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股関節が90度しか曲がらないのは異常か。股関節単独と腰椎の代償を切り分ける検査手順

その90度は、股関節単独ですか

仰向けで股関節を曲げると、90度あたりで止まってしまう。この制限が股関節そのものの硬さなのか、腰椎の動きが混ざった結果なのかで、選ぶアプローチは大きく変わります。タオルとASIS(上前腸骨棘・じょうぜんちょうこつきょく)を使った切り分けの手順を取り上げます。

この記事について

このコラムは、当院が開いているオンラインカンファレンスで実際に挙がった相談をもとにしています。股関節の曲がりにくさを訴える60代の患者さんについて、参加院の先生と検討したやり取りから、股関節単独の可動域と腰椎の代償を切り分ける検査手順を取り上げます。

著者アイコン 伊藤聡史

同じ90度でも、股関節単独の90度と、腰椎の代償を足した90度では方針が変わります。タオルと指1本でできる切り分けなので、側面からの目視とセットで検査に組み込むことをおすすめします。

結論:股関節の屈曲は90度前後でも正常範囲に収まる可能性があり、数字だけでは判断できません。腰の下にタオルを入れて側面から観察し、ASISの動きで骨盤の後傾を確かめると、股関節単独の動きか腰椎の代償かを分けられます。

屈曲90度という数字をどう扱うか

相談のもとになった症例は、60代の女性でした。股関節の曲がりにくさが主訴で、仰向けで股関節を曲げていくと90度あたりで止まります。

痛みで曲げられないというより、「それ以上行かない」という制限の訴えで、片側には詰まり感がありました。一方で、反対側の股関節と比べても可動域には大きな差がないという所見です。

ここで検討に出たのが、90度という数字そのものの扱いです。

数値の目安

股関節単独の屈曲可動域は94度程度という報告があり、ある程度の標準誤差を見込むと、股関節単独では90度あたりまでしか曲がらない人も正常範囲として存在しうる、という見方が共有されました。

つまり、仰向けの屈曲が90度で止まること自体を、ただちに異常と見なす必要はないわけです。

ただし、ここで検査が終わりになるわけではありません。同じ「90度」でも、成り立ちは2通り考えられます。

  • 股関節単独の動きで90度に届いている
  • 股関節は途中で止まっていて、腰椎の屈曲が混ざった合計で90度になっている

この2つは見た目の角度が同じでも、中身がまったく違います。

タオルとASISで腰椎の代償を切り分ける

切り分けの方法として、共有されたのが次の手順です。特別な道具は使いません。

  1. 腰の下にタオルを入れる丸めたタオルや小さな枕を、腰の下、第3腰椎(L3・エルスリー)のあたりに入れます。腰椎のカーブを保った状態を作るためです。
  2. 側面から観察しながら股関節を曲げるできるだけ側面に回り、股関節を曲げていく途中で腰椎が屈曲していないかを目視で確認します。
  3. ASISの動きで骨盤の後傾を確かめるASIS(上前腸骨棘)に指を触れたまま曲げていきます。ASISが頭側へ動けば骨盤が後傾している、つまり腰椎が屈曲しているという手がかりになります。

この検査で分かるのは、90度という角度が「どこで」作られているかです。そして結果によって、その後のアプローチは大きく分かれます。

骨盤の後傾がほとんど見られず、股関節単独で90度前後まで届く 股関節の可動域はその人の正常範囲の可能性があります。股関節だけを追ってもそれ以上は望みにくいため、腰椎や脊柱がきちんと屈曲できるようにする方向へ切り替えます。
早い段階で骨盤が後傾し、腰椎の屈曲が混ざって90度になっている 股関節が動いていない分を、腰椎が過剰に屈曲して補っている状態です。代償としては適切な反応ですが、この場合は股関節の屈曲可動域そのものへのアプローチが必要になります。

詰まり感には徒手牽引で反応を見る

今回の症例では、曲げたときの詰まり感や、カクッとする関節の感覚も訴えにありました。こうした感覚は、院内で再現できないことも多く、原因の場所を言い当てるのが難しいものです。検討でも、関節音の正体は特定できないままでした。

