尺骨神経の絞扼は肘部管だけじゃない。近位から6部位の絞扼マップで絞り込む
セラピスト向け
高さで見分ける、尺骨神経の絞扼マップ
小指側のしびれを肘部管だけで考えると、絞扼部位を取り違えます。尺骨神経は上腕の近位から手首まで複数の部位で絞扼され得るので、近位から順に部位を地図として持っておくと評価で迷いにくくなります。肘部管そのものの評価と保存療法は肘部管症候群の記事に送り、ここでは6部位の俯瞰に絞ります。
尺骨神経の絞扼を、肘部管に偏らず近位から6部位で俯瞰し、どの高さの問題かを分ける視点で解説します。
病態:尺骨神経は1か所では絞扼されない
尺骨神経はC8・T1由来で、上腕内側を下行し、肘の内側(内側上顆の後方)を通って前腕の尺側、手首のギヨン管を経て手内在筋へ向かいます。この走行のなかに筋膜・骨・靭帯性のトンネルが複数あり、いずれも絞扼の候補になります。とくに肘関節付近に絞扼点が密集しているため、肘部管とだけ考えると近位や遠位の絞扼を見落とします。
近位から6部位の絞扼マップ
近位から遠位へ、絞扼され得る部位を順に並べると次のようになります。
- ①Struthers(ストラザース)アーケード:内側上顆より近位にある、内側筋間中隔と内側上腕筋膜が作る筋膜様トンネル
- ②内側筋間中隔:上腕で神経が中隔を通る部位。肘屈曲の反復や前方移行術後で問題になりやすい
- ③上腕骨内側上顆部:内側上顆の直上。外反ストレスや変形の影響を受ける
- ④肘部管:内側上顆後方の溝。最も頻度が高く、肘屈曲で狭小化する
- ⑤Osborne(オズボーン)バンド:尺側手根屈筋の二頭の筋膜で構成される部位。肘部管の出口で絞扼する
- ⑥ギヨン管:手首の尺側。ここでは手内在筋に限った症状になり、感覚分布が変わる
④と⑤は肘部管とその出口で連続しており、肘屈曲位で同時に狭くなります。①から③は上腕レベル、⑥は手首レベルなので、症状の感覚分布と筋萎縮のパターンから「どの高さか」を分けるのが評価の軸になります。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎評価:高さを分けてから誘発を足す
- 感覚分布:手背の尺側(背側手枝)が含まれるか。含まれれば手首より近位の目安
- 肘部Tinel(チネル)・肘屈曲テスト:内側上顆後方の叩打、肘屈曲保持での再現
- 手内在筋:骨間筋・小指球の萎縮、Froment(フローマン)徴候、つまみ力の低下
- 近位の圧痛:内側上顆より近位(ストラザース領域)や筋間中隔での圧痛と放散
- 増悪肢位:肘屈曲位(睡眠・電話)、肘つきの習慣
誘発テストは単独で部位を確定できません。感覚分布で高さの当たりをつけ、Tinel(チネル)が最も強い部位・増悪肢位・筋萎縮を重ねて、最も整合する絞扼点を推定します。肘部管そのものの評価手順は肘部管症候群の記事に詳しいので、そちらに送ります。
鑑別:見落とすと方向を誤るもの
- 頚椎神経根症(C8・T1):頚部の動きでの放散、デルマトーム所見(頚椎ヘルニアと神経根症)
- 胸郭出口症候群:肢位依存の症状、近位の所見
- 二重絞扼(ダブルクラッシュ):近位と遠位の絞扼が併存し症状が増幅される
- 内側上顆炎との併存:ゴルフ肘では尺骨神経症状を伴うことがある(内側上顆炎の評価)
- 運動ニューロン疾患など:進行性・両側性なら念頭に置く
介入の方向性
- 肢位指導:肘屈曲位の回避、睡眠時の肘の伸展保持(軽い装具・タオル巻き)
- 絞扼点の保護:肘つきの見直し。近位が疑わしいときは前方移行術などの既往も確認する
- 神経の滑走、前腕・肘の負荷管理
- 物理療法は補助的に位置づける
- 筋萎縮や進行があれば手の外科へつなぐ
絞扼部位の推定は、治療方針そのものより「どこを保護し、どこで手の外科に相談するか」を決めるためのものです。手内在筋の萎縮や持続する筋力低下、進行する症状があれば、保存療法に固執せず除圧・前方移行などの適応評価につなぎます。徒手で無理にしびれを取ろうとせず、進行のサインを見逃さないことが大切です。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎「肘部管」から高さへ、絞扼点を絞り込む
尺骨神経の絞扼は近位から6部位あり、肘関節付近に密集しています。感覚分布で高さを分け、Tinel(チネル)・増悪肢位・筋萎縮を重ねて絞扼点を推定し、肘部管だけで説明がつかないときは近位・遠位を検討します。詳細な肘部管の評価と保存療法は肘部管症候群の記事へ。





