坐骨神経痛は病名なのか。腰部仙部神経根症で考えるべき理由

症状名で止めると、原因の議論がぼやける

坐骨神経痛は、とても便利で通じやすい言葉です。しかし、病名として使うと、評価も説明も曖昧になることがあります。

坐骨神経痛から腰部仙部神経根症への用語変更

Sciatica(坐骨神経痛)ではなく、Lumbosacral radiculopathy(腰部仙部神経根症)という用語が推奨されていることを示した図。

坐骨神経痛は、疾患名ではなく症状を表す言葉として扱うべきです。「何による坐骨神経痛なのか」まで考えないと、臨床推論が止まってしまいます。

坐骨神経痛という言葉は、一般の方にもかなり知られています。

お尻から太もも、ふくらはぎ、足先にかけて痛みやしびれがあると、「坐骨神経痛かもしれない」と表現されることがあります。

患者さんにとっても、医療者にとっても、便利な言葉です。

ただし、便利な言葉には落とし穴があります。

坐骨神経痛という言葉だけでは、何が原因で、どこに問題があり、どう評価すべきかが分かりません。

腰椎椎間板ヘルニアなのか。

脊柱管狭窄症なのか。

神経根症なのか。

関連痛なのか。

それとも、別の病態を見落としているのか。

「坐骨神経痛です」で終わると、そこで臨床推論が止まってしまいます。

まなぶ先生
まなぶ先生

患者さんから「坐骨神経痛です」と言われることは多いですよね。

瀬谷崎
瀬谷崎

多いです。だからこそ、その言葉をそのまま病名として受け取らず、「何による症状なのか」まで分解する必要があります。

坐骨神経痛は、病名というより症状名

坐骨神経痛は、古くから使われてきた言葉です。

歴史的には古代ギリシャの時代までさかのぼるとされ、現在のsciaticaという言葉の語源につながる表現も見られます。

それだけ長く使われてきた言葉であり、一般にも浸透しています。

ただ、定義に立ち返ると、坐骨神経痛は「坐骨神経の分布における痛み」を表す症状の言葉です。

つまり、それ自体が原因を示す病名ではありません。

「この患者さんは坐骨神経痛です」は、まだ説明の途中です。本当に必要なのは「何による坐骨神経痛なのか」です。

正しくは、次のように表現した方が分かりやすくなります。

「腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛」

「脊柱管狭窄症による坐骨神経痛」

「腰部仙部神経根症に伴う下肢症状」

このように、原因や病態とセットで考える必要があります。

坐骨神経痛という言葉だけでは、評価も介入も具体化しにくいのです。

坐骨神経痛という言葉が紛らわしい理由

坐骨神経痛という言葉が紛らわしい理由は、使う人によって意味がずれるからです。

ある人は、神経根性の痛みを指して使います。

別の人は、お尻から脚へ放散する痛み全般を指して使います。

さらに別の人は、しびれや違和感まで含めて「坐骨神経痛」と呼ぶことがあります。

この状態では、専門家同士でも同じ言葉を使いながら、違うものを見ている可能性があります。

言葉のズレ

坐骨神経痛という言葉は、神経根性疼痛、坐骨神経領域の症状、関連痛などが混ざって使われることがあります。ここが臨床上の大きな問題です。

実際、坐骨神経痛の有病率を調べた研究では、報告される有病率に大きな幅があります。

これは、研究によって坐骨神経痛の定義が違っていたことが一因とされています。

定義が違えば、集めている患者さんも変わります。

集めている患者さんが変われば、研究結果の解釈も変わります。

つまり、言葉が曖昧だと、臨床だけでなく研究の読み方まで難しくなります。

腰部仙部神経根症という言葉で何が変わるか

近年は、sciaticaという言葉ではなく、Lumbosacral radiculopathy、つまり腰部仙部神経根症という用語が使われることが増えています。

この言葉の良いところは、神経根症であることが明確になる点です。

Radiculopathyは神経根症を指します。

そのため、単なる放散痛や関連痛まで何となく含めてしまうリスクが減ります。

また、症状名ではなく病態として扱いやすくなります。

用語 起こりやすい誤解 臨床での扱い方
坐骨神経痛 病名として扱われやすい 症状名として扱い、原因をさらに評価する
Sciatica 神経根症と関連痛が混ざりやすい 定義を確認して使う
腰部仙部神経根症 専門的で患者さんには伝わりにくい 専門家の思考整理に使い、患者さんには噛み砕いて説明する

