前脛骨筋のMMTを正しく取る。母趾側の圧と足趾グーで長趾伸筋を切り分ける
施術・検査ガイド
背屈だけでは、前脛骨筋を見たことにならない
前脛骨筋(ぜんけいこつきん)のMMT(徒手筋力検査)は、ただ背屈に抵抗をかけるだけでは長趾伸筋(ちょうししんきん)まで一緒に評価してしまいます。母趾側の圧のかけ方、足趾を握らせる工夫、電気刺激への反応の読み方を取り上げます。
このガイドは、当院のカンファレンスで下垂足のような症状の患者を検討したときに出た、前脛骨筋のMMTの取り方の見直しをもとにしています。教科書の背屈内反という表記の由来、足趾を握らせて長趾伸筋の関与を抑える選択的な評価、指伸筋が優位に働く背屈から読み取れること、ハイボルテージ(高電圧の電気刺激)への反応を回復の見込みの材料にする考え方まで触れます。下垂足そのものの疾患解説は別記事に譲ります。
結論:前脛骨筋の腱は母趾側に付くため、母趾側に圧を加えて背屈に抵抗するのが正しい取り方です。足趾を握らせると長趾伸筋の関与が抑えられ、前脛骨筋を選んで評価できます。電気刺激で収縮が戻るかは、回復の見込みを話すときの手がかりになります。
背屈内反という表記の由来
前脛骨筋のMMTというと、足首を背屈させて上から抵抗をかける取り方が広く教えられています。ただ、この取り方だけでは背屈を担うほかの筋、とくに長趾伸筋が一緒に働いてしまい、前脛骨筋だけを見たことにはなりません。
教科書によっては、前脛骨筋の検査を背屈内反と表記しているものがあります。この内反という言葉が、単純な背屈のイメージと食い違って迷いのもとになります。背屈内反という表記は、足関節の動きを昔の内返し・外返しで説明していた時代の名残と考えられます。
前脛骨筋の腱は足の内側、母趾のつけ根側に付きます。だからこの筋が働くと、足首は背屈しながら内側へ向かう方向に動きます。検査で見たいのはこの走行に沿った力なので、母趾側に圧を加えて背屈方向に抵抗するのが、走行に沿った正しい取り方になります。
足関節の軸と自然な動き
足関節は解剖学的な軸が水平ではなく傾いているため、背屈と底屈にそれぞれ横方向の動きが自然についてきます。この連鎖を知っておくと、背屈内反という表記の意味が読み取りやすくなります。
背屈するときは外返し方向へ、底屈するときは内返し方向へ動くのが、軸の傾きに沿った自然な組み合わせです。前脛骨筋は単独では背屈と内反を組み合わせた方向に足を引き上げるため、その走行に合わせて母趾側で抵抗を取ります。
この連鎖を踏まえると、前脛骨筋が単独で弱ったり働きが落ちたりすると、背屈のときに内側へ引き上げる力が抜けて、背屈が外返し方向に流れやすくなると考えられます。抵抗を母趾側にかけて内側への引き上げを見ることで、この筋の状態をとらえやすくなります。
前脛骨筋のMMTを正しく取る
取り方の要点は、抵抗をかける位置と、余計な筋を働かせない工夫の2つです。順番に確認します。
- 母趾側に手を当てる足の甲の内側、母趾のつけ根側に手掌を当てます。前脛骨筋の腱が付く側に触れておくのが出発点です。
- 背屈内反の方向に構えさせる患者に足首を背屈しながら内側へ引き上げてもらい、その位置を保たせます。前脛骨筋の走行に沿った肢位です。
- 底屈外反の方向に抵抗する検査者は背屈内反を戻す向き、つまり底屈しながら外返しさせる向きに圧を加え、患者にはその力に抗って位置を保たせます。
- 足趾を握らせて再確認する足の指を握った(グーにした)状態で背屈させると、長趾伸筋の関与が抑えられ、前脛骨筋を選んで評価できます。
