臨床と売上のあいだで悩む治療院へ。まともに続けるための経営の見方
セラピスト向け
まともな臨床を続けるには、売上から逃げられない
患者さんに必要なことだけを提案したい。でも、院を続けるには売上も必要。この葛藤から逃げずに考えることが、治療院経営ではかなり大事です。
臨床か売上か、ではありません。患者さんにとって意味があり、院も続けられる形をどう作るか。そこを考え続ける必要があります。
治療院を運営していると、きれいごとだけでは済まない場面があります。
患者さんのためを思えば、不要な通院はすすめたくない。治ったなら卒業してもらいたい。必要ないものを売りたくない。
でも、その姿勢を真面目に突き詰めるほど、売上の手札は減っていきます。
逆に、倫理観をいったん横に置けば、売上を作る方法はいくらでもあります。不安を強く煽る。全員に同じ高額メニューをすすめる。必要性が薄い回数券を売る。
少し辛口に言うと、売上だけを上げるのは、実はそんなに難しくありません。難しいのは、まともな臨床を捨てずに売上を作ることです。

まなぶ先生

瀬谷崎
臨床と経営は、きれいに分けられない
「患者さんのため」と「院の売上」は、対立するものとして語られがちです。
たしかに、短期的にはぶつかることがあります。
患者さんが良くなって通院頻度が下がれば、売上は下がります。必要ないメニューを売らなければ、売上の機会は減ります。1回で大きく改善すれば、リピートは減るかもしれません。
でも、売上がなければ院は続きません。
院が続かなければ、患者さんを見続けることも、スタッフを育てることも、まともな臨床を広げることもできません。
臨床を大切にするなら、経営も大切にしないといけません。売上から逃げることは、長い目で見ると臨床から逃げることにもなります。
ここを雑に扱うと、どちらかに振り切れます。
売上だけを追う院になるか、理想だけで続かない院になるか。
どちらも、患者さんにとってはあまり良い状態ではありません。
臨床的意義と売上で、4つに分けて考える
院で行っている施術や提案は、ざっくり4つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 分類 | 状態 | 考えたいこと |
|---|---|---|
| 臨床的意義あり・売上あり | 患者さんに意味があり、院も続けられる | 理想に近い。ここを増やしたい |
| 臨床的意義あり・売上なし | 良いことだが、院の継続にはつながりにくい | 価値として届ける設計を考える |
| 臨床的意義なし・売上あり | 売上にはなるが、患者さんへの意味が薄い | そのまま売るのではなく、意義を作れるか見直す |
| 臨床的意義なし・売上なし | 誰のためにもなりにくい | 基本的にはやめる、減らす、仕組みから外す |
この4つで見ると、「売れるかどうか」だけでは判断できないことが分かります。
売れるけれど意味が薄いものもあります。意味はあるけれど売上になりにくいものもあります。
治療院経営で大事なのは、この2つの軸を同時に見ることです。
売上になるけれど意味が薄いものを、そのまま売らない
売上にはなるけれど、臨床的な意味が薄いものは、扱い方が難しいです。
たとえば、ただ寝ているだけで何かが変わるように見せるメニュー。全員に同じ回数券を売る流れ。将来不安を強く煽って、必要以上に通わせる提案。
こういうものは、短期的には数字を作ります。
でも、患者さんの信頼を削ります。スタッフの倫理観も削ります。長く続けるほど、院の空気が悪くなります。
売上になるからやる、で止めない。本当に臨床的な意味があるのか。あるなら、どの患者さんに、どの目的で、どの条件で使うのか。そこまで考えたいところです。
ただし、「今の自分が意味を説明できない」ことと、「本当に意味がない」ことは別です。
ここが少しややこしい。
勉強すると、売上メニューが臨床メニューに変わることがある
物理療法でも、運動療法でも、セルフケアでも、知識が浅いと「なんとなく使うもの」になります。
なんとなく当てる。なんとなくすすめる。なんとなく回数券にする。
これでは、売上目的に見えても仕方ありません。
でも、適応、禁忌、目的、負荷量、タイミングを勉強すると、見え方が変わります。
売上になるメニューに、後から都合よく意味をつけるのではありません。病態や評価に基づいて、「この人にはこの目的で必要」と説明できるところまで引き上げることです。
この差は大きいです。
同じ機械を使っていても、説明できる人と、売るために置いているだけの人では、患者さんへの価値が変わります。
同じ通院提案でも、評価と計画に基づいているのか、不安を煽っているのかで、まったく別物になります。

まなぶ先生

瀬谷崎
意義はあるけど売上にならないものも、設計が必要
反対に、臨床的には意味があるけれど、売上につながりにくいものもあります。
たとえば、通院頻度を下げる提案。セルフケアの指導。早期卒業。医療機関への受診案内。必要な範囲だけで終える判断。
これらは患者さんにとって大事です。
ただ、院の売上だけを見ると、短期的には下がります。
良いことをしているのに続かないなら、仕組みが足りません。臨床的に正しいことを、どう院の価値として残すかを考える必要があります。
ここで必要なのは、無理に通わせることではありません。
患者さんが納得して選べるメニュー設計、再発予防やメンテナンスの説明、卒業後の相談導線、短期集中で価値を出す価格設計など、考えられることはあります。
「良い臨床だから売上は我慢する」だけだと、院は続きません。
良い臨床を続けるために、どう価値として届けるか。ここも経営者の仕事です。
倫理観を捨てると、スタッフも患者さんも苦しくなる
売上目標があること自体は悪くありません。
数字がなければ、院は続きません。スタッフの給与も、教育も、設備も守れません。
ただ、数字だけが先に立つと、現場はおかしくなります。
- 必要性よりも販売額を優先する
- 患者さんの不安を強く煽る
- 全員に同じメニューをすすめる
- 治っているのに卒業させない
- スタッフが自分の説明に違和感を持つ
こうなると、売上は上がっても、現場の信頼は削れます。
真面目なスタッフほど苦しくなります。「これ、本当に患者さんのためなのかな」と思いながら説明し続けるのは、かなりしんどいです。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、臨床と経営を切り離して考えないようにしています。
患者さんに必要なことを説明する。不要なことは売らない。医療機関での確認が必要な可能性があれば、そこも曖昧にしない。
そのうえで、院として続けられる仕組みを作る。
きれいな話だけではありません。売上も見ます。数字も見ます。スタッフの生活も見ます。
ただし、そのために患者さんの不安を利用するような形にはしたくない。ここは譲りたくないところです。
「患者さんのため」と言いながら売上から逃げるのも、「経営のため」と言いながら倫理観を捨てるのも、どちらも雑です。両方を見て悩むところから、やっと運営が始まります。
悩み続けることも、経営の仕事
臨床と売上のバランスに、きれいな正解はありません。
患者さんに必要なことだけをしたい。でも、院も続けたい。スタッフにも生活がある。勉強にも設備にもお金がかかる。
この葛藤をなくすことはできません。
むしろ、なくなった時の方が危ないです。何も感じずに売れるものだけを売るようになったら、臨床から遠ざかっているかもしれません。
大事なのは、葛藤を抱えながら、それでもより良い落としどころを探し続けることです。

瀬谷崎













