施術時間を守れないセラピストが見落としがちな、院の損失と患者さんへの影響

その5分延長は、本当に患者さんのためになっているか

施術時間が少し伸びるくらい、大した問題ではない。そう思いたくなる気持ちは分かります。でも、毎回の数分が積み重なると、院の経営、予約の流れ、次の患者さんの待ち時間にかなり影響します。

時間を守ることは、冷たいことではありません。患者さんへの価値を時間の長さでごまかさず、決めた枠の中で必要な評価・施術・説明を組み立てることも、臨床力の一部です。

施術時間が5分、6分伸びる。

現場ではよくあることです。患者さんの話が長くなった。症状が複雑だった。もう少し触った方がよさそうだった。セルフケアを説明していたら時間が過ぎた。

どれも、いかにも正当な理由に見えます。

ただ、少し辛口に言うと、毎回のように時間が伸びるなら、それは患者さんの問題ではなく、セラピスト側の設計の問題です。

まなぶ先生
まなぶ先生

でも、患者さんのために少し長くやるのは、悪いことではない気もします。

瀬谷崎
瀬谷崎

たまにならあります。ただ、それが習慣になると、次の患者さんや院全体に負担が移ります。そこまで含めて見たいです。

施術時間は、なんとなく決まっているわけではない

施術時間は、ただの目安ではありません。

予約の間隔、スタッフ数、ベッド数、受付や会計の流れ、患者さんの待ち時間、1日の売上、スタッフの休憩。いろいろなものを組み合わせた上で設定されています。

もちろん、臨床的には症状によって必要な時間が変わることがあります。初回で情報が多い人、急な痛みがある人、不安が強い人は、説明に時間がかかることもあります。

ただ、それでも毎回伸びるなら別の話です。

時間超過は「その患者さんに丁寧だった証拠」ではなく、「次の患者さんや院の運営から時間を借りた結果」でもあります。

時間を守ることは、患者さんを流れ作業にすることではありません。

むしろ、限られた時間の中で何を優先するかを決める力が必要になります。ここに評価力、説明力、施術の組み立て方が出ます。

5分の超過は、思っているより大きい

たとえば、20分3000円の施術だとします。

単純に考えると、1分あたり150円です。ここで毎回5分伸びると、1回あたり750円分の時間を余計に使っていることになります。

「750円くらい」と思うかもしれません。でも、これが積み重なると印象が変わります。

条件 超過分 損失の目安
20分3000円の施術 5分超過 1回あたり約750円分
1日6名で5分超過 合計30分 1日あたり約4500円分
月21.5日勤務 同じ状態が続く 1ヶ月で約9万6750円分
1年間続く スタッフ1人分 年間で約116万1000円分
20分3000円の施術

超過分:5分超過

損失の目安:1回あたり約750円分

1日6名で5分超過

超過分:合計30分

損失の目安:1日あたり約4500円分

月21.5日勤務

超過分:同じ状態が続く

損失の目安:1ヶ月で約9万6750円分

1年間続く

超過分:スタッフ1人分

損失の目安:年間で約116万1000円分

これは、目に見える請求書が出る損失ではありません。だから気づきにくい。

でも、院の側から見ると、その時間で別の患者さんを見られたかもしれない。次の予約を詰められたかもしれない。スタッフの残業や待ち時間を減らせたかもしれない。

セラピスト本人の財布は直接痛まないので軽く見えますが、院全体ではかなり重い問題です。

時間を守れない理由は、ひとつではない

時間超過を「意識が低い」で片付けると、改善しないことがあります。

原因が人によって違うからです。

よくある要因 起きていること 必要な対応
時間を見ていない 時計や残り時間の意識が薄い タイマー、時計の配置、声かけ
技術や手順が遅い 評価、説明、施術の切り替えに時間がかかる 手順の整理、ロープレ、優先順位の練習
会話を切れない 雑談や相談を終えるタイミングを逃す 切り上げる言葉を用意する
短いと不安 完全に楽にしないと不満が出ると思い込む ゴール設定と成功体験を積む
時間を見ていない

起きていること:時計や残り時間の意識が薄い

必要な対応:タイマー、時計の配置、声かけ

技術や手順が遅い

起きていること:評価、説明、施術の切り替えに時間がかかる

必要な対応:手順の整理、ロープレ、優先順位の練習

会話を切れない

起きていること:雑談や相談を終えるタイミングを逃す

必要な対応:切り上げる言葉を用意する

短いと不安

起きていること:完全に楽にしないと不満が出ると思い込む

必要な対応:ゴール設定と成功体験を積む

特にやっかいなのは、最後の「短いと不安」です。

このタイプは、怠けているわけではありません。むしろ真面目な人に多いです。患者さんに満足してほしい、クレームを避けたい、結果を出したい。その気持ちが強くなりすぎて、時間を切れなくなります。

