つま先が離れる瞬間に痛む膝の内側。大殿筋と腓腹筋のインバランスから立てた仮説
セラピスト向け
緩めるとすぐ戻る腓腹筋の後ろに、働けていない大殿筋を探す
40代男性、膝の内側からお皿の内側、膝蓋骨の内側上方あたりの痛み。誘発されるのは歩行の立脚後半、つま先が地面を離れる瞬間だけです。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、腓腹筋と大殿筋のインバランスという読み筋を追いかけます。
担当スタッフから相談されたのは、筋トレをやり込んできた40代男性の膝痛です。痛むのは膝の内側とお皿の内側、膝蓋骨の内側上方のあたり。歩行でつま先が離れる直前、つま先立ちのような形になる瞬間に痛みが集中します。
- 痛むのは立脚後半、つま先が地面を離れる瞬間だけ。つま先立ちの形になるタイミング
- 回旋系・伸展系の症候群検査は、どちらも微妙な反応で典型に乗ってこない
- 腓腹筋を押さえていると少し楽になる。腓腹筋の緊張はかなり強い
- 手技で腓腹筋を緩めるとかなり楽になるが、時間が経つとすぐ戻る
- 骨盤を前傾位・後傾位のどちらへ誘導しても、痛みは大きく変わらない
- 他院で半年ほど鍼を含む施術を受けても変わらず。その間、スクワット系のトレーニングは休んでいた
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎押さえると楽、緩めてもすぐ戻る。この往復をどう読むか
腓腹筋を押さえていると楽になり、手技で緩めればかなり楽になる。ここまでなら、腓腹筋が症状に関与しているという手応えです。問題はその先で、時間が経つと緊張も痛みもすぐ戻ってしまいます。
骨盤を前傾位・後傾位に誘導しても変化がなく、骨盤の肢位を変えるだけでは説明がつきません。他院で半年、鍼を含む施術を受けても変わらなかった経過も、局所を緩めるだけでは届かない何かを示唆します。
緩めてもすぐ戻る筋は、それ自体が悪者というより「働かされ続けている筋」の可能性があります。緊張せざるを得ない理由が別にあるなら、緩める施術を繰り返しても同じ経過をたどりやすい、という臨床印象です。
エリーテストの跳ね上がりと、大殿筋MMTの弱さが指す方向
手掛かりになったのが、股関節まわりの2つの所見です。エリーテスト(うつ伏せで膝を曲げ、大腿直筋の短縮をお尻の跳ね上がりで見る検査)では、跳ね上がりが結構出る陽性寄りの反応。一方で、大殿筋のMMT(徒手筋力検査)は弱めでした。
股関節を伸ばす主役である大殿筋がうまく働けないと、立脚後半の蹴り出しをふくらはぎ側が肩代わりする形になります。腓腹筋は膝裏をまたいで大腿骨の内側上顆側へ付く筋なので、つま先が離れる瞬間、伸長されながら強く働くタイミングで膝の内側寄りに痛みが出るという出方とも矛盾しません。検討では、大殿筋と腓腹筋のインバランスとしてこの症例を読む解釈が共有されました。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎方針は、大殿筋の強化と腓腹筋の抑制の二本立て
検討で出た方針は明快で、大殿筋と腓腹筋のインバランスの改善に全力を注ぐというものです。大殿筋のトレーニングは段階を踏んで進めます。
- うつ伏せでの大殿筋トレーニング最初の段階。うつ伏せで股関節の伸展を行い、大殿筋の収縮を確かめながら進めます。
- 台を使った骨盤後傾での挙上トレーニング側の足を台や椅子に置き、骨盤を後傾させたまま体を引き上げます。後傾を先に作ることで大殿筋に入りやすくする、検討の場で共有された方法です。
- 立位のCKC(閉鎖性運動連鎖)へ足裏を着けたまま行う立位の運動へ段階的に移行し、歩行に近い条件で大殿筋を使える状態を目指します。
並行して、腓腹筋には抑制をかけます。物療ならハイボルト(高電圧の電気刺激)、それに鍼。緩めると楽になるという反応は確認できているので、戻るまでの間に大殿筋側を底上げしていく組み立てです。他の部位への介入を足すと痛みが戻りやすい印象も共有され、介入先は腓腹筋と大殿筋に絞る方針になりました。
この方はハムストリング(太もも裏)が優位に働きやすい体型で、大殿筋のトレーニングのつもりがハムばかり使ってしまう恐れがあります。殿筋に効いているかをフォームごとに確かめ、ハムに効かせすぎないよう最大限注意する、という点が検討で強調されました。
戻る筋の後ろに、働けていない筋を探す
局所の反応だけ見れば「腓腹筋を緩めれば楽になる症例」です。しかし緩めてもすぐ戻る経過こそが、腓腹筋を働かせ続けている背景、つまり大殿筋の弱さへ目を向ける根拠になりました。戻るという事実を仮説の材料に変えられるかどうかが、この症例の分かれ目だと思います。
なお、膝の引っかかり感や腫れ、安静時の痛みなど筋のインバランスでは説明しにくいサインがある場合は、整形外科での画像評価を先に挟む判断も必要です。診断は医師の領分として、確かめてから施術を組み立てます。
瀬谷崎




