「もっと勉強したい」に、手技本だけを渡さなかった理由

座学の次に必要なのは、臨床の外側を読むこと

とんとんの座学カリキュラムが終わった。その次に何を読むか。そこで手技本だけを渡さないところに、臨床家としての伸びしろがあると思っています。

治療家の勉強は、解剖・手技・疾患名だけでは足りません。痛みの見方、科学との距離感、患者さんとの意思決定、統計の読み方まで含めて、ようやく臨床の土台が太くなります。

弊社スタッフが「とんとんの座学のカリキュラム終了しました。どんどん勉強したいです」と言ってくれました。

こういう時、何を勧めるかはけっこう大事です。

もちろん、解剖や運動学、疾患別の評価、手技の本も大切です。

ただ、座学を一通り終えた段階で次に必要になるのは、もう少し広い読み物かもしれません。

痛みとは何か。エビデンスとは何か。患者さんとどう決めるのか。論文の数字をどう読むのか。

このあたりを避けたまま技術だけ積み上げると、臨床はどこかで詰まります。

まなぶ先生
まなぶ先生

座学が終わったなら、次はもっと手技や疾患別の本を読む感じかと思っていました。

瀬谷崎
瀬谷崎

それも大事です。でも、痛みやEBMや意思決定の見方が弱いまま手技だけ増えると、説明も判断も雑になりやすいです。技術の前に、世界の見方を増やす感じですね。

痛みを、組織損傷だけに閉じ込めない

まず読んでほしいのは、痛みを広く捉えるための本です。

痛みは、単に組織が傷んでいるから発生する反応ではありません。

文化、歴史、感情、記憶、社会、言葉、身体感覚、恐怖、生活背景。

痛みは、そういったものと絡み合って出現します。

この視点がないまま臨床に出ると、どうしても「硬いから痛い」「歪んでいるから痛い」「緩めれば治る」という狭い説明に寄りやすくなります。

痛みを広く見るための本

  • 痛みの文化史
    痛みを医学だけではなく、文化・歴史・心理社会的な体験として捉える入口。
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  • 無痛文明論
    痛みや苦しみを避け続ける社会そのものを考えるための一冊。
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  • 痛みと感情のイギリス史
    痛みを「生きられた経験」として読み直す歴史学の視点。
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  • 痛み、人間のすべてにつながる
    最新の疼痛科学を、身体・脳・社会のつながりとして眺める本。
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  • ナニコレ?痛み×構造構成主義
    慢性痛を一つの正解に押し込めず、意味や構造から捉えるための本。
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  • 疼痛医学
    疼痛の基礎から診断・治療まで、医学的な全体像を押さえるための教科書。
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  • ペインリハビリテーション
    痛みに対するリハビリテーションの考え方を、臨床へつなげるための本。
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痛みを広く学ぶと、患者さんへの説明も変わります。

「ここが硬いから痛いです」ではなく、「痛みには組織だけでなく、警戒や記憶や生活の影響もあります」と言えるようになります。

これは逃げではありません。

むしろ、痛みを雑に単純化しないための最低限の誠実さだと思います。

エビデンスを信じる前に、エビデンスとの距離を学ぶ

次に必要なのは、科学やEBMをどう扱うかです。

エビデンスは大切です。

ただし、エビデンスを「絶対に正しい神様」みたいに扱うと、それはそれで臨床が歪みます。

一方で、科学やEBMを理解しないまま「現場では違う」「患者さんが良くなればいい」と言い出すのも危険です。

大切なのは、エビデンスを使うことと、エビデンスに飲まれないことの両方です。

科学・EBM・疑似科学を考える本

  • なぜEBMは神格化されたのか
    EBMの歴史と、エビデンスという言葉が持つ力を考えるための本。
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  • 脱病院化社会
    医療化された社会そのものを疑うための古典的な医療批判。
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  • 疑似科学と科学の哲学
    科学と疑似科学の線引きを、雑な断罪ではなく哲学として考える本。
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  • 科学哲学
    科学とは何か、科学的に考えるとは何かを学ぶための入口。
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  • 「健康第一」は間違っている
    健康や予防を無条件に善とせず、医療の目的を問い直す一冊。
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ここが大事

