手首の痛みが朝に両側で急変。TOS(胸郭出口症候群)の見立てから関節リウマチ疑いへ乗り換える判断
セラピスト向け
朝・両側・熱感がそろったら。関節リウマチを疑う所見と施術側の線引き
上腕から手首の痛みをTOS(胸郭出口症候群)由来と見立てて経過を追っていた50代男性。ある朝、両側の手首が急に強く痛み、軽い熱感も出ました。とんとんが治療家向けに続けているオンラインカンファレンスに実際に挙がった相談をもとに、関節リウマチを疑う所見への切り替わりと、疑ったあとに施術側がやること・やらないことを考えます。
相談されたのは、運転の多い仕事をしている50代男性です。3ヶ月ほど前から突然手首が痛くなり、来院当初は上腕部から手首にかけての痛みを訴えていました。ULTT(上肢神経伸張テスト)の所見もふまえてTOS(胸郭出口症候群)由来と見立てて施術を続け、上腕部の痛みは少しずつ引いてきていました。
肩には外転時の痛みと挙上のしにくさがあり、三角筋が強く硬くなっていて、三角筋周囲へのアプローチで挙上が楽になる。荷物を扱う作業が多いことから三角筋を過剰に出力させているのではないかという読みで、手首の痛みもTOS由来だろうという線で追っていました。ところがある朝、絵が変わります。
- 朝起きたら、手首の痛みが急に強くなっていた
- 痛むのは片側ではなく両側の手首
- 軽い熱感を伴っている
- 手首と指の曲げ伸ばしで強く痛む
- 施術やテストの刺激で症状がほとんど変化しない
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎TOS由来と読んだ根拠は、痛みの走り方だった
初診時の手首まわりの痛みは、上腕から前腕にかけて沿うように走る、ビリッとした神経痛様の痛みでした。ULTT(上肢神経伸張テスト)の所見も合わせれば、TOS由来という見立ては当時の情報からは自然な読みです。実際、上腕部の痛みは施術で軽くなってきてもいました。
問題は、いまの痛みが当時と別物になっていたことです。走るような痛みではなく、手首と指そのものが曲げ伸ばしで痛む。しかも両手です。検討では「当時の症状と今の症状は、別の疾患によるものかもしれない」という読みが示されました。最初の見立てを固定したまま「悪化」と読むか、別の疾患の「発症」と読み替えるか。ここが分かれ目でした。
経過の途中で、症状の質(走る痛み→関節自体の痛み)・分布(片側→両側)・時間帯(動作時→起床時)がそろって変わったら、同一疾患の増悪として読み続けるより先に、別の疾患の合流を検討します。
朝のこわばりの持続時間が、OAとの分かれ目になる
朝の手のこわばりや痛みは、OA(変形性関節症)でも出ます。分かれ目として共有されたのは持続時間でした。OAでは朝のこわばりが短時間で抜けることが多いのに対し、関節リウマチでは1時間以上に及ぶことが多い、という目安です。朝痛いという訴えを聞いたら、何分続くかまで問診で確かめます。
検討では、早期リウマチの分類基準の目安として次の項目も共有されました。発言者自身が出典の学会名までは確信を持てていなかったため、検討の場で共有された目安として読んでください。
- 朝のこわばりが15分から1時間以上続く
- 3関節以上の圧痛
- 2関節以上の腫脹(腫れ)
- リウマトイド因子など、血液検査でしか確認できない項目もある
分類基準には血液検査(リウマトイド因子など)が必要な項目が含まれます。施術側が判断できるのは「疑わしさが濃い」ところまでで、確定診断は医療機関の領分です。両側性・朝発症・熱感がそろったら、内科やリウマチ科の受診を勧める段階だと考えます。
教子先生
まなぶ先生
瀬谷崎リウマチを疑ったら、施術側がやること・やらないこと
関節リウマチは、薬でコントロールしていくイメージのある疾患です。完治が難しい場合でも、服薬で落ち着いている例は多いという印象が検討でも共有されました。裏を返せば、疑いが立った時点で、施術側にできることは基本的に少なくなります。線引きは明快でした。
やってよいのは、電気による疼痛抑制くらいの無害なこと。患者さんが「電気を当てると楽になる」と言うなら続ける、という程度です。
マッサージや関節モビライゼーション(関節に他動的な動きを加える徒手技術)はリスクがあり、推奨しない。施術を続けながら様子を見るのではなく、受診を勧めて医療側の管理につなぎます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎送って専門に任せるのは、敗北ではなく専門性の線引き
検討の結論は「送って専門に任せる」でした。運動器の治療家にとって、関節リウマチは専門外の疾患です。検討の場では「お腹が痛いと言われているのと同じ」という表現が使われました。腹痛の患者さんを施術で抱え込む治療家がいないのと同じで、内科系疾患の疑いが濃くなった時点で医療へつなぐのは、当然の役割分担です。
本例は痛みが強くなり、車の運転ができず来院が途絶えました。振り返りとしては、50代・手関節と指という組み合わせの時点で、リウマチの可能性を鑑別の前提に置いておくべきだったという反省も共有されています。次に同じ絵に出会ったとき、初回から選択肢に置けるかどうか。この症例から持ち帰れるのはそこだと思います。
瀬谷崎





