動診で症状が出ない患者をどう評価するか。静止時の症状と筋力検査で手順を分ける
セラピスト向け
その場で再現できない痛みの評価手順
「立ち仕事を10分続けると痛くなる」「寝るときだけ痛い」。来院時の動診では症状が出ない患者さんは、どの現場にもいます。再現痛を指標にする検査が使えないとき、評価をどう組み立てるか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に出た相談をもとに、手順を確認します。
とんとんの検査体系は、動診で出した再現痛を指標に、確認検査で関節運動を、ANOテスト(当院で原因筋を絞り込むために使う押圧検査。外に広まった呼称ではありません)で筋を絞り込む流れが基本です。ただこの流れには前提があります。その場で症状を再現できること、です。
治療家からは「動診で症状が誘発されない患者に、検査をどこまで行うのか」という相談が繰り返し出ます。相談者いわく、来院時に運動時痛が全くない患者さんは、その場でビフォーアフターを出せないぶん、少し焦る場面だといいます。
この記事では、実際の検討内容をもとに、再現できない痛みへの評価手順を3つの分岐で見ていきます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎分岐1|静止でも症状があるなら、確認検査は使える
まず切り分けたいのは、症状の出方です。首肩こりのように、座っている状態でも常に凝り感があるタイプなら、確認検査やANOテストの対象になります。静止立位や静止座位でもその場で症状があるので、姿勢を保持したまま狙った関節運動や筋を操作し、いまある症状が減るか消えるかを見られるからです。
一方、同じ立位でも「ただ立つ」では出ず「立位の継続でしか出ない」タイプは、その場での操作で症状を動かせません。ここが最初の分かれ目になります。動診で出ない=検査ができない、と一括りにする前に、静止時に症状があるかどうかを先に確かめる。検査自体の手順は再現痛を指標にした確認のやり方で扱ったとおりです。
分岐2|「10分続けると痛い」タイプは、筋力と可動域から予測する
「立位を10分続けると痛くなる」のように、時間の蓄積でしか症状が出ないタイプには、その場で症状を変化させる検査は基本的に使いません。社内に明確な基準があるわけではないと前置きしたうえで、返ってきた回答は具体的でした。
- 筋力と可動域を評価するMMT(エムエムティー・徒手筋力検査)と可動域を確かめ、いまの筋の状態を把握する。
- 姿勢の予測を立てる「この筋の筋力低下が続けば、静止立位でこの姿勢になっていく」という予測を、介入の前に全部立てる。
- 予測した姿勢へ介入する骨盤がやや前方変位したスウェイバック姿勢が見えるなら、腸腰筋のMMTやフッキング(足を引っかけて行う筋力の確認)で筋力を評価し、弱い筋のトレーニングと、その姿勢を作り得る筋への介入を組む。
いまの症状ではなく、症状を生む姿勢の成り立ちを評価対象にする、という発想の切り替えです。その場でビフォーアフターは出せないので、筋力の状態からこの姿勢になっていくと予測して進める、という言い方をしていました。
- 静止時に症状があるか、時間の蓄積でしか出ないかを分ける
- 静止時症状があれば、確認検査・ANOテストの対象にする
- 時間蓄積型は、MMTと可動域から姿勢の予測を立てる
- スウェイバックなら腸腰筋・フッキングのMMTで、姿勢を作り得る筋を確かめる
- 介入後は、症状が出るまでの時間や頻度の変化を指標にする
実例|朝の起き上がりだけ痛む50代男性
朝の起き上がり時だけ腰が痛み、日中は動いていると楽になる50代男性。来院時は前屈・伸展・回旋・側屈のいずれでも痛みが出ず、所見がほとんど取れない。股関節前面やハムストリングスへの介入で数日は楽になるが、また戻る、という相談でした。
検討は、介入の方向は妥当としたうえで、日中の姿勢に原因を求めるものでした。デスクワークで腰椎屈曲位が長いと、腹筋群の短縮と大殿筋の延長が進み、股関節の伸展制限と朝のこわばりにつながる、という見立てです。そこで施術に加えて、次のセルフケアを習慣にしてもらう組み立てになりました。
- 就寝前に腹筋群のストレッチを行う
- 胸腰椎を伸展方向へ動かすセルフケアを取り入れる
年齢を考えると、起床時に痛み、動くと慣れてくる経過は腰椎の変形性変化でも見られるため、問診を掘り下げる点も挙がりました。動きで変わらない痛みの症例検討は座っているとお尻が痛い、動きでは変わらない痛みをどう考えるかでも扱っています。
分岐3|神経障害による筋力低下には、早期からトレーニングを入れる
ヘルニアなどの神経障害でMMTが落ちている場合も、評価だけで終わりにするのでなく、早い段階からトレーニングを入れる方針が示されました。
相談者は当初、ヘルニアへの介入はするものの、下がったMMTそのものへの筋力トレーニングは頭になかったといいます。ヘルニアがあるからMMTが低下しているのだろう、という認識で止まっていた、という率直な共有でした。
神経障害が解消しても、筋力低下と筋萎縮は残ります。跛行など別の症状の原因になり得るため、神経そのものへの介入と並行して、落ちた筋のトレーニングを早期から組みます。
たとえばL5神経根のレベルでは、腸腰筋や下腿の神経支配筋群に筋力低下がよく見られ、歩容に影響します。患側の下肢が短くなったように、足を落とし込むぎこちない歩き方になりやすい。
だからヘルニアそのものへの介入と並行して、落ちた筋のリハビリを目的にしたトレーニングを早期から組む。長期化すると筋萎縮まで進むため、その予防でもある、という結論でした。
まなぶ先生
瀬谷崎再現できない痛みには、時間軸で仮説を立てる
その場で再現できない痛みは、検査が通用しないのではなく、指標を変える合図です。静止時症状があれば確認検査へ。時間蓄積型なら筋力と可動域から姿勢を予測する。神経障害による筋力低下には早期からトレーニングを組む。
どの分岐でも共通するのは、いまの症状だけでなく、症状が作られていく過程を評価の対象にすることです。
瀬谷崎





