手術適応の変形性股関節症、介護のため手術はまだ。保存療法でできることをカンファレンスで検討
セラピスト向け
生活の事情で手術を先送りする股関節OAを、保存療法でどう支えるか
手術が有効と説明しても、家族の介護などの事情で手術に進めない患者さんがいます。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった変形性股関節症(股関節OA・オーエー)の症例相談をもとに、保存療法で提案できることと、手術時期の伝え方を検討します。
相談されたのは、こんな症例でした。
- 60代前半の女性。両側の股関節OAで、30年ほど前から指摘され、臼蓋形成不全もある
- 1年ほど前から運動時に歩けないほどの痛みが出て、家事が数時間できない日もある
- 股関節屈曲は90度あたりから代償運動が入り、片足を内側にひねって靴を脱ぐ動作も難しい
- 趣味はエアロビクスやズンバ、ピラティス
- 手術が有効という説明はすでにされているが、90代の親の介護があり、いまは踏み切れない
- 通院は現在2週に1回で4〜5ヶ月目。臀筋群や多裂筋のトレーニング、ジグリング(小刻みに関節を揺らす運動)を継続中
- 施術後は可動域が上がるものの、趣味の運動のあとは痛みを引きずる
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎活動量を保ちたい人ほど、手術の優先度は上がる
最初に確認されたのは、この方にとって手術がどの位置にあるかでした。瀬谷崎の見立てでは、一定の活動量を維持したい方は手術の推奨度が上がります。逆に、階段の上り下りがゆっくりでもできれば十分という生活なら、手術に伴うリスクのほうが大きい場合もあります。
この患者さんは、運動時の痛みがなければ手術はしない、逆に手術で痛みが減るなら手術するタイプ。本来は手術の優先度が高い方といえます。
そのうえで共有されたのが時期の話です。
手術をするなら先延ばしより早いほうが予後が良く、遅くなると予後が悪くなる傾向があるとされています。人工股関節の入院期間は1〜3週間程度。介護が落ち着いたら検討してはどうか、という説明は担当の先生からすでにされていました。
仮に後から「早くやっておけば」と思うことがあっても、判断材料の説明が済んでいる状態にしておく。方針を患者さんと一緒に選ぶ考え方は、SDM(共有意思決定)の記事でも扱っています。
屈曲90度の制限があるなら、仰臥位でなく座位から動いてもらう
保存療法の中身として最初に挙がったのは、運動の出し方でした。屈曲90度あたりで代償が入るほどの制限がある股関節を仰臥位で他動的に動かすと、強い抵抗がかかって痛みが出やすくなります。実際この方も、他動で動かすとグッと抵抗がかかる感覚があるとのこと。そこで瀬谷崎が挙げたのが、座位から始める形です。
- 座位から始める座位で手をついて前屈みになる。ベッドに足を上げられなくても、上げた状態から始められるなら成立します。
- 運動連鎖を誘導する前屈みの動きに伴って、股関節から体幹へ運動が連鎖していく。こちらで予測した連鎖を動きとして伝えるのが基本です。
- 動きたい方向に任せる範囲でよいつま先を内側にひねってもらうと、足が持ち上がったり体幹が捻れたりする。その範囲でよいし、床を踏むだけでもよい。
芯にあるのは、決めた手順どおりに動かすことではなく、運動連鎖を起こすことです。ただし根本の解決ではなく、進行を遅らせる位置づけの介入だという前提も共有されました。
股関節屈曲が90度前後で制限される場合、仰臥位での他動運動は抵抗と痛みが出やすくなります。座位から、患者さんが動きたい方向に任せる範囲で運動連鎖を誘導する形を検討します。
股関節を大きく動かす運動は勧めにくい
趣味の運動については、膝OAとの対比で話されました。膝OAで適度な有酸素運動やランニングが許容される場面があっても、バスケットボールのように膝へ大きな負荷がかかる競技まで推奨されるわけではありません。同じように股関節OAでも、股関節をダイナミックに動かす可能性のある運動は疼痛を誘発しやすく、推奨しにくいという見解でした。
この症例でも、運動をやめてもらうのではなく、量を大きく下げてやれる範囲を探る対応が取られていました。活動量の確保と疼痛誘発の折り合いが、この病態の難しさです。
オーソティックス(足底装具)で歩行が変わるケースがある
もうひとつ挙がった選択肢が、オーソティックス(足底装具)です。瀬谷崎の経験では、階段をゆっくりとしか下りられなかった方が、装具を入れた履き物に替えた直後、目の前で足取りが変わる反応を示すケースがあるとのこと。人による差はあるものの、試す価値のある選択肢として紹介されました。
伊藤からも、初期の股関節OAで装具を使い始めてから痛みの訴えが続いていない患者さんの例があり、下肢のOAには相性が良い印象だというコメントが出ています。当日は、相談された先生の地域で装具を扱える施設を探す話まで進みました。
2週に1回は、変化を起こす間隔になりにくい
最後に検討されたのが通院頻度です。この方は現在2週に1回の通院でしたが、瀬谷崎はエビデンスではなく感覚値と断ったうえで、こう話しています。
2週に1回は、体に変化を起こしにいく間隔というより、間隔を空けても大丈夫かを確かめる様子見の期間に近い。仮にこの方が院の隣に住んでいて費用を気にしないなら、3日に1回来てくださいと言いたくなるはず。そこから歩み寄っても、症状が落ち着くまでは週1回は提案したい。
もうひとつの論点は、頻度の主導権です。院側から2週に1回と案内されると、患者さんの側から「週1回来たい」とは言い出しにくい。効果が実感できず、通うのをやめる選択につながる可能性もある。だからこそ、できる提案はこちらからしておきたい。
相談された先生も、通いやすさを優先したつもりの間隔が、患者さんにとって良いとは限らなかったと応じていました。
- 活動量を維持したい患者は手術の推奨度が上がる
- 手術するなら早いほうが予後が良いとされる。時期の判断材料は先に渡しておく
- 屈曲90度前後の制限があるなら、仰臥位でなく座位から運動連鎖を誘導する
- 患者が動きたい方向に任せる範囲でも誘導は成立する
- 股関節を大きく動かすダイナミックな運動は疼痛誘発のため勧めにくい
- オーソティックス(足底装具)で歩行が大きく変わるケースがある
- 症状が落ち着くまでは週1回の通院を提案する
事情ごと引き受けて、いまできる提案を渡す
手術適応かどうかの線引きだけでは、この方の治療方針は決まりません。介護という事情と運動という楽しみを踏まえたうえで、肢位を選んだ運動の誘導、装具、通院頻度と、保存療法の側から渡せる提案はまだあります。
同時に、手術は早いほうが予後が良いという情報を伝えきっておくことも、保存療法を続ける側の責任です。変形性股関節症の評価や鑑別など疾患そのものの解説は、別の記事で扱っています。
瀬谷崎