EBMを学ぶ目的は、論文で患者さんを殴ることではありません。自分の判断がどれくらい不確実なのかを知り、そのうえで患者さんにとって現実的な選択肢を考えるためです。

正しさだけでは、患者さんは動かない

臨床では、正しい情報を伝えれば患者さんが動くわけではありません。

こちらが正しいと思う選択肢と、患者さんが大切にしているものがズレることもあります。

通院頻度、運動、休職、医療機関への紹介、セルフケア、生活習慣の変更。

どれも「正しいからやってください」だけでは成立しません。

だから、意思決定の本を読む必要があります。

患者さんと決めるための本

  • 医療における不確実性をマッピングする
    不確実性を消すのではなく、分類して扱うための視点。
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  • これから始める!シェアード・ディシジョンメイキング
    患者さんと医療者がともに決めるためのコミュニケーションの基礎。
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  • 患者の意思決定にどう関わるか?
    意思決定を「支援」ではなく「関与」として捉える、臨床家向けの実践書。
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  • エビデンスをめぐる往復書簡
    エビデンス、統計、公共性、生活の間を往復しながら考える本。
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患者さんの意思を尊重することは、丸投げではありません。

選択肢、メリット、デメリット、不確実性、患者さんの価値観。

それらを並べたうえで、専門家として一緒に考えることです。

ここを学ばないまま「患者さんが納得していればいい」と言うのは、けっこう危ういです。

数字を読めないと、論文にもSNSにも振り回される

最後に統計です。

統計は、治療家にとって避けたくなる分野かもしれません。

でも、感度、特異度、尤度比、的中率、相関、因果、バイアス、交絡、研究デザイン。

このあたりを全く知らないまま論文を読むと、都合のいい結論だけ拾うことになります。

SNSで流れてくる「研究ではこうでした」にも振り回されます。

統計・疫学・データ解釈の本

  • 完全独習 統計学入門
    統計に苦手意識がある人の入口として使いやすい本。
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  • 完全独習 ベイズ統計学入門
    ベイズ的な更新の考え方を、臨床推論にもつなげて学びやすい本。
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  • 「原因と結果」の経済学
    相関と因果を混同しないための、臨床にも役立つ因果推論の入口。
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  • 論文を読むための統計学
    論文を読む時に必要な統計の足場を確認するための一冊。
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  • 分析者のためのデータ解釈学入門
    データのばらつき、バイアス、解釈の落とし穴を学べる本。
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  • 今日から使える医療統計
    医療統計を臨床研究や論文抄読に使うための実践的な本。
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  • いちばんやさしい医療統計
    医療統計を図解でイメージしながら学びたい人向け。
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  • 基礎から学ぶ統計学
    統計学をもう少し体系的に学びたい人のための基礎固め。
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  • 入門 医療統計学
    医療の文脈で統計を学び直すための入門書。
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  • 基礎から学ぶ楽しい疫学
    研究デザイン、バイアス、交絡を含めて疫学の考え方を学べる本。
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  • 科学的思考入門
    因果、認知バイアス、科学的推論を日常の判断に落とし込む本。
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統計を学ぶ目的は、研究者ぶることではありません。

数字に強くなるというより、数字にだまされにくくなることです。

そして、自分に都合のいい論文だけを拾って、自分の臨床を正当化しないためです。

勉強熱心な治療家ほど、外側の本を読んだ方がいい

臨床の勉強をしていると、どうしても手技や解剖、疾患別のテクニックに目が向きます。

それは当然です。

目の前の患者さんを良くしたいなら、具体的な評価や介入を学びたくなるのは自然です。

でも、治療家が扱っているのは、筋肉や関節だけではありません。

痛みを持った人、情報に迷う人、不安を抱えた人、生活の中で選択を迫られている人です。

だから、臨床の外側を読む必要があります。

痛みを読む。科学を読む。患者さんとの関係を読む。数字を読む。

その積み重ねが、手技や評価の意味を変えていきます。

瀬谷崎
瀬谷崎

手技の本を読むな、という話ではありません。むしろ読みましょう。ただ、手技だけで臨床をやろうとすると、患者さんの痛みも意思決定も不確実性も取りこぼします。座学の次は、臨床の外側を読む。けっこう大事です。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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