肩がすくんで肩甲挙筋に入ってしまう。僧帽筋を下部から鍛える組み立て
セラピスト向け
どの種目でも肩甲挙筋に力が入る人へ。下部僧帽筋の下制から始める理由
肩甲挙筋のあたりの痛みを訴える患者さんに僧帽筋の運動を試みても、どの種目でも肩がすくみ、肩甲挙筋のほうに力が入ってしまう。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、代償を抑えて僧帽筋の感覚をつかんでもらう組み立てを考えます。
相談されたのは、肩甲挙筋が痛みに関わっているのではないかと見立てられていた患者さんです。もともと運動は嫌いとのことでしたが、1年半ほど前にはジムに通い、電車に乗らず1時間半ほど歩いて通勤していた時期がありました。その頃は「肩こりが楽だったかもしれない」との振り返りもあり、担当者は活動量を上げていく方針を立てていました。
ところが院内の運動療法でチューブを使った種目を行うと、肩甲骨が挙上してきてしまいます。僧帽筋や背筋のトレーニングのつもりが、動きを見るかぎり肩甲挙筋に入っていそうだ、という相談でした。
- チューブを使った運動で肩がすくみ、肩甲骨が挙上してくる
- 肩をすくめる運動は、まさに肩甲挙筋が強く働く種目になってしまう
- チューブを上方向へ引く種目でも、同じように肩甲骨が上がってくる
- 運動習慣が乏しく、セルフケアとして定着させられるかにも不安が残る
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎バイオメカニクス的な狙いは二つに絞れる
検討の場で共有された見方では、この症例に対する力学面の狙いは二つに絞られます。肩甲挙筋の過剰な働きを、別の筋の働きに置き換えていく方向づけです。
① 肩甲挙筋を使わずに、僧帽筋を使えるようにする。
② 肩甲挙筋を使わずに、頸部の深いところにある固有背筋群を使えるようにする。
本来であれば僧帽筋の上部を鍛えて肩甲挙筋を抑制したいところです。ただ、このタイプの方は肩をすくめる運動でほぼ間違いなく肩甲挙筋に力が入りますし、チューブを上へ引いていく種目でも肩甲骨が上がってきてしまいます。挙上を伴う運動から入っても、うまくいくイメージが持ちにくいのです。
うつ伏せの頭上げも、このタイプでは肩甲挙筋に入りやすい
頸部の深いところの筋を狙う運動として、うつ伏せになって頭を上げていくエクササイズがあります。ここにも同じ落とし穴があります。肩甲挙筋が優位に働きやすい人では、この種目でも肩甲挙筋に強く力が入ってしまうのです。
だからやめる、ではありません。検討では、この種目を「肩甲挙筋に入れずに上を向く練習」として使う案が挙がりました。狙う筋を鍛える種目としてではなく、余計な筋を働かせずに動く感覚をつかんでもらう練習として、同じ種目を使い直すという発想です。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎僧帽筋は下部から。下げる動きで感覚をつかみ、上部へ移行する
僧帽筋のトレーニングをどこから始めるか。検討で出た答えは下部からです。下部であれば、肩甲骨を挙上させずに「下げる」動きで働かせることができます。挙上を伴わないぶん、肩甲挙筋の代償が出にくく、僧帽筋が働く感覚をつかんでもらいやすいのです。組み立ての流れはこうなります。
- 挙上を伴う種目をいったん外す肩をすくめる運動やチューブを上へ引く種目は、この段階では肩甲挙筋が優位になりやすいため、後に回します。
- 下制の声かけで、僧帽筋下部から徒手で押さえて抑制するのではなく、声かけ(キューイング)で肩甲骨を下げる意識をつくります。下げる動きができると、肩甲挙筋ではなく僧帽筋を徐々に使えるようになっていくと見込めます。
- 挙筋に入れずに上を向く練習を並行するうつ伏せの頭上げを、頸部の固有背筋群を働かせる感覚づくりとして使います。
- チューブで上部へ徐々に移行する下げる感覚がつかめてから、チューブを使った上部の運動へ段階的に進めます。
種目の最中に肩甲骨が上がってきたら、その種目ではまだ僧帽筋下部に入っていない可能性が高いと考えます。負荷や課題を一段やさしくして、下げる動きの練習に戻ります。
運動の設計と同じ重さで、生活の側も確かめる
検討では、力学面の組み立てと並行して確かめたいことも挙がりました。この方はあまりよく眠れていない印象があるとのことで、眠れなかった翌日に症状が強まるのかどうかは聞いておきたいところです。もし関連がありそうなら、睡眠へのアプローチが選択肢に入ってきます。
あわせて、運動量や通院頻度の調整、リラクセーション系の施術を組み合わせる選択肢、そして症状による不安がどこにあるのか、症状のせいでできなくなっていることや一番つらいことは何か。運動の処方だけで完結させず、生活と心理の面まで含めた全人的なアプローチが必要になりそうだ、という方向で検討は締めくくられました。なお、しびれや筋力低下といった神経の症状を疑う所見があれば、医師の診察を先に置くのが前提です。
- 運動量と通院頻度の調整
- リラクセーション系の施術を組み合わせる選択肢
- 睡眠の影響(眠れなかった翌日に症状が強いかの聞き取り)
- 症状による不安がどこにあるか
- 症状のせいでできなくなっていること、生活で一番つらいこと
まなぶ先生
瀬谷崎




