インソール・ピラティス・サポーターを院に入れるべきか。適応・採算・患者さんの選択に分けて考える導入判断
セラピスト向け
導入するかどうかは、ひとつの問いではなく3つの問いに分かれる
インソールを院に入れるべきか。ピラティスのマシンを置くべきか。サポーターを嫌がる選手にどこまで勧めるか。とんとん整骨院が主催するオンラインカンファレンスには、機器やモノの導入をめぐる相談が定期的に持ち込まれます。どれも「入れるべきか」という一つの問いに見えますが、検討してみると、臨床の適応、採算、患者さんの選択という3つの別の問いに分かれていました。それぞれの答え方を書きます。
機器やモノの相談が難しいのは、臨床の話と経営の話が一つの質問に混ざっているからです。「インソールはどうですか」と聞かれて「よく効きます」と答えても、聞いた側が知りたかったのは月額費用に見合うかだったりします。逆に採算の話だけをすると、本当に適応のある患者さんを見落とします。EMS(電気的筋刺激)については別の記事で扱ったので、ここではインソール、ピラティス、テーピングとサポーターの3つを題材にします。
まなぶ先生
教子先生
瀬谷崎問い1|臨床の適応。誰に、どの範囲で変化が出るのか
インソールの相談で、長く使っている先生が共有した体感は率直でした。足部の症状には6〜7割で変化が出る印象があり、その場で変化が出なくても長期に使い続けて変わる人を含めればもう少し幅が広がる。バイオメカニクスから考えれば膝までは対応範囲に入り、人によっては腰まで届く可能性もある。ただしこれは一人の施術者の印象であり、適応の範囲は自分の患者さんで確かめる前提で聞く数字です。
ピラティスの場合、適応というより「運動療法の入りやすさ」が論点でした。運動療法と言うと身構える方が多いのに、ピラティスという言葉なら入りやすい。強度を変えればどんな方にも組めるので、運動を始めてもらう最初の一歩として機能する。資格は解剖学と治療の観点を重視した体系を選び、姿勢分類に対応するメニューの組み方と、声かけ(キューイング)の質が講習で担保される、という経験が共有されました。
テーピングとサポーターは適応が明確な分、別の問題が出ます。捻挫を繰り返す選手に予防として勧めても、足首が固定されて感覚が変わるのが嫌だと拒まれる。適応はあるのに使われない。これは問い3の話なので、後で戻ります。
問い2|採算。何足、何人で成り立つのか
採算の話で検討がはっきりしていたのは、「施術者の人数と患者さんの数に比例する」という一点です。インソールは一足あたりの卸値に加えて月額費用がかかる。月額をまかなうには毎月1〜2足が出ればよいが、それでは臨床目的で入れて収支が合うという程度で、利益の柱にはならない。施術者が2〜3人いて患者さんの母数が数百人になれば、毎月5足といった数字が現実になり、意味のある売上に変わる。
- 一人で運営する院なら、臨床の適応だけを理由に入れる。収支がほぼ合えばよしとする。
- 複数の施術者がいる院なら、販売できる対象者が増えるので採算を前向きに検討できる。
- 初期費用と卸値、販売足数で変わる歩合などプランに幅があるので、契約前に数字を書き出す。
ピラティスのマシン(リフォーマー)も同じ構造です。マットの資格で約24万円、マシンまで含めて合計約50万円、マシン本体は国内の最安値で15万円程度から業界で推奨される機種は70万円程度、という数字が共有されました。一人運営の院で、施術者自身が院内で完結して教えられるなら、人を雇って教えてもらう手間がない分、採算は取りやすい。逆に言えば、教えられる人がいないままマシンだけ置いても動きません。
インソールを勧めた先生は、自分の家族がその製品の販売に関わっていることを、勧める前に自分から明かしていました。「回し者と思われたくないので」という言い方でしたが、関係があるなら先に言う。これが機器やモノを人に勧めるときの最低条件です。患者さんに勧めるときも同じで、院の売上になることを隠して勧めるのと、売上になることを承知で適応を説明するのとでは、同じ商品でも別の行為になります。
問い3|最後に選ぶのは誰か
プロのバスケットボールチームでトレーナーを務める方の相談に戻ります。捻挫を繰り返す選手にテーピングとサポーターを提案しているが、感覚が変わるのが嫌だと拒まれる。将来の骨棘や靭帯再建のリスクを考えれば予防したい。どう説得すればいいか、という問いでした。
検討の答えは、説得の技術ではありませんでした。大人の選手なら、リスクを説明した上で本人の意思決定に任せるのが基本で、装着しないことで何が起きるかを一度本人が経験するのも一つの手である、と。テーピングをしても再発を完全に防げるとは限らず、したから選手生命が延びるとも言い切れない。であれば、最終的な判断は本人のものです。
- リスクは必ず伝える何も話さないのは医療者として論外、という点は全員が一致していました。将来起こり得ることを、根拠とともに一度は伝える。
- 決めるのは本人だと明確にする伝えたあとは、着けるか着けないかを本人に決めてもらう。説得を重ねるほど、拒否は強くなります。
- 組織の中の自分の裁量を先に固めるチームなら監督と選手起用やケガ対応の方針を合わせ、「監督から任されている」という根拠を作っておく。板挟みになるのは方針の不一致が原因で、選手の性格ではありません。
この3段階は、院でのモノの提案にそのまま置き換えられます。インソールもピラティスも、適応があることと、患者さんが選ぶことは別です。適応を説明し、院の売上になることも含めて正直に伝え、選ぶのは患者さんに任せる。臨床的意義と売上の4象限で考えた記事で書いたとおり、臨床的に意味があって売上にもなるものは堂々と勧めてよい。ただし勧めることと、選ばせないことは違います。
「入れたからには勧めないと」という圧をどう消すか
教子先生が心配した圧は、問い1と問い2を分けずに導入したときに生まれます。採算の数字から「月に何足」というノルマが先に立つと、適応のない方にも説明が始まる。これを防ぐには、導入を決める時点で「適応がある患者さんの割合はこれくらいで、その人数で収支はこうなる」と、適応から採算を出しておくことです。採算から適応を逆算した瞬間に、臨床は売り場になります。
とんとんでは、機器やモノの導入をこの順番で見ています。検査の結果に応じて物理療法やテーピングを提案することはありますが、メニュー表に並べて選んでもらう売り物にはしていません。適応の判断が先にあって、提案はその後です。
適応で決め、採算で確かめ、選択は患者さんに残す
機器やモノの導入は、入れるべきかという一つの問いではなく、誰に適応があるのか、何人の患者さんと何人の施術者で成り立つのか、最後に選ぶのは誰か、という3つの問いです。順番を守れば、入れた後に適応の判断がゆがむことはありません。
そして3つの問いの前に、関係があるなら先に明かす。利益相反を自分から言える施術者の提案は、同じ商品でも患者さんにとって別の重さを持ちます。
瀬谷崎





