ヘルニアは重い物を持ったから起こる?発症原因を単純化しないために

発症のきっかけだけで、原因を決めない

腰椎椎間板ヘルニアと聞くと、「重い物を持ったせい」と考えたくなるかもしれません。でも、発症のきっかけはいつも分かりやすいとは限りません。

ヘルニアの原因を、ひとつの動作だけに決めつけないこと。それは、患者さんに不要な恐怖を渡さないためにも大切です。

腰椎椎間板ヘルニアと聞くと、多くの人は「重い物を持った時にグキッとやった」という場面を思い浮かべます。

たしかに、そういうきっかけで症状が出る人もいます。

仕事で荷物を持った。トレーニング中に痛めた。中腰で作業していて、そこから足の痛みが出てきた。

こういう話は、臨床でもよく聞きます。

ただし、それだけで「ヘルニアは重い物を持ったから起こる」と言い切るのは少し危ないです。

発症のきっかけがはっきりしないヘルニアも多く、患者さん本人が思っている原因と、実際の病態がきれいに一致するとは限りません。

まなぶ先生
まなぶ先生

でも、重い物を持ったあとに痛くなったなら、それが原因じゃないんですか?

瀬谷崎
瀬谷崎

きっかけにはなったかもしれません。ただ、「それだけが原因」と決めると、動くことや持つこと自体を怖がらせてしまうことがあります。

「重い物を持ったからヘルニア」は、分かりやすいけれど単純すぎる

人は、痛みが出た時に原因を探します。

これは自然な反応です。

原因が分かれば安心できるし、次に何を避ければいいかも分かる気がするからです。

でも、腰椎椎間板ヘルニアのような病態では、発症の背景はひとつの動作だけで説明できないことがあります。

椎間板の状態、年齢、体質、生活負荷、睡眠、仕事、運動習慣、喫煙、心理社会的ストレスなど、いろいろな要素が重なります。

そこに、ある日たまたま荷物を持つ動作が重なった。

そういう見方もできます。

最後に痛みが出た動作が、必ずしも「すべての原因」とは限りません。

発症のきっかけが分からない例も多い

腰椎椎間板ヘルニアの発症に関する研究では、患者さんが思い当たるきっかけを確認しています。

その中では、発症のきっかけが明確ではない例が多く、重量物の持ち上げが占める割合は一部にとどまると報告されています。

もちろん、この結果だけで「持ち上げ動作は関係ない」と言いたいわけではありません。

重い物を持つ作業や、身体に合わない負荷が症状を悪化させることはあります。

ただ、全員に「重い物を持つな」「腰を曲げるな」と伝えるのは、少し雑です。

きっかけ
痛みが出た直前の出来事。荷物を持った、くしゃみをした、朝起きたら痛かった、など。

背景
椎間板の状態、生活負荷、体調、仕事、睡眠、運動習慣など、症状が出やすくなる土台。

解釈
患者さんや施術者が「何が原因だった」と考えるか。ここが怖さや回避行動に影響します。

臨床では、この3つを分けて考えたいです。

きっかけがあったからといって、それだけで原因が確定するわけではありません。

逆に、きっかけがないからといって、痛みが本物ではないという話でもありません。

原因の説明が、動く怖さを作ることがある

患者さんに「重い物を持ったからヘルニアになりました」と強く説明すると、どうなるでしょうか。

荷物を持つのが怖くなる。

前かがみになるのが怖くなる。

腰を曲げるだけで、また悪くなる気がする。

こうした回避が強くなることがあります。

もちろん、急性期に強い症状がある時は、負荷を調整する必要があります。

ただ、回復してきたあとも「腰を曲げるのは危険」「持つ動作は危険」と思い続けると、生活の幅が狭くなります。

説明の注意点

「この動作で痛みが出た」ことと、「その動作が一生危険」なことは同じではありません。痛みの時期と身体の状態に合わせて、できる動作を取り戻すことが大切です。

見るべきなのは、原因探しだけではない

ヘルニアが疑われる時、原因を探すことは大切です。

でも、それ以上に重要なのは、今どんな状態なのかを見ることです。

足の痛みやしびれはあるのか。

感覚低下や筋力低下はあるのか。

反射に変化はあるのか。

排尿・排便の異常はないか。

日常生活で何が困っているのか。

痛みは増えているのか、落ち着いてきているのか。

これらを見ずに、「重い物を持ったからですね」で終わるのは説明として足りません。

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、腰椎椎間板ヘルニアを疑う時に、発症のきっかけだけで判断しないようにしています。

問診で経過を聞き、神経学的所見を確認し、必要に応じて医療機関での確認も考えます。

その上で、患者さんが何を怖がっているのかも見ます。

重い物を持つのが怖いのか。

前かがみが怖いのか。

また痛みが出ることが怖いのか。

この怖さを無視すると、回復しているのに動けない状態が残ることがあります。

医療機関の受診について

強いしびれや脱力、排尿・排便の異常、急速に悪化する下肢症状、安静にしていても強い痛みが続く場合などは、医療機関での確認が必要になることがあります。

原因をひとつに決めすぎない

ヘルニアの発症を、ひとつの動作だけで説明すると分かりやすいです。

でも、分かりやすい説明が、いつも正確とは限りません。

重い物を持ったことがきっかけかもしれない。

でも、その背景には、もっと複数の要素があるかもしれない。

そう考えた方が、患者さんを不要に怖がらせず、必要な評価と回復の道筋を作りやすくなります。

瀬谷崎
瀬谷崎

「あの動作が原因です」と言い切るのは簡単です。でも、その一言で患者さんが動くことを怖がるなら、説明としてはかなり慎重であるべきだと思います。

参考

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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