痛みに過敏な変形性股関節症の患者に、運動介入を小さく刻んで入れる
セラピスト向け
「痛い」が先行する患者さんへ。座って足を踏むだけから始める運動の出し方
痛みに過敏になっている患者さんに運動的な介入を試みると、動きを出す前に「痛い」が先に立ってしまうことがあります。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった変形性股関節症の相談をもとに、段階を細かく刻んで運動を入れる方法を紹介します。
相談したのは、40代前半の変形性股関節症の患者さんを担当しているスタッフでした。先天的な股関節の要因はなく、痛みにかなり過敏になっている方です。
運動の要素を入れようと、操体法を仰向けで試みました。操体法はとんとんで使っている手技の一つで、痛くない方向へ体を動かして、力を抜いて戻す操作です。
ところが、動きを出そうとした途端に「痛い」が先行してしまいました。患者さん自身も動かし方がわからず、誘導もうまくいかず、「これは今は下手にやらない方がいい」と判断して引き下がった、という相談です。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎3段階は、もっと細かく刻める
とんとんでは操体法を3段階に分けて伝えています。本質は最後の複雑な動きにあって、突き詰めれば最初の2つは省いてもかまいません。最後の動きが複雑だからこそ、段階的にできるようにしていくための3段階です。
裏を返せば、3段階という刻み幅は固定のものではありません。3段階のままで入れないなら、もっと小さく刻めばいい。仰向けの型にもこだわらず、座位まで下げてしまいます。相談への助言の軸はここでした。
- 足で踏むだけ座ったまま、施術者の手を足で軽く踏んでもらう。「軽く押してください」から始める。
- 手をつくだけ座位のまま、反対側に手を置いてもらう。置くぐらいなら多分できる、という水準まで下げる。
- 手をついた状態で押すその姿勢のまま「この状態で押してください」と足の押しを重ねる。
- 座位で内旋だけあぐらはかかず、ただの座位のまま足を内旋してもらう段階を挟んでもよい。
- 足を上げて押すここまで来られれば、足を上げた状態で押す動きにも進めることが多い。
あぐらもかかせなくてかまいません。ここまで刻めば何かしらはできることが多く、それぐらいの負荷でも変化が出ることがあります。
健側しかできないなら、健側だけで成立させる
相談の場では、細かく刻む場合もやりやすい側を左右で見比べてから実施する側を選ぶのか、という質問も出ました。答えは明快で、健側にそのままやってしまってよい、です。
患側の足が上がらなければ、左右差はそもそも見られません。右が患側なら右足を上げる動き自体ができないので、できる健側で自然に実施することになります。左右比較の手順が抜けても、介入として成立します。
可動域か痛みのどちらかについて、軽くでいいので先に評価を取っておきます。実施後の変化を患者さんに見せる材料になるからです。
しれっと出して、変化を見せる
痛みに過敏な患者さんは、新しいことを始めようとすると「大丈夫かな」と身構えます。その警戒自体が「痛い」を先行させるので、治療として構えるほど入りにくくなります。助言された運びはこうでした。
「ちょっと失礼します。私の足を押してもらっていいですか。はい、いいですね。もう1回動きを見ますね。あれ、さっきより上がっていますね」
軽い評価、しれっと実施、動きの確認、という順で進め、良くなっていたら言葉にして返します。変化を自分の体で確かめられると、患者さんは前向きに取り組んでくれやすくなります。治療っぽく始めていないので、結果が出なかったときはそのまま流して終えられるのも利点です。
瀬谷崎自身「騙すようで気が引けますが」と断りつつの助言でした。患者さんを欺くためではなく、警戒が痛みを増やす悪循環を避けるための出し方だと考えています。
過敏さの背景にも目を配る
この患者さんは日常生活の愚痴が多く、施術中もずっと話しているような状態で、治療どころではない雰囲気だったといいます。40代前半という年齢も考え合わせると、心理的な要因で痛みに過敏になっている可能性があります。
親身に話を聞くだけでも痛みの数字が3ぐらい下がるかもしれないし、それもあって通院が続いているのかもしれない。相談の場ではそんな見方も出ました。この側面を意識してヒアリングを重ねると、手がかりが出てくるかもしれません。
過敏になっている患者さんへの言葉のかけ方は説明不足が痛みを悪化させた症例の記事で、過敏さの背景にある中枢性感作(ちゅうすうせいかんさ)の考え方は中枢性感作がある患者への運動療法の記事で扱っています。
- 型どおりの3段階に固執せず、できる形まで段階を細かく刻む
- 健側しかできないなら左右比較を省き、健側だけで自然に行う
- 実施前に可動域か痛みの評価を軽く取っておく
- 治療と意識させず、しれっと出して変化を体感してもらう
- 良くなっていたら言葉にして返し、前向きさを引き出す
- 愚痴や生活背景など、過敏さの心理的な要因にも目を配る
できる形まで刻めば、運動は出せる
運動的な介入が入らないのは、種目が合わないからというより、刻み幅がその患者さんに合っていないだけかもしれません。座って足を踏むだけ、手をつくだけ。そこから始めても、変化が出れば患者さんの気持ちは動きます。小さく刻んで、変化を見せて、次の段階へ。過敏な患者さんにはこの順番が効いてきます。
瀬谷崎





