徒手中心の施術を、運動療法中心へ組み替える。順番と置き換えの考え方
セラピスト向け
施術の主役を、手から運動へ移す
徒手によるマッサージや調整、モビライゼーションに慣れていると、運動療法を軸にした施術構成には踏み出しにくいものです。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで、瀬谷崎が実技練習会の内容をもとに共有した、運動療法を中心に据えた施術の組み立て方を紹介します。
共有のもとになったのは、2回にわたる実技練習会でした。施術内容をあらかじめ決めておき、20分の施術時間のなかで運動療法にほぼ振り切って介入を組み、どのくらい変化が出るかを試す内容です。
徒手中心の施術に馴染んでいるほど運動療法中心の構成には切り替えにくいという声が多く出ていました。典型的な迷いとして共有されたのは、こんな懸念です。
- 運動は自宅でもできるので、満足度が下がるのではないか
- 運動で悪化させてしまったらどうしよう
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎運動を先に置くか、下地を作ってから運動に入るか
動くと痛いと感じている患者さんが多い前提に立てば、先に徒手や物療で疼痛を抑えてから運動につなげる流れが標準的です。ただ、最初に痛みを抑えてから運動に入ると、運動が治療の補助のような位置づけになりやすく、その効果を実感してもらいにくい面もあります。
そこであえて運動療法を最初に置き、ビフォーアフターを先に出す組み方も選択肢に入ります。「運動ってこんなに体にいいんだ」という手応えを、先に体験してもらう狙いです。
痛みが強い患者さんでも、あえて運動から入れて変化を実感してもらう選択は十分にありえます。受動的な介入から能動的な介入へ移していく考え方とも重なります。
橋渡しになる手技を挟む
いきなり負荷の高い運動から始めるのは不安だという場合の橋渡しとして使いやすいのが、確認検査を使ったマリガンコンセプト(MWMs・運動併用モビライゼーション)や、操体法です。
確認検査の動きをそのままMWMsとして繰り返してもらう、あるいはANOテストの姿勢を使って動かしてもらう形であれば、関節を動かしながら鎮痛も狙えるので、運動軸の構成へ移る足がかりになります。
伸展症候群であれば確認検査を10回ほど繰り返し、「さっきより楽です」という変化を先に出す流れです。
操体法は効果の出方を説明しにくい手技ですが、動きながら変化を出せる選択肢として使われています。
緩める施術は、7割ほどストレッチに置き換えられる
これまで押圧で緩めていた介入は、まずストレッチに置き換えられないか考えてみます。大腿四頭筋を押していたところを伸ばしてみる、上腕二頭筋を押していたところを伸ばしてみる、というように一旦ストレッチに変えてみると、運動療法への発想の転換がスムーズになります。
感覚としての目安ですが、押圧で緩めていた施術のうち7割ほどはストレッチに置き換えられるという印象です。腱の状態に対しても運動療法が支持されている場面は少なくありません。
ただしすべての筋が向くわけではなく、小胸筋や胸鎖乳突筋、大腿筋膜張筋はストレッチ感が出にくく、角度によっては痛みを誘発しかねない筋です。これらは無理をせず、押圧で対応したほうが安全な場面として残します。
緩める介入はまずストレッチに変えられないか試します。小胸筋・胸鎖乳突筋・大腿筋膜張筋は押圧に戻してよい筋として残します。
ホームエクササイズを院内で一緒に行うだけでも運動療法中心になる
もうひとつ手軽な始め方が、普段処方しているホームエクササイズを、そのまま院内で施術者と一緒に行うことです。二人で行うことで負荷を高められますし、確認検査を使ったMWMsのように一人では難しい運動もあります。
処方している運動を院内でなぞるだけで、運動療法軸の構成に近づけられます。自宅での実施量は上限を決めて渡す考え方が、院内の負荷設定にもそのまま生きてきます。
EIHを狙うなら、患部に近い部位から動かす
運動による鎮痛効果EIH(イーアイエイチ・運動誘発性鎮痛)は、患部に近い部位を動かすほど働きやすいとされています。腰痛の患者さんが肩を回す運動も悪くはありませんが、EIHを狙うなら腰部に近い部位の運動を優先したほうが理にかなっています。
- 腰痛であれば大殿筋や中殿筋、腹斜筋のトレーニングが候補になる
- 腰椎の動きを伴わない腹筋群の運動は誘発リスクが低く、最初の一手として選びやすい
- 運動を先に置く型と、下地を作ってから運動に入る型の二択で構成を考える
- 確認検査を使ったMWMs(マリガンコンセプト)や操体法は動きながら鎮痛も狙える橋渡しの手技
- 緩める施術は7割ほどストレッチに置き換え可能(小胸筋・胸鎖乳突筋・大腿筋膜張筋は例外)
- ホームエクササイズを院内で一緒に行うだけでも運動療法中心の構成になる
- EIHを狙うなら患部に近い部位の運動を優先する(腰痛なら腰部近位の種目)
- ストレッチとトレーニングの選択は運動習慣・治療観のヒアリングで決める
ストレッチかトレーニングか、押圧系との組み合わせ方
ストレッチとトレーニングのどちらを先に選ぶかは、問診で運動習慣や治療への価値観をヒアリングしておくと決めやすくなります。症状の原因は何だと思うか、どんな治療で良くなると考えているか。
こうした質問で治療観をつかんでおくと、最初から運動を入れて大丈夫そうか、あえて運動から入れたほうがよさそうか見立てやすくなります。ストレッチは、受動的な手技療法と能動的な筋力トレーニングの中間に位置づけられる印象があります。
押圧系の手技は疼痛誘発の心配が比較的少なく、症状が消失したあとも継続して問題ありません。
一方で運動の負荷は、強すぎると単純に痛みを誘発しますし、恐怖心が拭えていない状態で行えばそれも悪化として受け取られます。筋肉痛を悪化と誤解されることも含め、恐怖心と強度の見きわめは慎重に扱いたいところです。
手から運動へ、施術の重心を動かす
徒手中心の施術に慣れているほど、運動療法軸の構成には距離を感じるものです。緩める介入をストレッチに置き換え、処方している運動を院内で一緒に行うだけでも、施術の重心は運動へと動かせます。橋渡しの手技を挟みながら少しずつ比重を上げていくと、どれだけの変化が運動だけで出せるか実感を持てるようになります。
別の回では、腰椎の伸展で症状が出ていたロードバイク選手を、デッドリフトなどのウエイトトレーニングへどう戻すかが話題になりました。
共有された進め方は、痛みが十分落ち着いていることを前提に、ブレーシング(腹圧を高めた状態の保持)を臥位で身につける、下肢の運動を加える、立位で種目に近い動作の型を無負荷で繰り返す、という段階です。型の練習を1か月ほど続けてから徐々に負荷を上げる、いきなり高負荷へ戻さない、という時間感覚も挙がりました。
本人が一度症状で慎重になっている場合は、その心理も尊重して負荷を急がない点が、この記事の「順番を設計する」という考え方と重なります。
瀬谷崎





