首肩の痛みと息苦しさが2年半。治療を試し尽くした患者に何を提案するか
セラピスト向け
物療も徒手も運動も反応が同じとき、次の提案をどう組み立てるか
2年半続く首肩の痛みと息苦しさ。複数の病院も鍼灸も経て、物理療法・徒手・運動療法のどれにもはっきりした差が出ない40代男性。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、明確な改善方法がつかめない患者への提案の組み方を考えます。
相談されたのは40代男性の症例です。2年半前から首と肩の痛みに息苦しさを伴い、整形外科2院・内科・心療内科を受診し、鍼灸院にも半年以上通った経過があります。今年5月に「治療法はないですか」と当院へ再来院し、週1回の通院を3ヶ月続けている段階でした。
息苦しさを伴う訴えでは、医科での確認が前提になります。本例は内科を含む複数の医療機関の評価を経ており、脳のCT(コンピューター断層撮影)とMRI(磁気共鳴画像)も撮影済み。発症前後に思い当たるイベントもないとのことです。同じ訴えで医科が未受診なら、施術の工夫より先に受診を勧める場面です。
運動器の所見は乏しく、大きな可動域制限はありません。探せば頸部伸展がやや悪い程度で、頭痛の誘発もありません。施術直後は楽になるものの、帰宅して入浴する頃には痛みが戻る。この繰り返しでした。
- 超音波、ハイボルト(高電圧電気刺激)、徒手、トレーニングのどれでも、終わった後の楽さは同じ
- 痛み日記ではNRS(痛みの数値評価)5と7を行き来し、増減のはっきりした規則はつかめていない
- 朝のウォーキング、ヨガ、1時間ごとの肩回しなど、セルフケアには非常に熱心
- この1〜2年は在宅勤務が続き、辛さに加えて「仕事に行く目処が立たない」ことが大きな悩み
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎「通ってもらうメリット」を言葉にできるか、が正面の課題になる
担当者は率直でした。「明確な改善方法や原因が分かれば勧められるが、うちに通ってもらうメリットがあまり思いつかない」。週1回3ヶ月で持ち越しの変化が出ていない以上、これは誠実な悩みです。
検討では「よそへ行くくらいなら、うちに通ってもらったほうがいい」という以前の話も引き合いに出されました。ただしその文脈は、ある程度良くなった患者を卒業させるか、メンテナンスとして通ってもらうかを選ぶ場面の話です。
改善が出ていない今回に同じ理屈を当てはめると、囲い込みと区別がつかなくなる。この確認から議論が始まりました。
直後の変化はあるのに持ち越しがない状態が3ヶ月続いたら、「何のために通うのか」を施術者側が説明できるかが問われます。説明のないまま回数だけ重ねる形が、いちばん避けたい形です。
「一旦やめたら、どうしますか」から相談を始める
検討で示された進め方のひとつは、試しに治療を中止する場面を仮定して、患者に「そうしたらどうしますか」と聞くことでした。本例の担当者の見立ては「別の場所を探すと思います」。実際、これまでも複数の治療先を長期間試してきた方です。
であれば、あちこちを点々とするより、月1回や2週に1回の来院でその都度新しい試みを続ける形もある。あるいは、興味を持てる別の療法を探して行ってみるのもひとつ。この両方をそのまま患者に並べて、相談して決めるという形です。
担当者はすでに、回数券の残り6回を週1回で消化せず、2週に1回へ間隔を空けてトレーニングの効果を長期で見る話を患者としていました。頻度を落とすことは手抜きではなく、判定の期間を長く取るための設計です。この方向は検討でも支持されました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎テーマをひとつに固定して、期間を切ってコミットする
もうひとつの柱が、場当たりに新しい手技を試し続けるより、テーマをひとつ決めて一定期間コミット(集中)する案です。本例の候補は、以前から患者と話題にしていた姿勢の改善でした。
要点は、症状の強さを一旦アウトカム(成果の指標)から外すことです。代わりに「良い座位姿勢をどれだけの時間、維持できるか」を指標に置きます。中身は股関節から上の、座位姿勢のトレーニングが中心です。
- 腰椎が過度に屈曲しないよう、適度な前弯を保つ
- 頭部の位置を保つ
- 腹圧や腹斜筋を働かせる
- 座位で骨盤が後傾しすぎないよう、腸腰筋を使えるようにする
期間の目安は、検討で共有された臨床印象で3ヶ月から半年。運用面では、その人専用のプランとして組み、費用の負担が重くなりすぎないバランスを取るという助言もありました。ちぐはぐな試行錯誤を重ねるより、しばらくこれにコミットしてみませんか、と期間ごと提案する形です。
症状の改善をアウトカムにしない以上、「これで治ります」とは言えません。検討では「治るかどうかは分かりませんが、やってみる価値はあります」という言い方が確認されました。
保証はしない、しかし方針と判定の期間は示す。試し尽くした患者との信頼関係を保つのは、この説明の形だと考えます。
患者が別の療法へ流れても、それは失敗ではない
検討では、こうした経過の患者がある日、理屈のよく分からない方法で急に楽になることがある、という臨床印象も共有されました。10年以上前、施術で良くならなかった患者が近所の腱引き(けんびき。腱を弾く民間の手技とされます)で一気に楽になったと聞いた例が挙がっています。
オステオパシー(欧米由来の徒手医学の体系)やクラニオセイクラル(頭蓋仙骨療法)のような、別の体系に興味を持つ患者もいます。これは特定の療法を勧める話でも、効果を認める話でもありません。患者が自分で選んで移ること自体を、選択肢のひとつとして認める姿勢の話です。
避けたい形はただひとつ、よく分からないまま高額の費用を払って結果も出ないこと。そこへの注意を伝えたうえで、送り出す判断も相談のテーブルに載せる度量が要ります。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎





