中1バレー部の前腕から肘の痛み。テニス肘の診断名と所見のずれを検査で埋める
セラピスト向け
MRIで頸椎は異常なし。それでも首の屈曲で痛む肘の症例
病院でテニス肘と診断された中学1年生。ところが痛みが出るのは肘の屈曲と首の動きで、外側上顆炎の典型像とは重ならない部分が残ります。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、診断名と手元の所見がずれるときの検査の組み立てを考えます。
相談されたのは中学1年生の女の子の症例です。2週間ほど前から、左の前腕から肘のあたりに痛みが出ています。しびれのような訴えもありましたが、確かめると中心は痛みでした。バレーボール部ですが患側は非利き手側で、本人に思い当たる原因はありません。
痛みの質はじんわり・うずうずとした感じで、重だるさを伴います。力を入れようとすると痛み、茶碗を持とうとするだけでも痛むほどです。部活は休んでいて、2週間で2〜3割ほど軽くなった経過です。
- 首の屈曲と肘の屈曲で痛みが誘発され、この反応は毎回一貫している
- MMT(徒手筋力検査)は肘の屈曲で「痛くて弱い」となり、筋力の判定には使いにくい
- 三角筋など肩まわりの近位筋には左右差がない
- 外側上顆に圧痛はあるが左右差はわずかで、伸展系の動作では症状がほとんど出ない
- 他院の勧めでMRI(磁気共鳴画像検査)を撮影し、頸椎に異常なし。テニス肘の診断で帰ってきた
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎MRIの陰性所見は、首の仮説を下げる強い材料
担当者は当初、神経根由来を疑って評価を進めていました。首の屈曲で毎回痛むという一貫した反応があれば、そう考えるのが自然です。検討の場でも「画像がなければ自分も首を疑う」という意見でした。
だからこそ、MRIで頸椎に異常がないという情報は重い所見です。首由来の可能性を大きく下げる材料として使えます。ただし首の動きで症状が変わる反応が残る以上、関与をゼロとは置けません。
そこで候補に挙がったのが、上位頸椎だけを動かすストレステストです。顎を前に突き出す動作は上位頸椎中心の伸展になります。さらに椎体を押さえて特定の分節の動きを止め、症状の変化を見る方法もあります。手技の難度は高いものの、症状が減るようなら首の関与を支持する材料になります。
左の腱反射がやや弱い印象もありましたが、検者のバイアスが入った可能性があり、判定は保留になっています。知覚も未確認で、目を閉じてもらい左右を同時に触れて感覚差を見る検査を加える方針です。
肘の屈曲を、関わる筋ごとに分解する
肘の屈曲は、いろいろな要素が混ざる動作です。上腕二頭筋の収縮、上腕三頭筋の伸張、腕橈骨筋の収縮が同時に起きるため、どの要素で痛むのかを肢位を変えて切り分けます。
- 肩の肢位を変える肩を屈曲位にして肘を曲げると、上腕三頭筋の伸張が強まります。ここで痛みが増えるなら、三頭筋が伸ばされて痛む線を疑います。
- 前腕の肢位を変える回外位の屈曲は二頭筋が優位に、中間位の屈曲抵抗は腕橈骨筋の関与が増えます。中間位のほうが痛ければ腕橈骨筋が候補に挙がります。
- 抵抗の有無を比べる本例は自動での屈曲より抵抗をかけたほうが痛みが強く、筋原性の関与を示す方向の反応でした。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎「原因に心当たりがない」を検査で確かめ直す
打撲による筋痛だとすれば、あざや腫れがない点は引っかかります。ただ検討では、腫れが出ない程度の打撲もあるという見方でした。痛みを訴える場所への圧痛と、収縮時に痛む部位が一致するかを照らします。
前述の前腕中間位での屈曲抵抗はここでも使えます。腕橈骨筋の収縮で痛みが再現されるなら、強打による筋痛という説明と矛盾しません。2週間で2〜3割減という回復ペースも、この線と照らして評価します。
肩甲骨の下方回旋と、TOS(胸郭出口症候群)の線
もうひとつ残る候補が、TOS(胸郭出口症候群)です。本例では左の肩甲骨が右と比べてはっきり下方回旋しており、担当者はこのアライメントの影響を気にしていました。
前腕にかけての症状で頸椎の画像に異常がない場合、胸郭出口での神経への負担は候補に残ります。誘発テストと知覚検査を加え、首・肘・筋それぞれの検査結果と並べて絞り込む方針です。
検討の時点で未実施だった検査です。ここを順に埋めていきます。
- 外側上顆炎(テニス肘)の誘発テスト一式
- 顎を突き出す動作を含む、上位頸椎の分節別ストレステスト
- 前腕中間位での屈曲抵抗による、腕橈骨筋の関与の確認
- 閉眼で左右を同時に触れて感覚差を見る知覚検査
- バイアスを避けた条件での腱反射の再評価
- TOSの誘発テストと、肩甲骨アライメントとの関連の確認
診断名を出発点に、所見を重ねて絞り込む
本例は結論の出た症例ではありません。検討の時点では首・筋打撲・胸郭出口の三つの線が残り、上の確認項目を順に確かめる方針になりました。診断名と所見が合わないとき、診断を疑うのではなく、足りない検査を特定して埋めていきます。
MRIの情報は、撮影を勧めた医師の判断があったからこそ手に入った材料です。経過が思わしくない場合や神経学的な所見がはっきりしてきた場合は、あらためて医療機関への相談を勧めながら進めます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎





