卒業かメンテナンスか。症状が落ち着いた患者さんの通院を、いつどう区切るかの判断
セラピスト向け
終わらせる判断も続けてもらう判断も、初回の説明で半分決まっている
痛みが落ち着いたあと、通院を終えてもらうのか、間隔を空けて続けてもらうのか。この判断は院の方針で割れやすく、どちらを選んでも後ろめたさが残ることがあります。とんとん整骨院が主催するオンラインカンファレンスでも「卒業させる運用から長期継続へ移行したい」「依存を作りたくない」という相談が重なりました。検討で共有された考え方を、現場で使える判断の軸としてまとめます。
通院の終わり方には、院の数だけ流儀があります。数回で終えて二度と来ないのが理想だという院もあれば、月1回の継続を基本にする院もある。どちらが正しいかを決めたいわけではありません。ただ、どちらの流儀でも現場のスタッフが同じところでつまずくことが、相談を聞いていると見えてきます。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎卒業させる院も、続けてもらう院も、どちらも成立している
とんとん整骨院では、7〜8割の患者さんが月1回か2週間に1回のペースで継続しています。一方で、初発で若く活動的な方のぎっくり腰のような症状は、数回で終える前提で関わります。終わらせないといけない症状と、続けてもらう意味がある症状が、同じ院の中に両方あるわけです。
社内でも「終わらせた方がいい」「続けてもらった方がいい」で定期的に議論になります。そこで落ち着きがよかった前提は一つで、長期継続には患者さん側の費用と時間というデメリットがあり、それを上回るメリットを施術者が自信をもって説明できないなら、続けてもらうべきではない、というものでした。自信をもって言えないまま提案する継続が、まなぶ先生の引っかかりの正体です。
判断を分ける3つの軸
終えるか続けるかは、症状と患者さんの状況で変わります。検討の中で繰り返し出てきた軸を3つに絞ります。
- 症状の性質。初発で急性、機序が明確で回数と期間が読める症状は、終える前提で計画を組む。数年から数十年続く慢性の痛みは、ゼロに戻るゴールが曖昧で半年単位の見通しが本来の標準に近く、最初から継続前提で説明する選択肢がある。
- 次のゴールの有無。痛みを取ることは手段で、患者さんが本当に欲しいのは快適に過ごせる生活です。コンタクトレンズを買う人がレンズそのものを欲しいわけではないのと同じで、「痛みが取れたら何をしたいか」が見つかれば、施術の区切りをつけて、運動やパフォーマンスという別の形で関わり続けられる。
- 患者さんの自己判断力。依存で本当に問題になるのは、本人が自分で判断できなくなることです。自分の体のことを自分で決められる状態が保たれているなら、頼れる先の一つとして院が残ることは問題にならない。
3つ目の軸は、継続通院を促さない方がいい腰痛患者さんの見極めの記事で書いた「慢性化を防ぐ」視点とつながります。終えるべき人を続けさせない判断と、続ける意味がある人を無理に終わらせない判断は、同じ軸の表と裏です。
後出しの提案が、いちばんうまくいかない
検討で最も具体的だったのは、提案のタイミングの話でした。計画した施術期間が終わる間際に「ここから先はメンテナンスでお願いします」と切り出すと、来ていただけない方が多い。後出しに見えるからです。
かといって、初回から継続の話を厚くするのも違います。初回の患者さんのモチベーションは「先のことはいいから早く痛みを取ってほしい」が普通です。そこへ半年先の話を重ねても、聞く準備ができていません。
- 初回の計画説明に、一文だけ置く「この期間で一度区切ったあとも、多くの方はこういう通い方をされています」と、事実として一言添える。提案ではなく情報として置くのが要点です。
- 2〜3回目、症状が大きく動いたころから少しずつ多くの症状では2〜3回で痛みの数値が大きく下がります。結果が出始めたこのタイミングから、続ける意味について患者教育を始める。
- 区切りの時点で、改めて選んでもらう慢性の症状なら1か月4〜5回で一度計画を見直す機会を作る。そのころには信頼関係もでき、続けるか終えるかを患者さん自身が選べる状態になっています。
この流れなら、初回で計画を提示したあとに方針を変える「言い直し」が要りません。計画の提示そのものを工夫できれば、患者さんをきちんと見ながら売上も立つ、というのが検討の一致点でした。
「通わないと悪くなる」と言わずに、続ける意味を伝える
続けてもらう場合、その理由を不安に置くか、別のところに置くかで、通院の意味がまるで変わります。とんとんでは月1回の来院を「指導している運動や、自分の体に向き合う時間を月に1回作る」という位置づけで説明しています。ここ1週間運動をさぼっていたなら立て直すきっかけに、何も問題がなければ「このままでいい」という安心を持ち帰る日にする。この考え方は不安を煽らない予防提案の記事で詳しく書きました。
検討では、終わらせた患者さんが別の院で根拠の薄い説明を受けるくらいなら、うちで毎月お金をいただいて診させてもらう方が患者さんの利益になる、という本音も出ました。囲い込みに聞こえる考え方なので、自信をもって言える場合に限ると付け加えておきます。
回数券やチケット制度があると、患者さんはその回数で勝手に区切りをつけやすい。制度が通院の終わりを決めてしまわないよう、続けるか終えるかの会話は、制度の説明より先に置く。制度そのものの扱いは回数券の境目を考えた記事で扱っています。
依存はなぜ悪いのか。問い直すと許容範囲が見えてくる
「依存させない」は、医療者の間で漫然とした正解になりがちです。検討で「依存はそもそもなぜダメなのか」を問い直したところ、理由として残ったのは2つだけでした。施術者側の利益のために不要な依存を作ること、そして患者さん本人の判断力が落ちることです。
利益とはお金に限りません。手技の練習のために施術を勧める、やらなくていいことをやる、といった施術者側の都合も含みます。逆に言えば、患者さんにとってやった方がいいことの範囲で、本人が判断できる状態が保たれているなら、頼られること自体は悪くない。開業準備中の先生から「依存先を増やすのも医療者の役割ではないか」という視点が共有され、自立とは一人で何でもやることではなく、頼れる先を複数持てることだ、という考え方に落ち着きました。
もう一つ、現場でよく起きている逆向きの問題も指摘されました。来院回数を減らすことを、こちらが押し付けているケースです。メンテナンスは月1回というイメージが強すぎて、本人は来たいのに月1回に矯正し、その方は結局ほかの整体やマッサージにも通っている。それなら月1回に減らした意味はどこにあったのか、という問いです。
区切りの判断は、方針ではなく会話の設計で決まる
卒業させる院が正しいのか、続けてもらう院が正しいのか、という問いには答えが出ません。出るのは、症状の性質、次のゴールの有無、患者さんの判断力という軸で一人ずつ見ること、そしてその判断を初回の一文から始めて、結果が出たころに少しずつ共有し、区切りで選んでもらうという会話の順番です。
後出しの提案も、不安を起点にした継続も、来たい人を減らす矯正も、どれも会話の設計で避けられます。明日の初回の計画説明に、一文だけ足すところから始めてみてください。
瀬谷崎





