膝蓋大腿疼痛にVMOだけ鍛えるべきか。内側広筋の選択的強化を再評価する

「内側広筋だけ」を狙うトレーニングは効くのか

膝蓋大腿疼痛症候群(PFP)は、内側広筋(VMO)の活動の遅れで膝蓋骨が外側へ引かれることが原因とされ、VMOの選択的強化が推奨されてきました。しかし、選択的トレと大腿四頭筋全体のトレで、症状や機能の改善に差はないことが示されています。

「内側広筋だけを狙う」という発想も、いかにも効きそうに見えるテーマです。前提と研究結果を分けて検討します。

動画(瀬谷崎将也):該当の解説はこの位置から。

従来の理論:VMOの遅れが膝蓋骨を外へ引く

膝蓋大腿疼痛症候群(PFP)では、内側広筋(VMO)の活動が外側広筋に対して遅れることで、膝蓋骨が外側へ引かれて疼痛が生じるとされました。そこで、VMOだけを選択的に鍛える「選択的トレーニング」が推奨されてきました。

研究が示すこと:選択的トレと全体トレで差がない

VMOのみを狙う選択的トレーニングと、大腿四頭筋全体を鍛える一般的なトレーニングとで、症状や機能の改善効果に差はないことが、複数の研究やガイドラインで示されています。VMOの収縮遅延の臨床的意義は高くなく、VMOだけを特別に鍛えるアプローチが、一般的な下肢のトレーニング以上の効果をもたらすわけではありません。

まなぶ先生まなぶ先生

内側広筋を選択的に、というのは現場でもよく聞きます。狙い撃ちは難しいと感じていましたが。

瀬谷崎瀬谷崎

そもそも一つの広筋だけを選択的に働かせること自体が難しい。そして仮にできても、全体のトレと差が出ない。だったらVMOの単離に労力を割くより、四頭筋全体と股関節、負荷の管理に振り分けたほうが現実的です。

教子先生教子先生

膝のお皿の問題を膝だけで完結させず、股関節や負荷まで含めて見る、ということですね。

臨床でどうするか

VMO単独を狙うより、大腿四頭筋全体の強化に、股関節(外転・外旋)の関与と負荷の管理を組み合わせます。膝前部痛では、腸脛靭帯炎(ランナー膝)や膝蓋腱症(ジャンパー膝)と同じく、組織が耐える力に対して負荷が過剰になっていないかを見る発想が要ります。

お皿の軌道を細かく操作する発想も、VMO選択と同じ落とし穴があります。細部の制御よりも、全体の筋力と負荷の調整。シンプルな介入のほうが続けやすく、再現もしやすくなります。

瀬谷崎瀬谷崎

内側広筋だけの選択的強化は、四頭筋全体のトレーニングと差を生みません。お皿や一筋の細かい制御に寄りすぎず、四頭筋全体・股関節・負荷の管理で組み立てる。シンプルな介入のほうが続けやすく、再現もしやすい。それが今のエビデンスに沿った構えだと思います。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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