大会直前の腰椎分離症疑い。学生アスリートの出場と画像確認をどう判断するか
セラピスト向け
画像・出場・その後まで、材料をそろえて判断する
大会を目前にした学生アスリートの腰痛で、腰椎分離症が疑わしい。画像は撮り直すのか、試合には出すのか、それまでの介入はどうするか。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に検討した相談をもとに、判断の材料を並べます。
相談のもとになった患者さんは、バレーボール部のキャプテンを務める中学3年生。腰椎のL4右側、傍脊柱部に痛みがあり、前屈と伸展からの右回旋で誘発される、いわゆる伸展型の腰痛です。
数か月前にも同じ症状でMRI(エムアールアイ・磁気共鳴画像)を撮り、そのときは腰痛症の診断。今回も同じ部位に所見があり、数週間後に県大会を控えている、という状況でした。
治療家として悩ましいのは、診断は医師にしかできない一方で、練習量の調整も、再受診を勧めるかどうかも、現場で日々選手と会う私たちの言葉に左右されることです。挙がった判断材料を、順に見ていきます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎腰椎分離症という状態の前提
腰椎分離症は、椎骨の後方にある関節突起間部(かんせつとっきかんぶ)に生じる疲労骨折と考えられています。成長期に、伸展と回旋を繰り返すスポーツで起こりやすいとされ、バレーボールのスパイクやサーブ、野球、サッカーなどが背景に挙がります。
早期であればあるほど、通常の画像では捉えにくいのが要点です。ごく初期は骨の連続性がまだ保たれ、骨の内部の変化が主体になるため、一度のMRIで所見が出なくても否定はできません。逆に、早く見つかれば骨癒合を狙える時期でもあり、疑いが続く症例で撮り直す判断には意味があります。
材料1|一度の「異常なし」で消し込まない
この症例で決め手になったのは、所見が前回と変わっていないことでした。肋骨隆起(肋骨と背骨の境目あたりの隆起)を触診して左右に揺らすと、明らかな圧痛があります。
しかもそれが、数か月前に受診したときと全く同じ所見だといいます。伸展型の腰痛で、限局した圧痛が同じ場所に続いている。この組み合わせは、時期を変えて画像を確かめ直す理由になります。
「分離症でも痛みが出たり引いたりするのか」という質問も出ましたが、答えは、あり得る、でした。痛みの波があること自体は、分離症でも椎間関節性でも起こり得るため、それだけでは分離症を肯定も否定もできません。
一方で、圧痛と誘発動作が前回と同じでも、椎間関節性の腰痛など分離症以外の可能性も残ります。だからこそ、現場で白黒つけず、判断材料を医師に渡すのが治療家の役割になります。伸展型腰痛の評価は骨盤後傾で痛みが変わるか、動作別の切り分けは曲げる、反る、ひねるで変わる腰痛でも扱っています。
材料2|紹介状は「念のため確認しましょう」の温度で
具体的に挙がったのが、伝え方の温度です。「分離症の可能性があるので」と切り出すと、選手も保護者も一気に不安になります。そうではなく「念のため、もう一度確認しておきましょう」という温度で再受診を勧める。伝える内容は同じでも、選手が大会前に受け取る心理的な負担が違います。
再受診を勧める判断と、不安をあおる伝え方は別物です。疑いの強さは紹介状に、患者さんへの言葉は「確認」の温度に。この使い分けは、学生アスリートに限らず応用が利きます。
材料3|出場の判断は、リスク説明と本人の意思で
中学3年生という学年も、判断材料になります。高校でも競技を続ける可能性が高い選手なら、目先の1大会と数年の競技人生を天秤にかけて、出場を見合わせる説得を試みることも選択肢に入ります。
それでも本人が出場を強く希望するなら、リスクを本人と保護者に十分説明したうえで意思を尊重し、大会後に必ず受診と処置を行うことを条件にする。検討で示されたのは、治療家が出る・出ないを決めるのではなく、条件と情報をそろえて、本人と家族が選べる状態を作るという整え方でした。
まなぶ先生
瀬谷崎材料4|それまでの介入は、腰以外で悪化を防ぐ
大会までの期間にできることもあります。疑い部位そのものへの強い介入は避けつつ、伸展・回旋のストレスを腰椎に集めている要因、股関節の可動域制限や胸椎の回旋制限に介入して、腰への負担を減らす方向です。腰椎が伸展と回旋を余計に引き受けているぶんを、隣り合う関節に分散させる発想です。
この症例では、胸椎の回旋が未評価だったため、四つ這いでの単独回旋の検査を次回に組むことになりました。四つ這いで骨盤を固定した姿勢を作ると、腰椎の代償を抑えて胸椎の回旋だけを見やすくなります。評価の抜けをその場で見つけて次に回せるのも、症例を持ち寄る場の効用です。
- 成長期の伸展型腰痛+限局した圧痛は、時期を変えた画像の撮り直しを検討する
- 前回と同じ所見が続くこと自体が、再確認の材料になる
- 再受診は「念のため確認」の温度で勧める
- 出場は、リスク説明のうえで本人・保護者の意思を尊重し、大会後の受診を条件にする
- 大会までは股関節・胸椎など腰以外への介入で負担を減らす
- 未評価の項目を残さないよう、次回の検査計画まで立てる
出る・出ないの手前に、そろえるべき材料がある
学生アスリートの分離症疑いは、診断・出場・介入の3つの判断が同時に走ります。治療家が一人で抱えず、画像は医師に、意思決定は本人と家族に、それぞれ材料をそろえて渡す。現場の介入は腰以外で負担を減らす。役割を分けると、大会前でも判断は落ち着いて進められます。
瀬谷崎




