末期の変形性股関節症に保存療法で何ができるか。仰向けで眠りたい希望への応え方
セラピスト向け
末期の変形性股関節症、まだ試せる保存の手
末期まで進んだ変形性股関節症(HOA)に、保存的な介入で何ができるでしょうか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった、手術待ちの患者さんの疼痛管理と「仰向けで眠りたい」という希望への応え方を紹介します。
相談されたのは、末期とみられるHOAの患者さんのケースです。画像でも骨棘がはっきり見える程度まで変形が進んでおり、手術を前提に進める方針で本人も納得しています。
経過そのものは前向きです。痛みは当初よりずっと落ち着き、鎮痛薬を飲まずに過ごせるようになってきました。そのうえで本人の希望として残っているのが「本当は仰向けで眠りたい」ということでした。
仰向けになったときの痛みは減ってきたものの、夜に何時間も仰向けを続けるとやはり負担がかかり、いまは横向きで眠っているといいます。手術までの間、保存でどこまで応えられるでしょうか。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎保存療法の対象と、末期でも残る余地
一般的に、保存療法の主な対象とされるのは前股関節症から初期股関節症までの段階です。末期になると、保存的な介入で動かせる幅はどうしても狭くなります。
それでも、痛みのすべてが骨の変形に由来するとは限りません。骨棘や関節裂隙の狭小化による痛みなら際どい一方、関節包性の痛みや筋の痛みが混ざっているなら、もう少し変化を出せる可能性が残ります。
末期のHOAが保存療法で大きく改善した例は多くありません。できることを試しながらも、期待値は正直に共有しておく前提での話です。
今回のケースでは、腸腰筋への血流改善を狙ったハイボルト(高電圧の電気刺激)で反応が良かったとのことで、まずはその継続が土台になります。そのうえで、まだ試されていない介入として挙がったのが次の候補です。
- 適合局面に沿った可動域訓練(伸展なら外転・内旋を伴わせて他動で行う)
- タオルを使った股関節の関節包モビライゼーション
- ジグリング(小刻みなゆすり運動・実施中であれば継続)
- 座位で行う相対法(あぐらの形で股関節を開く方法)
適合局面に沿って動かすという考え方
鍵になるのが適合局面です。股関節は、伸展すると前方の被覆が減り、屈曲すると後方の被覆が減る関節です。骨頭が最も覆われた状態を保ったまま動かしたときにできる面を、適合局面と呼びます。
末期のHOAをただ動かすのは怖さがあります。そこで、被覆が最大の状態を保ちながら動かします。適合局面に沿った可動域訓練であれば、末期でも対象にできるかもしれません。
外転と内旋を伴わせた伸展運動を他動で行います。関節の被覆を保ったまま動かすことで、末期でも可動域訓練の候補に載せられる可能性があります。
モビライゼーションは、肩と違って股関節は徒手だけでは動かしにくいため、タオルを使います。伸展可動域が目的なら、操作は2つ考えられます。
- 後方の関節包を伸ばす伸展時に骨頭が意図しない方向へ滑る動き(オブリゲートトランスレーション)を防ぐ狙いで、後方関節包を伸長するように操作します。
- 前方関節包のタイトネスを取る股関節を少し開排した肢位で、タオルを前方へ引くように操作します。
相対法は、仰向けでダイナミックに股関節を動かす形だと、末期のHOAには厳しい動きが含まれます。座位であぐらの形を取る方法で十分です。左右を比べる必要はなく、患側であぐらの形が取りにくければ、取りやすい側の足を上にして行っても意味は保てます。
仰向けで眠りたいという希望にどう応えるか
HOAだからこの姿勢で寝るべきだ、という就寝時の注意は実はあまりありません。仰向けで痛みなく眠れるなら、そのまま仰向けで眠ってもらってよい、というのが基本線です。
理屈のうえでは適合局面に沿った肢位が望ましいのかもしれませんが、眠っている間の姿勢を管理するのは現実的とは言えません。負担だけを考えれば横向きが良い気もする一方で、疼痛の面ではよく眠れること自体に価値があります。
だからこそ、仰向けという形にこだわりすぎず、痛みなく眠れる体勢を一緒に探すことが当面の目標になります。仰向けで眠れる日はそれでよく、つらい日は横向きでよい。眠りの質を優先する目標の置き方です。
手術の見通しも含めて情報提供する
人工股関節の手術では、基本的に大幅なADL(日常生活動作)の改善が見込めます。今回のように「あともう少し」というところまで保存で押し上げられていれば、術後の改善はいっそう期待しやすくなります。
保存でできることを尽くしつつ、手術で何がどこまで良くなる見込みなのかも本人に伝わっている状態を保つ。手術を前提に合意しているケースでも、この情報提供の丁寧さが意思決定を支えます。手術を見送る選択をした患者さんへの考え方は、別の相談例で扱っています。
末期でも、できることを数えてから
末期のHOAに保存療法で劇的な変化を出すのは簡単ではありません。それでも、適合局面に沿った可動域訓練、タオルでの関節包モビライゼーション、座位の相対法と、試せる手は残っていました。
仰向けにこだわりすぎず、眠れる体勢の確保を優先する。目標の置き方まで含めて、手術までの期間を支えるのが保存療法の役割だと思います。
瀬谷崎





