坐骨神経の走行バリエーションは坐骨神経痛の原因か。解剖で決めない梨状筋症候群

「梨状筋を貫く坐骨神経」は痛みの原因と言えるのか

坐骨神経が梨状筋を貫くといった解剖学的なバリエーション(走行の個人差)は、梨状筋症候群や坐骨神経痛の原因として語られてきました。しかし大規模調査では、走行バリエーションの有無で発症率に差はありません。解剖の珍しさを原因と決める前に何を確かめるかを整理します。

解剖図で機序が見える所見ほど「いかにも原因」に思えますが、見えやすさと正しさは別物です。坐骨神経と梨状筋の関係を例に考えます。

動画(瀬谷崎将也):該当の解説はこの位置から。

従来の理論:走行の違いが神経を圧迫する

坐骨神経が梨状筋を貫通する、あるいは分かれて走るような走行バリエーションがあると、筋の収縮で神経が圧迫され、梨状筋症候群や坐骨神経痛の原因になる、とされてきました。解剖図で圧迫の機序がイメージしやすく、受け入れられやすい理論です。

研究が示すこと:発症率に差はない

スタンフォード大学の大規模な調査などでは、走行バリエーションのある人と通常の走行の人で、梨状筋症候群や坐骨神経痛の発症率に統計的な差は認められていません。こうした走行バリエーションは東アジア人で約31%にみられ、頻度の高いバリエーション、いわば「個性」に近い所見です。走行バリエーションがあること自体は痛みの原因とは言えません。

まなぶ先生まなぶ先生

走行バリエーションがあると坐骨神経痛になりやすい、と教わってきました。解剖図を見ると、いかにも圧迫されそうに見えます。

瀬谷崎瀬谷崎

画像や解剖図は因果に見えやすいんですよね。ただ、3割の人に普通にある所見で、発症率に差が出ないなら、それは「あるある」であって「原因」ではない。走行バリエーションを見つけても、こちらの臨床判断は変わりません。

教子先生教子先生

珍しい所見を探すより、再現性のある所見で絞るほうが確実、ということですね。

臨床でどうするか

梨状筋症候群(深殿症候群)は、もともと除外診断の色合いが強い病態です。まず腰椎の神経根症や脊柱管狭窄症を外し、殿部での再現(座位の持続、股関節の内外旋・伸展での誘発)で絞り込みます。走行バリエーションの有無に判断を預けず、所見と経過で組み立てます。

頻度の高い解剖学的バリエーションは、痛みのある人にもない人にも同じくらい存在します。だからこそ、見つけても原因と決めつけず、個々の所見の重みを頻度と研究で補正していく姿勢が要ります。

瀬谷崎瀬谷崎

坐骨神経の走行バリエーションは頻度が高く、発症率に差を生みません。いかにも原因っぽい所見ほど、頻度と研究で一歩引いて解釈する。それが、過剰な意味づけや無意味な介入を避ける近道だと思います。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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