施術の値段はどう決めるか。分単価・目的・既存患者・通院計画から逆算する自費メニューの料金設計
セラピスト向け
値段は競合表ではなく、分単価と目的から逆算する
自費メニューの値段をどう決めるか。鍼を追加したときの料金、ベースの単価をどこまで上げられるか、既存の患者さんが離れないか。とんとん整骨院が主催するオンラインカンファレンスでは、この種の相談が何度も出てきました。競合の料金表を眺めても答えは出ません。検討で共有された、分単価と目的から値段を逆算する考え方を、現場の判断に使える形で書きます。
値付けの相談には、ある共通点があります。「いくらが相場か」を聞いているようで、本当に困っているのは「上げたいが、上げる根拠を自分の中で持てていない」ことです。根拠がないまま上げれば説明に詰まり、根拠がないまま据え置けば、丁寧にやるほど経営が苦しくなります。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎すべてのメニューを分単価に直してみる
自費の院で値段を考えるとき、検討で一貫していたのは「全部を分単価で見る」という姿勢でした。10分2,200円なら分単価220円、20分4,000円なら200円。メニューごとに時間と料金が違っても、分単価に直せば同じものさしで比べられます。
鍼の追加料金はこの見方で決まっています。とんとんでは通常の施術に鍼を足す場合、時間を10分延ばして追加料金を設定し、分単価は整体より高めにしています。鍼には消耗品の原価があるからです。店舗ごとに金額のばらつきがあったのを最近そろえました。相場から決めたのではなく、原価と時間から決めた値段です。
平均の分単価が170円前後の院が200円前後まで上げるのは妥当な範囲。20分4,000円、10分2,000円は自費の院として珍しい価格ではない。鍼を主役にした60分のメニューなら、美容目的でなければ8,000円から税込11,000円程度までは成立しやすい。鍼灸院か鍼灸接骨院かで、来る方の鍼へのモチベーションが違う点は織り込む。あくまでカンファレンスで共有された感覚値です。
そのメニューは、集客のためか、通ってくださる方のためか
同じ鍼でも、新規の集客に使うのか、すでに通ってくださっている方への追加提案に使うのかで、値付けの考え方が変わります。検討では、ここを決めないまま値段の相談が始まるケースが目立ちました。
- 追加提案(アップセル)として置くなら、外の相場を気にする必要はほとんどない。最初は1〜2本だけのお試し価格で体験してもらい、よければ「通常はこの料金です」と案内する流れで足りる。
- 集客の柱にするなら、近隣の鍼メニューの価格帯を見ないわけにはいかない。60分の鍼メニューは分単価が下がっても、1回の施術単価は上がる。
- 鍼灸接骨院の場合、来る方が鍼を強く求めているとは限らない。15分3,000円程度の追加提案から始める方が現実的、という意見で一致した。
とんとんの料金体系は、この考え方を極端にした形です。初回は原因検査と施術と説明を一つにまとめた料金、2回目以降は「整体アプローチ」のメニュー1本。鍼や物理療法は検査の結果に応じて追加するもので、メニュー表で選んでもらう売り物にはしていません。メニューを増やすほど分単価は読みにくくなるので、1本に絞ってあります。
既存の患者さんの料金は、新規と同じ速さで上げない
ベースの単価を上げる相談で必ず出るのが、今来てくださっている方の離脱です。検討では、新規の料金から先に上げ、既存の方は段階を分けるという答えで一致していました。ただしその前提として、上げた価格帯で集客が困るかどうかは別の問題だ、という指摘もありました。
値上げで一部の方が離れることはあります。それでも、上げた価格帯の新規が来るかどうかは、集客の設計で決まる話で、既存の方の反応で判断するものではありません。「今の患者さんが離れるから上げられない」と「上げた値段で新規が来ない」は、別々に検討する必要があります。
値段は、通院計画の長さとセットで決まる
値段だけを見ていると見落とすのが、計画の長さです。検討の中で、スタッフが施術の期間を短く提示しすぎている、という指摘が繰り返されました。10年痛かった腰を2〜3か月で良くする計画は、痛みの理解が進むほど無理があると分かってきます。症状は週や月の単位で自然に増減するので、短い計画は一時的な改善を実力と取り違えるリスクも抱えます。
慢性の症状には週1回を3か月、場合によっては半年という計画が現実的で、月1回や2週に1回は何かを変えるペースではなく維持のペースです。この見方に立つと、値段は「1回いくら」ではなく「3か月でいくらになり、それを無理なく続けてもらえるか」で考えることになります。月あたりの支払額が高すぎないか、安すぎて続ける意味を感じにくくないか、客単価と頻度を掛け算して確かめる。回数券やサブスクリプションのような料金体系は、この続けやすさのために使う道具で、売るための道具ではありません。回数券の境目を考えた記事で書いた線引きと同じです。
施術者一人あたりの月の生産性は、自費の院で80万〜100万円が目安として共有されました。無理のない設計は85万円前後で利益が出ること。そこから固定費、特に広告費をどこまで抑えられるかで、必要な分単価が逆算できます。生産性の目標を先に置かずに値段だけを動かすと、上げても下げても根拠が持てません。
説明できる値段にする、という最後の条件
分単価、目的、既存の方への配慮、計画の長さ。ここまで決めても、最後に残るのは「その値段を患者さんに説明できるか」です。検討で出た言い方は単純で、計画を丁寧に組めるようになると、次の来院間隔の提案が的確になり、単価も頻度も自然に上がる、というものでした。臨床の中身が値段を支える順番で、逆ではありません。
臨床と売上が対立しないという考え方は別の記事で書きました。値付けはその考え方を数字に落とす作業です。相場に合わせた値段は説明に困りますが、分単価と計画から出した値段は、聞かれたときにそのまま話せます。
値段は決めるものではなく、計算で出てくるもの
いくらが相場かを探す前に、1分あたりいくらで回すのか、そのメニューは誰のために置くのか、既存の方の料金をどの速さで動かすのか、計画の長さと月の支払額は釣り合うのかを決める。この4つが決まると、値段は計算で出てきます。
そして出てきた値段は、相場より高くても低くても、理由を持って話せる値段です。値付けの相談の正体が「上げる根拠を持てていない」ことだとすれば、根拠を先に作るのがいちばんの近道です。
瀬谷崎