もちろん、患者さんにいきなり「腰部仙部神経根症です」と言っても、伝わりにくい場合があります。

患者さんとの会話では「坐骨神経痛のような症状」という表現が役に立つこともあります。

大切なのは、患者さんに伝える言葉と、臨床家が頭の中で整理する言葉を分けることです。

「坐骨神経痛です」で終わらせない評価

下肢に痛みやしびれがある患者さんを見た時、まず必要なのは症状の分布と性質を整理することです。

どこに痛みがあるのか。

しびれなのか、痛みなのか、脱力なのか。

腰の動きで変化するのか。

神経学的所見はあるのか。

レッドフラッグはないのか。

ここを丁寧に見ずに、「坐骨神経痛ですね」と言ってしまうのは危険です。

  • 症状の分布が神経根領域と合うか
  • 筋力低下や反射低下があるか
  • 感覚障害の範囲はどこか
  • SLRなどの神経伸張テストで何が起こるか
  • 腰椎由来以外の原因を除外できているか
  • 馬尾症候群などの緊急性を見逃していないか
  • 関連痛や末梢神経障害の可能性を考えているか

坐骨神経痛という言葉は、入口としては便利です。

ただし、入口で止まってはいけません。

そこから病態を絞り込み、必要なら医療機関へつなぎ、介入できる範囲を明確にする必要があります。

臨床の基準

坐骨神経痛という言葉は、診断のゴールではなく評価のスタートです。症状の名前をつけた後に、原因とリスクを確認する必要があります。

患者さんには、通じる言葉で正確に伝える

患者さんに説明する時は、専門用語をそのまま並べれば良いわけではありません。

坐骨神経痛という言葉は、患者さんにとって分かりやすい場合があります。

だから、完全に使ってはいけない言葉ではありません。

ただし、使い方には注意が必要です。

避けたい説明 問題点 言い換え例
坐骨神経痛です 原因が分からないまま病名のように聞こえる 坐骨神経痛のような症状が出ています。原因をもう少し評価します
坐骨神経が悪いです 神経そのものが壊れている印象を与えやすい 神経に関連する症状かどうかを確認していきます
坐骨神経痛なので揉みます 病態に合わせた介入になっていない 原因に合わせて、必要な評価と施術を選びます

患者さんにとって必要なのは、名前をつけてもらうことだけではありません。

なぜその症状が出ているのか。

危険なサインはないのか。

何をすれば良くなりやすいのか。

どんな場合は病院に行くべきなのか。

ここまで伝えることで、ようやく説明として意味を持ちます。

まなぶ先生
まなぶ先生

じゃあ、患者さんには坐骨神経痛という言葉を使わない方がいいですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

使ってもいいと思います。ただ、病名として終わらせないことです。「坐骨神経痛のような症状が、何によって出ているのか」を一緒に説明する必要があります。

坐骨神経痛は、便利だからこそ慎重に使う

坐骨神経痛という言葉は、患者さんにも伝わりやすい便利な言葉です。

だから、現場で使う場面は今後もあると思います。

ただし、専門家がその便利さに甘えると危険です。

坐骨神経痛という言葉の中には、神経根症、坐骨神経領域の症状、関連痛、末梢神経障害などが混ざってしまう可能性があります。

それを分けずに説明すれば、患者さんにも、他の医療者にも、誤解が生まれます。

専門家の頭の中では、腰部仙部神経根症という用語や病態整理を使い、患者さんには分かりやすく噛み砕く。

この使い分けが大切です。

大事な使い分け

患者さんには通じる言葉を使い、臨床家の頭の中では病態を正確に分ける。坐骨神経痛という言葉は、その使い分けができて初めて便利になります。

症状名で止まらず、原因まで考える

坐骨神経痛は、長い歴史を持つ言葉です。

一般にも広く知られていて、患者さんとの会話では便利です。

しかし、その便利さの一方で、症状名と疾患名が混ざりやすいという問題があります。

「坐骨神経痛です」と言うだけでは、病態は分かりません。

腰椎椎間板ヘルニアによるものなのか。

脊柱管狭窄症によるものなのか。

腰部仙部神経根症として整理すべきものなのか。

関連痛や別の疾患を考えるべきなのか。

そこまで評価して初めて、臨床として意味があります。

坐骨神経痛という言葉を使うなら、そこで止まらない。

症状名の奥にある原因まで考える。

その姿勢が、下肢の痛みやしびれを診るうえでかなり重要です。

瀬谷崎
瀬谷崎

坐骨神経痛という言葉は使いやすいですが、病名として使うと危ないです。症状として捉えたうえで、何によってその症状が出ているのかを評価することが大事だと思います。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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