70代後半の腰曲がり、どこまで改善を見込むか。スウェイバック姿勢の予後と優先評価筋
セラピスト向け
寝るとまっすぐ、立つと曲がる。高齢スウェイバックの伸びしろの見立て
痛みはなく、主訴は「腰の曲がりを伸ばしたい」。70代後半の女性で、臥位ではまっすぐ伸びるのに、立つと後ろへ倒れそうになり太ももに手を添えてしまう。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに挙がった相談をもとに、高齢のスウェイバック姿勢の予後の読み方と、優先して評価したい筋を検討します。
相談されたのは70代後半の女性の症例です。痛みの訴えはなく、主訴は腰の曲がりを伸ばしたいというもの。清掃の仕事を現役で続けていて、トイレ掃除などで長時間の中腰が日常になっています。
立ち姿勢では股関節の並びは保たれ、腰椎から曲がる形。臥位になるとまっすぐ伸びます。骨粗しょう症の薬を処方されている方です。
- 臥位ではまっすぐ伸びる。立位では腰椎から曲がり、股関節の並びは保たれている
- 体を起こすと後ろへ倒れそうで、大腿部に手を添えて支えている(スウェイバック方向の怖さ)
- 下部の肋骨が異様にせり上がっている
- 下半身のMMT(徒手筋力検査)は腸腰筋・臀筋群で3程度
- 骨粗しょう症で服薬中。初回はハイボルト(高電圧の電気刺激)を広背筋・腹斜筋に当て、直後の30秒ほどは体が起きた
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎臥位で伸びるかどうかが、予後の読みを分ける
検討でまず重視されたのは、臥位でまっすぐ伸びるという一点でした。脊柱の並びが構造的に固まって曲がっているのなら、寝ても伸びません。伸びるということは、抗重力位で姿勢を保持する筋機能の問題が主体で、変化の余地が残っていると読めます。
一方で制約もはっきりしています。70代後半で骨粗しょう症の服薬中となると、胸椎の後弯に手を付けたくても、胸郭や肋骨への直接的な徒手介入は骨のリスクが怖い。検討でもこの前提が共有され、運動療法を主体に組む方針になりました。骨の管理は医師の領分なので、経過中に背部の痛みが出たときは圧迫骨折を疑う検査を挟み、受診の確認を施術より先に置きます。
臥位でまっすぐ伸びるかどうかは、曲がりが筋機能由来か構造由来かを分ける手がかりです。本例は伸びる側で、変化を狙う前提が立ちます。
スウェイバックのアライメントから、優先評価筋を導く
スウェイバック姿勢のアライメント(骨の並び)を側面から見ると、胸椎が後弯し、腰椎が平坦になり、人によっては骨盤が後傾し、それに伴って股関節が伸展し、膝が伸び、足関節が背屈位になります。このとき脛骨は前方へ倒れています。
この並びを止められない筋はどれか、と逆算すると優先評価筋が挙がります。脛骨の前方傾斜を制動できない腓腹筋・ヒラメ筋の筋力低下。股関節を適切に屈曲位へ保てない腸腰筋。体幹の後面では、多裂筋を含む起立筋です。検討では、腓腹筋よりヒラメ筋の優先度を高く見たいという意見でした。
前面の腹筋群だけは逆向きに見ます。下部の肋骨がせり上がっている本例の見た目からは短縮している可能性のほうが高く、鍛える対象ではなく、まず緩める対象になります。
- ヒラメ筋(と腓腹筋):脛骨の前方傾斜を制動する。エクササイズは座位のつま先立ちでヒラメ筋を狙う(立位では腓腹筋が優位になりやすい)
- 腸腰筋:股関節を屈曲位に保つ。単独で働かせるには深い屈曲位で行う
- 多裂筋を含む起立筋:抗重力の伸展保持。強化は腰部に代償が乗りやすく難易度が高い
- 腹筋群:短縮側。緩めて体幹伸展の余地をつくる
MMTの3は、代償で上振れした3かもしれない
本例の腸腰筋のMMT(徒手筋力検査)は、座位で脚を持ち上げる形で取られていました。この形では大腿直筋や大腿筋膜張筋が反応し、腸腰筋そのものが弱くても数値が見かけ上高く出ることがあります。
検討でも、実際の筋力はもう少し低そうだという印象と、仮に3あるとしても筋が延長位に置かれ、張力を出せない状態になっている可能性が指摘されました。個別の選択的な筋力検査で取り直し、緊張検査もセットで行うと病態がつかみやすくなります。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎介入の組み立て。促通・選択的な弛緩・運動再学習
- 選択的な筋力・緊張の再評価腸腰筋・臀筋群・多裂筋・腹斜筋群などを個別の検査で取り直し、代償で上振れした数値を洗い直す。
- ハイボルトで優先筋に促通起立筋・多裂筋・腸腰筋・ヒラメ筋にポイントを取って通電し、直立位の保持が変わるかを確認する。
- 腹筋群は走行に沿って選択的に緩める短縮側と読んだ腹筋群は、鍛えるのではなく走行に沿った選択的な徒手弛緩で体幹伸展の余地をつくる。うつ伏せで手を支えに体をグーッと反らす、シンプルなストレッチも候補に挙がった。
- EMS(電気的筋刺激)は自動運動とセットでかけて寝かせておくのではなく、NMES(神経筋電気刺激)として通電に合わせて本人にも一緒に動いてもらい、収縮できていない筋の運動再学習につなげる。
- 肩甲骨アライメントから胸椎伸展の余地をつくる肩甲骨が外転位のままだと、胸椎は屈曲方向に引き込まれやすい。肩甲骨まわりのアライメントの是正は、胸郭や肋骨に直接触れずに胸椎伸展の余地を狙える経路になる。
エクササイズの狙い分けも検討されました。ヒラメ筋は座位でのつま先立ち、腸腰筋は深い屈曲位でないと大腿直筋や大腿筋膜張筋が働いてしまう。起立筋の強化は腰部に力が乗って腰痛を招きやすい難所だという懸念も共有され、だからこそ腹筋群を先に緩めておく順番に意味があります。
職業要因への提案と、予後の伝え方
長時間の中腰は清掃という仕事に由来します。仕事を続けながら姿勢だけを立て直すのは難しいので、検討では、中腰の代わりに膝をついて作業する形に変える提案が現実的だという話になりました。姿勢への介入と、崩す要因を減らす工夫は並行して進めます。
予後については、完全に元どおりまで戻すのは難しそうだという読みが率直に共有されています。そのうえで、1年ほどの長い目線で取り組めば、手応えのある変化は期待できそうな気がするという、検討の場での臨床印象でした。効果を約束する言い方は避けつつ、この時間軸を最初に共有しておくことが、長く通っていただく症例では信頼の土台になります。
瀬谷崎





