腹横筋の収縮遅延は腰痛の原因か。ドローインと選択的体幹トレを再評価する

インナーを「先に効かせる」ことに、どこまで意味があるか

腰痛では、四肢の動きに先立つ腹横筋の収縮(フィードフォワード)が遅れる、だからドローインで腹横筋を選択的に鍛えるべき、とされてきました。しかし研究では、収縮タイミングは運動でほとんど変わらず、変わっても痛みと結びつかないことが示されています。

「腹横筋を先に効かせる」という発想は直感的で広く浸透しました。その前提と、その後の研究が示したことを分けて見ていきます。

動画(瀬谷崎将也):該当の解説はこの位置から。

従来の理論:腹横筋の収縮遅延が腰を不安定にする

腰痛のある人では、手足を動かす前に働くはずの腹横筋の収縮が遅れる(フィードフォワードの遅延)。その結果、体幹の安定が損なわれて腰痛につながる。だからドローインなどで腹横筋を選択的に鍛え、収縮のタイミングを修正すべきだ、とされてきました。

研究が示すこと:タイミングは変わらず、痛みとも結びつかない

その後の研究では、運動を行っても腹横筋の収縮タイミングはほとんど改善せず、仮に改善したとしても痛みの改善には結びつかないことが示されています。腹横筋の収縮遅延は腰痛の根本原因とは言いにくく、特定のインナーマッスルを狙って鍛えることの重要性は、ほかの一般的な運動療法と比べて特別に高いわけではありません。

まなぶ先生まなぶ先生

ドローインで「先に効かせる」練習を結構やってきました。あれは意味が薄いということですか。

瀬谷崎瀬谷崎

「腹横筋を選択的に、先に」という部分の特別扱いに根拠が乏しい、というのが正確です。運動そのものが無意味なのではなく、特定の筋のタイミング修正に価値を置きすぎていた。多裂筋を硬さでなく働き方で見る話と同じ筋ですね。

教子先生教子先生

「どの筋を狙うか」より「続けられる運動と負荷」に重心を移す、ということですね。

臨床でどうするか

特定のインナーを先に効かせることに資源を割くより、本人が続けられる運動、段階的な負荷、痛みへの恐怖の軽減を優先します。体幹の運動療法を否定するのではなく、「腹横筋だけを選択的に」という特別扱いを外し、全体的な運動の一部として位置づけ直します。

「インナーが弱いから腰痛」という説明は分かりやすいぶん、原因を一点に固定しすぎる副作用もあります。弱さや遅れを悪者にせず、動けること・続けられることに焦点を当てた説明に変えていきたいところです。

瀬谷崎瀬谷崎

腹横筋のフィードフォワード遅延は直感的で広まりましたが、収縮タイミングは変わりにくく、変わっても痛みと結びつきません。特定のインナーを選択的に鍛えることを特別視せず、続けられる運動療法の一部として扱う。それが今のエビデンスに沿った構えだと思います。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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