タナ障害(滑膜ひだ障害)の引っかかり感。膝蓋骨がどちらへ滑りやすいかで介入を分ける
セラピスト向け
引っかかる膝は、外側滑りか上方滑りかを確かめる
とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで、参加院の先生から実際に挙がった相談です。10代のバドミントン選手のタナ障害(滑膜ひだ障害)。腫れが引いても残る引っかかり感と不安定感にどう介入するか。瀬谷崎が示したのは、膝蓋骨がどちらへ滑りやすいかを確認検査で特定し、介入を分ける方針でした。
相談のケースは、バドミントンの踏み込み動作で膝の内側を痛めた16歳の選手です。内側側副靱帯(ないそくそくふくじんたい・MCL=エムシーエル)の付着部に圧痛があり、外反ストレステストで疼痛が再現されたため、担当の先生はMCLの軽度損傷を想定して対応しました。
腫れは1週間ほどで引いたものの、膝の引っかかり感と不安定感が残ります。来院前に受けたMRI(エムアールアイ・磁気共鳴画像)検査では捻挫との説明でしたが、経過に違和感を覚えた担当の先生が膝を専門とする医師への受診を促したところ、タナ障害の診断がつきました。
タナ障害は、膝関節内にある滑膜ひだ(タナ)が膝蓋骨(しつがいこつ・膝のお皿)と大腿骨の間で刺激され、クリックや引っかかり感を出す病態です。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎その場でクリックは消えるが、角度によって戻ってしまう
担当の先生は、膝の屈曲伸展に内外旋の動きを組み合わせて繰り返し、どこかでハマるとクリックが消えるという手技を試していました。実際にその場で伸展制限が消える変化は出たそうです。
ただ、変な角度に入るとまた元の引っかかる感じに戻ってしまう。ハマるのを繰り返し待つような対応しかないのか、ほかに良い手はないか、というのが相談の中身でした。
その場の変化を出せる手技はあっても、戻るのであれば、滑膜ひだが刺激され続けている要因の側に介入する必要があります。
タナ障害を膝蓋骨の動的アライメントとして捉える
瀬谷崎の回答は、タナ障害という病名の中だけで対応を探すのではなく、膝蓋骨の動的アライメント不良として捉えるものでした。滑膜ひだが繰り返し刺激される背景には、動作中に膝蓋骨が本来の軌道から逸れて滑る要因があります。
であれば、膝蓋骨の位置を徒手でコントロールする確認検査によって、どの方向への滑りが症状を作っているかを特定できるという発想です。
内側と下方は稀。外側滑りか上方滑りかの二つに絞る
ここで効いてくるのが、方向の絞り込みです。膝蓋骨が内側へ滑ることはあまりなく、下方へ滑ることも稀です。つまり実務上は、外側への滑りか上方への滑りか、二つを確かめれば足ります。
- 外側への滑りを止めて動いてもらう膝蓋骨を押さえて外側への滑りを止めた状態で動いてもらい、症状が出なければ外側滑りが原因。
- 上方への滑りを止めて動いてもらう同じように上方への滑りを止めて、症状が出なければ上方滑りが原因です。
どちらの滑りやすさも、バイオメカニクス(生体力学)的に原因を想定しやすいため、特定できればそのまま介入につながります。タナ障害には精度が比較的高いとされる徒手検査もあり、院内で鑑別まで進められる場合もあります。
内側・下方への滑りは稀。外側滑りと上方滑りの二つに絞り、膝蓋骨を押さえる確認検査でどちらが症状を作っているかを特定します。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎外側滑りと上方滑り、それぞれの介入の分岐
方向が特定できたら、介入は次のように分かれます。
- 外側滑りが原因なら、大腿骨の外旋位の獲得と、脛骨(けいこつ)の外旋の改善が候補。内側広筋(ないそくこうきん)に弱化があれば強化も加える
- 上方滑りが原因なら、膝の屈曲可動域の改善が第一候補。骨盤の前傾が見られる場合は、その是正も加える
外側滑りへの介入は、膝蓋骨を外側へ引く要因を減らしつつ、内側から支える力を取り戻す方向です。内側広筋のトレーニングの考え方は選択的強化を再評価した回でも扱っています。
上方滑りのほうは、屈曲制限や骨盤アライメントの崩れが、大腿四頭筋を介して膝蓋骨を上方へ引く張力につながっている、という見立てです。
- タナ障害は病名の一般論で終えず、膝蓋骨の動的アライメントとして評価する
- 内側・下方への滑りは稀。外側滑りと上方滑りの二つに絞って確認検査を行う
- 外側滑りには大腿骨外旋位の獲得・脛骨外旋の改善・内側広筋の強化
- 上方滑りには膝屈曲可動域の改善・骨盤前傾の是正
- 精度が比較的高いとされる徒手検査もあり、院内で鑑別できる場合がある
- 難治例では粘りすぎず、内視鏡手術を選択肢として提示する
難治例では内視鏡手術を選択肢として提示する
経過の印象としては、この捉え方で介入すると比較的スムーズに良くなるケースが多いとのことでした。一方で、どうしても改善の乏しい例も少数ながらあり、そうしたケースは内視鏡手術で解決に至ったといいます。
難治の経過をたどる場合には、保存療法で長く粘り続けるより、専門医への相談と内視鏡手術という選択肢を患者側に示すことも、治療者の役割の一つです。
滑る方向まで見立てると、介入は具体になる
引っかかり感やクリックという訴えは、病名が確定した時点で評価が終わりがちです。膝蓋骨がどちらへ滑りやすいかまで確認検査で特定すれば、外側滑りと上方滑りのそれぞれに具体的な介入が描けます。
病態を動的アライメントの言葉に置き換えて捉え直す姿勢は、タナ障害に限らず、ほかの膝疾患の評価にも応用が利きます。
瀬谷崎




