運動療法で腱の構造は変わるのか。構造の変化と痛みの改善はどこまで結びつくか
施術・検査ガイド
運動で腱の構造が変わることはある。
ただ、痛みの改善は構造だけでは説明しきれない
腱症(けんしょう)の腱には、コラーゲン線維の配列の乱れなど、構造的な変化が起きています。運動療法でその構造が変わるという報告はありますが、構造の変化そのものが痛みの改善と結びつくかは、まだ意見が分かれています。研究の要点と、臨床でどう受け止めるかをまとめます。
腱症の腱には、痛みだけでなく組織そのものの構造的な変化が生じていることが多いとされます。この記事では、運動療法が腱の構造にどのような影響を与えるのか、そしてその構造の変化が痛みの軽減とどこまで関連するのかを、系統的レビューなどの研究をもとに見ていきます。あわせて、当院が臨床でこの知見をどう受け止めているかをまとめています。
結論:運動療法が腱の構造に関与する可能性はありますが、構造が変わること自体が痛みの改善と直結するとは限りません。腱の構造だけを目標にせず、痛みや動きの変化を軸に進めるのが実際的です。
腱の痛みが長引くと、腱そのものを作り直せば痛みも消えるはずだ、と考えたくなります。実際、腱症の腱には目に見える構造の変化があり、運動療法でそれが変わるという報告もあります。ただ、研究を並べると、構造の変化と痛みの改善は、思ったほど素直には対応していません。
腱症の腱では、微細な構造が変わっている
腱症は、腱に負担が繰り返しかかることで、腱の組織が変性していく状態です。顕微鏡で見ると、健常に近い腱と腱症の腱では、微細な構造にはっきりした違いがあります。下の図は、その違いと、それぞれの図が何を示しているかをまとめたものです。
健常に近い腱ではコラーゲン線維が一方向にそろっていますが、腱症の腱では線維の並びが乱れ、細胞や基質が増えています。テノサイト(腱の細胞)の形もばらつき、細胞外マトリックス(ECM・エーシーエム=細胞のすき間を埋める物質)が増えます。こうした変化は、痛みとは別に、腱の質そのものが変わっていることを示しています。
研究は何を示しているか
運動療法が腱の構造にどう影響するかを調べた研究を並べると、次のようになります。
| Langbergら(2007) | 12週間の遠心性(エキセントリック)収縮の運動で、損傷したアキレス腱のⅠ型コラーゲンmRNA(メッセンジャーアールエヌエー=コラーゲンを作る設計図)が増えたと報告されています。 |
|---|---|
| Drewら(2014・レビュー) | 遠心性運動については、観察できる構造変化で臨床の改善を説明できるという裏づけは乏しいとされます。一方、HSR(ヘビースローレジスタンス=高負荷でゆっくり行う筋トレ)では、一部で構造変化を伴う可能性が示唆されました。 |
| Färnqvistら(2020・レビュー) | アキレス腱の長期追跡では、構造変化が見られたコホート(追跡集団)が4件、見られなかったコホートが1件でした。また、構造変化が臨床の改善と並行した報告が4コホートで確認されています。 |
| de Vosら(2012) | 24週間の遠心性運動のあとも、整った腱構造の増加は見られず、腱の構造は症状の重さやVISA-A(ヴィーサ・エー=アキレス腱症の症状スコア)の変化と関連しなかったと報告されています。 |
運動の負荷は、腱のコラーゲン代謝や微細構造の適応に関与する可能性があります。ただし、収縮の様式による違いや、どの介入で構造変化が起こりやすいかは一貫していません。運動療法が腱の構造変化に関連するというエビデンスはある一方で、その構造変化自体が痛みと結びつくかについては、まだ不明な点が多いのが実際です。
Langberg H, et al. Scand J Med Sci Sports. 2007 / Drew BT, et al. Br J Sports Med. 2014 / Färnqvist K, et al. J Sport Rehabil. 2020 / de Vos RJ, et al. J Sport Rehabil. 2012
構造が変わること=痛みが減ること、とは限らない
ここが、腱症を考えるうえで大切なところです。腱の構造が運動で変わるとしても、その変化がそのまま痛みの軽減につながるかは、研究の間で意見が分かれています。構造がほとんど変わらなくても症状が良くなった、という報告もあります。
つまり、運動療法で腱症の痛みが和らぐとき、腱の作り直しだけがその理由とは言い切れません。腱の耐える力(負荷への耐性)が上がる、痛みを感じる神経の反応が変わる、動かせる自信が戻るといった、構造以外のいくつものメカニズムが一緒に働いていると考えられます。
臨床では、構造ではなく痛みと動きを軸に見る
この知見は、運動療法を否定するものではありません。腱症では運動療法を治療の軸に据える考え方が研究に支持されています。ただ、その目標を「腱の構造をきれいにすること」に置きすぎないほうが、実際の回復とかみ合います。
目安にするのは、動かしたときの痛みの変化、続けられる負荷の量、日常やスポーツへの戻り具合です。腱の構造はゆっくりとしか変わらないため、構造の改善だけを待っていると、良くなっている実感を見落としてしまうことがあります。痛みと動きを軸に、段階的に負荷を上げていくのが実際的です。
安静にしていても強く痛む、腫れや熱感が続く、力が入らない、急に強い痛みが出て歩けない・動かせないといった場合は、腱症以外の問題も考え、まず医療機関での確認が必要になることがあります。
関連症状:こんな訴えと合わせてみる
- アキレス腱やかかとの後ろが、動き出しに痛む
- 肘の外側や内側が、物を持つと痛む
- 膝のお皿の下が、ジャンプや階段で痛む
- 画像では変化が乏しいのに、腱の痛みが続いている
- 運動療法を続けているが、良くなっている実感がつかみにくい
構造は一つの手がかり、軸は痛みと動き
腱症の腱には、コラーゲン線維の乱れなど確かな構造の変化があり、運動療法でその構造が変わるという報告もあります。ただし、構造の変化そのものが痛みの改善と結びつくかは、まだ意見が分かれています。
だからこそ、腱の構造をきれいにすることを目標に据えるより、痛みや動きの変化を軸に、無理のない範囲で段階的に負荷を上げていく組み立てが実際的です。構造は回復を測るうえでの一つの手がかりとして受け止めます。
とんとん整骨院では、腱の部位や痛みの強さ、続けやすさを踏まえて運動療法を組み立て、必要な場合は医療機関での確認につなげることを大切にしています。













