捻挫は治ったはずなのにアキレス腱が痛い。距骨下関節から原因を探す遺残症状の評価
セラピスト向け
痛む場所と原因は別にある。足関節捻挫のあとに残るアキレス腱周囲の痛みの読み方
内返し捻挫から半年以上たっても、アキレス腱まわりの痛みだけが残る。靭帯のストレステストは落ち着いているのに、切り返しの瞬間だけ痛みが出る。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスで実際に挙がった相談をもとに、痛む場所と痛みを作っている要因を分けて評価する考え方を紹介します。
年末に競技中の内返し捻挫を受傷し、医師の診察で靭帯の損傷を疑われた選手のケースです。シーネ固定と松葉杖での免荷を経て競技には復帰したものの、半年以上たった今も痛みが残っています。
痛むのは、着地からの切り返しで背屈が最大になった瞬間のアキレス腱。ところが前方引き出しテストは「少し緩いかもしれない」という程度で、腱そのものの圧痛も強くありません。他動で背屈を強めても腱に痛みは出ず、動作のときだけ痛む。この食い違いをどう読むかが今回の軸になります。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎ストレステストの読み方。完全断裂ではなく2度損傷と推察する根拠
まず受傷時の損傷程度から見立てます。手元にある所見を並べると、次のようになります。
- 前方引き出しテストは「少し緩いかもしれない」程度で、明らかな不安定性はない
- 内返し・外返しのストレステストで、靭帯の伸長痛は出ない
- アキレス腱そのものの圧痛は強くない(内側の三角靭帯付近には圧痛が残る)
- 朝は背屈がマイナス5度ほど制限され、腱周囲のリリースで正常域に戻る
- 左右で腱周囲の硬さが明らかに違う
前方引き出しが軽度にとどまることから、前距腓靭帯(ATFL)の完全断裂ではなく、2度損傷程度だったのではないかと推察されます。ストレステストで伸長痛が出ない以上、靭帯そのものはそれなりに回復していると読むのが自然です。
つまり、半年後の痛みを靭帯損傷の続きとして説明するのは難しい。捻挫の初期評価と再発しやすい足首の見方は別の記事で扱っており、今回はその先、回復したはずの足首に痛みが残る局面の話です。
距骨下関節を操作するとアキレス腱に痛みが出る、という手がかり
手がかりになったのが、距骨下関節への牽引操作です。踵骨を押し込みながら回内させる整復方向の操作を試みたところ、関節が離開したタイミングでアキレス腱側に痛みが誘発されました。
腱に直接触れていないのに、踵骨を動かすと腱に痛みが出る。この現象からは、アキレス腱が疲労性に短縮している、あるいは踵骨まわりの位置の崩れを腱側の張力で代償している可能性が疑われます。
朝の背屈制限がリリースで正常域に戻ることも、腱実質の器質的な問題というより、周囲の張力や位置関係の問題を示す所見と読めそうです。
痛みが出ている場所(アキレス腱)と、痛みを作っている要因(距骨下関節・踵骨の位置、腱の疲労性短縮)を分けて仮説を立てる。腱への直接介入だけで変化が乏しいときほど、この分け方が効いてきます。
固定・免荷の経過が残す二次的な影響
もうひとつの背景が、受傷後の経過です。シーネでの固定と松葉杖での免荷という初期対応は、2度損傷であればむしろ回復を早めうる妥当な選択です。2〜3週間の固定、2〜3ヶ月での競技復帰が標準的な目安になります。
一方でこのケースでは、固定解除後にチューブトレーニングから、OKC(オープンキネティックチェーン・非荷重での関節運動)やCKC(クローズドキネティックチェーン・荷重位での運動)の段階を挟まずランニングへ進み、復帰が1ヶ月半延びた経緯があったようです。
組織の修復と、動きの再学習は別のプロセスです。固定・免荷の期間はどうしても足部の感覚と協調を落とすため、その積み直しがないまま競技負荷に進むと、代償的な使い方が残りやすくなります。今回のアキレス腱側の張力も、その二次的な影響のひとつとして説明できるかもしれません。
当時の固定期間や腫れの程度は、聞き取りでも確認しきれていない部分があり、ここまでの経過の読みには推察が含まれます。初期対応の是非を問うのではなく、経過から現在の所見を説明できるか、という視点で扱っています。
復帰までの組み立て。介入・再教育・夜間の3本立て
ここまでの見立てを踏まえた進め方は、次の3つです。
- 距骨下関節と腱周囲への介入を続ける踵骨への牽引操作、足関節・アキレス腱周囲のリリースと運動療法を継続し、朝の背屈制限と切り返し時の痛みの変化を指標にします。
- 感覚運動再教育を追加するバランスボードや不安定なクッションの上でのつま先立ち・スクワットなど、荷重位で足部の感覚と協調を積み直します。
- 就寝時・固定時のヒールロックを避ける踵骨が前方へ偏位しにくい包帯・テーピングを検討します。日中に作った位置関係を、夜間や固定で崩さないための一手です。
なお、整復方向の操作は加減を誤ると痛みを強めるリスクがあります。実際このケースでも、操作中にアキレス腱側へ痛みが誘発された時点で一度中止しています。反応を確かめながら段階を進める前提です。
荷重下トレーニングの段階の付け方は、カーフレイズを使った評価と段階的トレーニングの記事が参考になります。
痛む場所の一段手前へ評価を戻す
遺残症状の相談では、痛む組織への直接介入が続けられていることが少なくありません。所見がそろわないときは、隣接する関節の位置や動き、固定・免荷を含む受傷後の経過まで、評価の範囲を一段広げてみる価値があります。
アキレス腱まわりの痛みを訴える患者さんの全員に距骨下関節の問題があるわけではありませんが、腱への介入だけで変化が乏しいケースでは、候補に挙げたい視点です。
瀬谷崎




