43歳の頸椎神経根症。無症候性への移行という目標設定と、胸郭から始める優先順位
セラピスト向け
画像の変性と症状は別で考える。神経根性の頸椎症に置く現実的なゴール
43歳男性、1ヶ月前から右上肢の症状が続き、痛み止めが効いていない。医療機関の画像では椎間孔の狭小化が複数箇所にあり、神経の圧迫が疑われている。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、頸椎神経根症の目標設定と介入の優先順位を考えます。
相談されたのは、月1回ほどのペースで来院していた43歳男性の症例です。数日のうちに右上肢の症状が出はじめ、発症から早い段階で来院。相談の時点で発症から約1ヶ月がたっていました。きっかけとして思い当たることはなく、突発的な出方だったといいます。
医療機関での画像評価はすでにあり、椎間孔が3カ所で狭小化して神経の圧迫が疑われる所見でした。痛み止めは効いておらず、一方で動作によってはっきり痛みが誘発されるわけではない、という経過です。検査所見は次のとおりでした。
- スパーリングテスト(頸部への圧迫で症状の再現をみる検査)陽性
- 頸部離開テスト(頭部を持ち上げて症状の軽減をみる検査)陽性
- ULTT(上肢の神経伸張テスト)は橈骨神経のバイアスで陽性
- EASTテスト(TOS=胸郭出口症候群の誘発検査のひとつ)は陰性。ただしアドソンテストの肢位や、伸展・側屈で症状が増悪
- MMT(徒手筋力検査)と腱反射は左右差なし
- 腕を挙げた位置がいちばん楽
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎43歳の突発発症を、どう読むか
頸椎症としては43歳はやや若い印象があります。ただ検討の場では、頸椎症は突発的に出ることがあり、たとえば転倒をきっかけに発症する例もあるという臨床印象が共有されました。もともと無症候性だった頸椎症が、何かのきっかけで症候性に切り替わることがある、という見方です。
本例はMMTも腱反射も左右差がなく、明らかな麻痺の所見は出ていません。医療機関での画像評価が済んでいることも、施術側としては大きな安心材料です。逆にいえば、筋力低下や反射の変化が新たに出てきた場合は、施術を続ける前に医師の診察へ戻す場面だと考えます。
誘発と軽減の方向がそろっているかを見ます。本例は圧迫(スパーリング)で増え、離開と挙上で減る。この一貫性が、神経根性と考えて矛盾しないという読みを支えています。
目標は変性を消すことではなく、無症候性への移行
ここが今回の相談のいちばんの論点です。椎間孔の狭小化のような変性そのものを、徒手の施術で元に戻すことはできません。一方で、画像上の変性があっても症状のない人は多くいます。だとすれば僕らの目標は、変性を消すことではなく、症状が出ない状態、つまり無症候性の頸椎症へ移行させることになります。
変性は消せなくても、症候性から無症候性への移行は目指せる。頸椎神経根症に対する徒手療法の現実的なゴールは、ここに置きます。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎優先順位は、上位胸椎・胸郭と上部頸椎の可動性から
検討で示された優先順位は明確でした。まず上位胸椎と胸郭の可動性、そして上部頸椎の可動性の確保です。隣接する部位が動くようになれば、患部の頸椎に集まっていたストレスを減らせるという考え方です。
具体的には、仰向けで膝を立てたり枕を入れたりした肢位での胸椎・胸郭のモビライゼーション(関節可動性を引き出す徒手操作)が挙がりました。必要があれば小胸筋への介入も候補になります。あわせて、後頭下筋群や肩甲挙筋、僧帽筋上部といった頸部周囲の筋の緊張緩和も行います。介入する箇所は、患部の周囲に広めに取る印象です。
年齢の読みも介入方針に直結します。高齢の方ではこうした可動域の改善が難しいことも多い一方、40代であればまだ可動域が上がってきやすいという臨床印象が共有されました。だからこそ本例では、可動性の確保に積極的に取り組む価値があるという判断です。
- 隣接部の可動性を確保する上位胸椎・胸郭と上部頸椎の可動性を優先。仰向けで膝や枕を使った肢位での胸椎・胸郭モビライゼーションが中心です。
- 周囲の筋の緊張を緩める後頭下筋群・肩甲挙筋・僧帽筋上部など。必要に応じて小胸筋も対象に加えます。
- 症状が落ち着いたら神経モビライゼーションテンショナー(神経に張力をかける手技)とスライダー(神経を滑走させる手技)を、疼痛が誘発されない範囲で少しずつ導入します。
- 左右差で到達点を確認する神経伸張テストの左右差が目立たなくなってきたかを、ひとつの目安にします。
判断の物差しは、その場の変化より数週間の経過
発症から1ヶ月続いている症例です。検討では、その場でのビフォーアフターに固執しないほうがよい、という指摘がありました。突発的に起きる頸椎症は症状が長期にわたることが少なく、適切な介入ができればスムーズに経過しやすいという臨床印象がある一方で、判断の物差しは施術直後の変化ではなく数週間の経過に置きます。3ヶ月ほどあれば予後の見通しが立ちそうだ、という読みでした。
通院頻度は、それまでの月1回から、可能であれば週2回程度を2〜3週間という提案が挙がりました。運動療法は、頸部から離れた部位から先に始めます。本例は上肢の動作で症状が誘発されないため、頸部を直接動かすのではなく、僧帽筋まわりを狙った上肢の運動を、疼痛が誘発されないことを確かめながら取り入れ、症状の慢性化を防ぐ狙いです。相談の場では、この方針で経過をみていくことになりました。
瀬谷崎





