バーベルで痛む肩前面。上腕二頭筋長頭腱と前上方関節唇を分ける確認検査、肩甲骨から組む介入設計
セラピスト向け
ぶり返す肩前面の痛み、二頭筋の一段先を疑う
バーベルを扱う35歳男性の、水平屈曲で出る肩前面の痛み。上腕二頭筋長頭腱炎を疑って介入すると一度は取れるのに、必ずぶり返す。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに挙がった相談をもとに、確認検査の広げ方と、トレーニング習慣を活かした介入設計を考えます。
相談されたのは35歳男性。バーベルを使うウエイトトレーニングの習慣があり、肩の水平屈曲と、バーベルやダンベルを持とうとする場面で肩の前面に痛みが出ます。部位はご本人も「この辺かな」と探すような訴え方で、結節間溝の辺りから烏口突起、小胸筋の付着部の辺りまでの範囲です。
経過は長く、炎症が強く残っている印象ではありません。上腕二頭筋長頭腱炎を想定して二頭筋を軽くストレッチすると、その場では痛みが取れる。ところが必ずぶり返す。施術は週1回ペースで4回目、期間にして1ヶ月というのが相談時点の現在地でした。所見をひと通り挙げます。
- 結節間溝に圧痛があり、普段感じている痛みと一致する
- 二頭筋のANOテスト(エーエヌオーテスト。原因と疑う筋を押圧して症状の増減を見る、とんとんで使っている確認検査の呼び名)は陽性
- 棘下筋のANOテストは陰性。上腕骨頭が前方へ滑る感触はあるが、押さえたときの反応は出るときと出ないときがある
- 他動で動かしても痛みは出ない。内旋可動域も大きな制限はない
- 肩甲下筋の輪ゴムを使った低負荷トレーニングをその場で行うと、痛みが軽くなる
- 外旋を誘導しながらの水平屈曲では、はっきりした変化がない
- 肩甲骨は両側とも翼状化があり、挙上時に過度な外転・上方回旋方向の動きが目立つ
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎二頭筋長頭腱の一段先に、前上方関節唇を並べる
水平屈曲で肩の前面が痛むとき、条件反射的に浮かぶのは上腕二頭筋です。ただ、この部位の痛みではもうひとつ、関節唇の損傷が候補に挙がります。今回の痛みの範囲なら前上方関節唇。上方の関節唇損傷はSLAP(スラップ)損傷とも呼ばれる領域で、確定にはMRI(磁気共鳴画像)が必要です。つまり最終的な診断は医師の領分になります。
押さえておきたいのは、上腕二頭筋長頭腱と関節唇に解剖学的な連結があることです。関節唇の損傷でも、二頭筋長頭腱系の検査で陽性が出ることは多いとされます。二頭筋のANOテスト陽性が、そのまま長頭腱炎の根拠になるわけではないのです。
二頭筋系の検査の陽性は「長頭腱そのものの問題」だけでなく「長頭腱と連結する系のどこかの問題」まで含みます。連結先の関節唇を候補に置くと、ストレッチで一度取れて必ずぶり返す経過にも説明がつきます。
痛む動作に条件を足し引きする、追加の確認検査
検討で挙がった追加の確認は次の3つです。いずれも、痛みが出る動作そのものに条件を足したり引いたりして、症状の増減を見るやり方です。
- オブライエンテスト肩を屈曲し、やや水平内転・母指を下に向けた肢位で上から圧を加える。この肢位で痛み、手のひらを上に向けた肢位では痛まなければ陽性で、関節唇の関与を疑います。本例では未実施でした。
- 他動での再現と外旋の付加バーベルを持つ動作についても、他動で再現した場合、外旋をわずかに加えた場合で痛みが変わるかを確かめる。水平屈曲側で変化がなくても、動作ごとに結果は分けて見ます。
- 骨頭を前方から押さえる仰向けでベッドの端に寄り、腕を外に出した肢位で上腕骨頭を前方から押さえ、疼痛動作を再現。症状が軽くなれば、前方すべりの関与が濃くなります。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎肩甲骨の安定化を主軸に、カフの再教育は低負荷から
介入の柱は3つです。1つ目は僧帽筋・前鋸筋による肩甲骨の安定化。2つ目はローテーターカフ(回旋筋腱板)の再教育で、輪ゴムやクッション潰しのような低負荷の種目から始めます。肩甲下筋の輪ゴムトレーニングでその場の痛みが軽くなった事実は、この方向の手応えとして扱えます。
低負荷から始める理由は代償です。本例のように大胸筋が発達した方では、軽い負荷のつもりでもすぐに大胸筋が仕事を持っていきます。狙った筋に効いている感覚を確かめながら、2〜3ヶ月かけて段階的に負荷を上げる時間軸が、検討の場で共有された目安でした。
3つ目は、トレーニングで肥大した大胸筋などの多関節筋の柔軟性改善を並行することです。日常的にトレーニングを積む習慣がある方なので、介入自体をトレーニング種目として設計すれば、生活の中に組み込みやすい症例でもあります。
主軸は僧帽筋・前鋸筋の肩甲骨安定化。カフ再教育は低負荷から、大胸筋の代償をモニターしながら段階的に。多関節筋の柔軟性改善を並行し、肩そのものへの施術は確認検査で反応が出たものに対応させます。
整形外科へ送る基準を持って、保存療法を進める
関節唇の損傷が実際にあるかどうかは、MRIを撮ってはじめて確かめられます。それでも検討では、週1回で4回・1ヶ月という現時点の経過なら、整形外科への紹介はまだ時期尚早で、まず保存療法を組み立てる段階だという判断でした。
ただし紹介の線を消したわけではありません。肩甲骨の安定化とカフの再教育を進めても症状の改善が乏しいときには、画像検査のできる整形外科の受診を勧める。この基準をあらかじめ持っておくと、患者さんにも経過の見通しを伝えやすくなります。本例は、この方針で保存療法を進めることになりました。
瀬谷崎