そこで共有されたのが、原因の特定を急がず、まず徒手牽引への反応を見るという方法です。

  1. 詰まり感の直前で止める膝を支えて股関節を曲げていき、詰まり感が出る直前あたりで止めます。
  2. 長軸方向へ軽く牽引しながら揺らすそこから大腿骨の長軸方向へ軽く牽引しながら揺らし、もう一度曲げてみます。
  3. 曲がりが深まったら繰り返す少し先まで曲がるようになっていたら、また同じように牽引します。屈曲の角度が深まるにつれて、牽引する方向も大腿骨の向きに合わせて変えていきます。

回数や秒数に厳密な決まりがあるわけではなく、牽引の前後で可動域や詰まり感がどう変わるかという「反応」を見ることが目的です。変化が出れば、そのまま可動域を広げる手技として続ける選択肢にもなりますし、変化の有無そのものが評価の材料になります。

圧痛が腸腰筋かどうかは触診で確かめる

この症例では、ASISの内側あたりに圧痛があり、そこを押さえたまま曲げると詰まり感が軽くなるという反応も見られました。場所からすると腸腰筋(ちょうようきん)が疑わしいのですが、押して痛いというだけでは決め手になりません。

ここで挙がった確かめ方は、腸腰筋が表層に出てくるあたりで、筋を横切る方向に弾くように触れてみることです。患者さんの答えによって、考える候補が分かれます。

  • 「その痛みです」となれば、腸腰筋由来の可能性が高まる
  • 「もっと奥のほうです」という答えなら、関節由来の可能性を考える

押さえた状態で詰まり感が減った理由も、腸腰筋への圧なのか、大腿骨頭の前方への変位が抑えられたのか、触診で分けながら確かめていきます。

施術前のチェックポイント

  • 屈曲が90度前後で止まっても、まず反対側との差を確認する(差がなければ正常範囲の可能性)
  • 腰の下にタオルを入れ、側面から腰椎の屈曲を目視で確認する
  • ASISに触れ、頭側へ動くか(骨盤の後傾)を確かめる
  • 股関節単独の90度なら腰椎・脊柱へ、腰椎の代償込みの90度なら股関節へアプローチする
  • 詰まり感や関節音は、長軸方向の徒手牽引で可動域の反応を見る
  • 圧痛部位は、腸腰筋を横に弾く触診で筋由来か関節由来かを確かめる
実際の検討例(オンラインカンファレンス・PLFテストの読み方)

別の回では、股関節を体幹に近づけるPLFテスト(後方下制テスト・膝を胸に近づける動き)の解釈が話題になりました。膝が胸につかないとき、それが腰椎の後弯(後ろへの丸まり)が足りないのか、殿部など股関節周囲の筋のタイトネス(硬さ)なのかを、テスト単体では分けにくいという相談です。

挙がった切り分けは、この記事と同じ発想でした。仰向けで腰の下にタオルを入れ、股関節に軸方向の圧をかけながら屈曲させると、腰椎の屈曲を最小限に抑えたまま股関節単体の動きを見られます。座位でPSIS・ASIS(骨盤後方・前方の出っぱり)を触りながら観察する方法も挙がりました。前提として、股関節単体の屈曲はもともと90度程度しかなく、胸につくかどうかで見ている評価の多くは腰椎の可動域を反映している、という点も共有されています。

著者アイコン 伊藤聡史

同じ90度でも、股関節単独か腰椎の代償込みかで、やるべきことは正反対に近いほど変わります。角度の数字だけでなく、その角度がどう成り立っているかまで確かめるのが検査だと考えています。

伊藤聡史
株式会社とんとん/とんとん整骨院。臨床技術責任者。柔道整復師。

臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」講師。院内では臨床研修責任者として若手の技術指導を担い、論文抄読会の主催など、根拠に基づく施術(EBM)の浸透に取り組んでいる。

監修:瀬谷崎将也
とんとん整骨院代表・柔道整復師

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