「完全に良くしないといけない」という思い込み

施術者の中には、「今日の施術で痛みを全部取らないといけない」と感じている人がいます。

もちろん、症状を変えたい気持ちは大事です。ただ、1回の施術で全部解決する前提で動くと、時間はいくらあっても足りません。

慢性的な痛み、生活習慣が関わる症状、長く続いているしびれや不調は、1回で完全に終わるものばかりではありません。

ここをすり合わせる

「今日は痛みを半分くらいまで落とす」「この動作を少し楽にする」「次回まで悪化しにくいセルフケアをひとつ持ち帰ってもらう」など、その日のゴールを患者さんと共有しておくと、時間を伸ばさずに済みやすくなります。

患者さんが求めているのは、必ずしも「長く触ってもらうこと」ではありません。

今の状態が分かること。見通しが持てること。必要な施術を受けられること。自分で気をつけることが分かること。こうしたものも、満足度に大きく関わります。

まなぶ先生
まなぶ先生

短く終わると、手を抜いたと思われそうで怖い人もいそうです。

瀬谷崎
瀬谷崎

そこは説明でかなり変わります。何を目的に、どこまで変化を見て、次に何をするかを伝えれば、時間の長さだけが価値ではなくなります。

会話を切る技術も、臨床の一部

時間が伸びる原因として、会話を切れないこともあります。

患者さんとの関係性は大切です。話を聞くことも必要です。ただ、雑談や相談が長くなりすぎると、施術の時間も次の予約も崩れます。

会話を切るのは冷たいことではありません。切り方を間違えなければ、関係性を壊さずに時間を守れます。

切り上げ方の例

「その話、次回もう少し聞かせてください」「今日はここまで確認できたので、最後に動きを見て終わりますね」「次の方の時間もあるので、続きは次回の最初に確認しますね」など、患者さんを遮るのではなく、次につなげる形にします。

話を聞きすぎる人は、優しい人でもあります。

でも、優しさで予約全体が崩れると、他の患者さんに負担が移ります。ここは切り分けたいところです。

時間内に終える練習は、怒るより設計する

指導する側にも注意が必要です。

時間を守れないスタッフに「早くしろ」「時間を見ろ」と言うだけでは、変わらないことがあります。

特に、患者さんに不満を持たれるのが怖いタイプには、怒っても逆効果です。余計に不安になり、さらに説明や施術を足してしまうこともあります。

  • 設定時間の75%で終えるロープレをする
  • 評価、施術、説明、セルフケアの時間配分を決める
  • 患者さんへのゴール設定の言い方を練習する
  • 終わり方のセリフを先に用意しておく
  • 短く終えても満足された経験を積む

時間を守る練習は、単なるスピードアップではありません。

優先順位を決める練習です。全部やろうとするのではなく、今日必要なことを選ぶ練習です。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、患者さんへの説明や施術の丁寧さを大切にしながら、予約時間も大切にしています。

時間を守ることは、患者さんを急かすことではありません。次の方を待たせないこと、スタッフが落ち着いて評価できること、院全体が無理なく回ることにつながります。

そして何より、短い時間でも価値を出せるように、評価・施術・説明の質を上げていくことが大切です。

瀬谷崎の考え方

時間を伸ばすことで安心しているなら、それは患者さんのためというより、施術者側の不安を埋めているだけかもしれません。結果と説明で価値を出す方へ切り替えたいところです。

セラピストが見直したいこと

施術時間がよく伸びる人は、まず自分を責めるより、どこで伸びているかを見た方がいいです。

  • 評価に時間がかかりすぎていないか
  • 施術内容を足しすぎていないか
  • セルフケアを一度に教えすぎていないか
  • 患者さんの話を切り上げる言葉を持っているか
  • その日のゴールを患者さんと共有しているか

時間を守ることは、手を抜くことではありません。

むしろ、何をやらないかを決める力が必要です。臨床では、足すことより引くことの方が難しい場面があります。

時間を守ることは、価値を下げることではない

長く施術すれば、患者さんのためになる。

そう思いたくなる場面はあります。でも、時間を伸ばすことがいつも価値になるわけではありません。

決められた時間の中で、必要な評価をし、施術を選び、説明をまとめ、次につながる見通しを渡す。これは簡単ではありません。だからこそ、時間を守れることは臨床力の一部です。

院の経営、次の患者さん、スタッフの働き方、自分の成長。その全部を守るためにも、施術時間は軽く扱わない方がいいです。

瀬谷崎
瀬谷崎

時間を守るのは、患者さんを雑に扱うことではありません。限られた時間で価値を出すために、評価も説明も施術も整理する。その積み重ねが、院全体の信頼を守ります。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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