足趾を握らせる工夫は、指を曲げる筋を先に緩みにくくすることで、指を反らせて背屈を助ける長趾伸筋の働きを抑える狙いです。単純な背屈で見たときと、足趾を握らせて見たときの差を比べると、前脛骨筋そのものの弱さなのか、ほかの背屈筋で代償しているのかを分けて考えやすくなります。
指伸筋優位の背屈が示すもの
足趾を握らせずに背屈させたときに、指が反り返るように上がってくる場合は、前脛骨筋よりも長趾伸筋など指を反らせる筋が優位に働いていると考えられます。この見え方そのものが、代償のヒントになります。
指伸筋が優位な背屈は、足関節の前方で詰まる感覚を誘発しやすいという特徴もあります。前方の脂肪体が挟み込まれるインピンジメントによる詰まり感で、前脛骨筋主体の背屈と見比べると、背屈時の前方のつかえを鑑別する手がかりになります。
| 見ているもの | 取り方と読み取り |
|---|---|
| 単純な背屈への抵抗 | 前脛骨筋と長趾伸筋がそろって働く。指が反り返って上がるなら指伸筋が優位に代償している見え方。 |
| 足趾を握らせた背屈 | 長趾伸筋の関与が抑えられ、前脛骨筋を選んで評価できる。ここで弱ければ前脛骨筋そのものの弱さを疑う。 |
| 母趾側での抵抗 | 前脛骨筋の走行に沿った内側への引き上げを見る。外返し方向に流れるなら内側の引き上げが弱い。 |
| 背屈時の前方の詰まり | 指伸筋優位の背屈で誘発されやすい。前方脂肪体のインピンジメントによる詰まり感の鑑別に使う。 |
回復の見込みをどう見立てるか
反応が遅れていた筋でも、ハイボルテージで収縮を促すと力が入りやすくなることがあります。電気刺激で筋の収縮が戻るなら、その筋はまだ生きていて、再教育で回復する余地が残っていると見立てる材料になります。
逆に、電気をかけても収縮がまったく出ない場合は、より重い状態と考えられ、回復は難しくなります。この見立てはあくまで手がかりのひとつで、確定的な予後判定ではありませんが、患者に見込みを話すときの根拠として使えます。
中殿筋(ちゅうでんきん)のMMTを見て変化がはっきりしないときは、後脛骨筋(こうけいこつきん)も併せて確認します。1つの筋だけで判断せず、支配の高さが近い筋を重ねて見ることで、弱さの範囲をとらえやすくなります。
再教育と靴で気をつけること
前脛骨筋の弱さに対して再教育を進めるときは、内反位をこれ以上助長しないよう、前脛骨筋そのものの働きを引き出す方針で組み立てます。内側へ引き込む力ばかりが強まらないよう、足全体のバランスを見ながら進めます。
あわせて確認したいのが靴です。サイズが合っていない靴や履き方のクセが、足の筋のバランスに影響している可能性があります。評価と再教育を進める前に、ふだん履いている靴まで見ておくと、原因の見落としを防ぎやすくなります。
前脛骨筋のMMTは、母趾側の抵抗と足趾を握らせる工夫で、見たい筋を選んで評価するのが基本です。指が反り返る背屈や前方の詰まりは代償のサインとして読み、電気刺激への反応で回復の見込みを見立てます。
- 母趾側に手を当て、底屈外反の向きに抵抗して前脛骨筋の走行に沿って見る
- 足趾を握らせた背屈で長趾伸筋の関与を抑え、前脛骨筋を選んで評価する
- 指が反り返る背屈や前方の詰まり感は指伸筋優位のサインとして読む
- 中殿筋で変化がなければ後脛骨筋も確認する
- 電気刺激で収縮が戻るかを回復の見込みの材料にする
下垂足そのものの評価は別記事へ
ここでは前脛骨筋のMMTの取り方に絞りました。足首が上がらない、つまずくといった下垂足の背景に何を考えるかは、腓骨神経麻痺(ひこつしんけいまひ)の見方を扱った別記事で取り上げています。MMTの結果を、しびれや腰との関係まで含めて解釈するときの土台として合わせて確認してください。





