経滑走運動の組み合わせで
圧刺激で症状が減った部位が見つかったら、そこが施術対象です。やり方はふたつ。トリガーポイント治療のように持続圧で保持するか、疼痛が消える圧を保ったまま、さきほど痛かった動作を繰り返してもらうかです。ぐりぐりと揉み込むような刺激は使いません。
たとえば上腕三頭筋への押圧で痛みが消えるなら、押さえたまま動作を反復してもらい、手を離して動きやすさが残るかを確認します。押さえる場所と動きが決まっているので、患者さん自身のセルフケアにも移しやすい方法です。
この圧刺激と滑走運動の組み合わせは、TOSや頚椎症の治療法として一般に確立したものではありません。臨床での介入成績が良好という手応えをもとにした方法なので、症状の変化を確認しながら慎重に使う位置づけです。
基準に照らし、圧で確かめる
非典型例では、誘発テストの陽性・陰性を追いかけるほど判断が揺れます。診断基準で疾患の枠を検討し、圧刺激つきのULTTで部位を確かめる。この二段構えなら、テストの数字に振り回されずに評価と施術をつなげられます。
なお、両手に症状が出る例では別の疾患が背景に隠れていることもあります。医科での検査結果を先に確認しておくことが、この評価の前提になります。
瀬谷崎





