ANOアカデミーが「一発で治す方法」を教えない理由

「これさえやれば」を探し続けると、臨床は不安定になる

一発で効く手技を探す気持ちは、誰にでもあります。ただ、そこを入口にすると、外した時に戻る場所がなくなります。ANOアカデミーが「一発で治す方法」を看板にしない理由を、現場目線で整理します。

ANOアカデミーが教えるのは、魔法の手技ではありません。評価と鑑別の基礎、再現性、そして「正解がない中でどう考え続けるか」。遠回りに見えて、これが長く臨床を続けるための土台になります。

新しく入ったスタッフや、外部の若手の先生と話していると、よく聞かれることがあります。

「結局、これさえやれば治る、みたいな手技ってあるんですか」と。

気持ちはよく分かります。現場に出ると、目の前の痛みを今すぐどうにかしたい。

だからこそ、一発で効く手技や、これさえ覚えれば、という言葉に強く惹かれます。

ただ、ANOアカデミーでは「一発で治す方法」を看板にしていません。

教えられないから避けているのではなく、そこを入口にすると臨床がかえって不安定になる、と考えているからです。

伊藤聡史
伊藤聡史

練習会で見ていると、手技を増やしたがる先生ほど、評価が薄くなりがちな印象があります。引き出しは多いのに、どれを使うかの基準が定まっていない。

瀬谷崎
瀬谷崎

伊藤先生が言うように、手技の数より、今この人に何を選ぶかの基準のほうが効いてくる気がします。ただ、その基準を厚くするほど、患者さんが求めるものとのズレも見えてくる。そこが難しいところですよね。

なぜ「一発で治す」は成り立ちにくいのか

痛みは、原因と結果がきれいに一対一で結びつくものばかりではありません。

力学的に一貫性のない痛みは常にありますし、それ自体は珍しいことでもありません。

それなのに、痛みを身体の構造の問題としてだけ見続けようとすると、かえって臨床の足を引っ張ることがあります。

目の前にいるのは機械ではなく、人だからです。

「この手技をこう当てれば、この痛みが取れる」という発想は分かりやすいです。

ただ、分かりやすさと、目の前の患者さんに合っているかどうかは、別の話です。

慢性痛には、単一の答えがありません。ただ、「答えがない」ということ自体を答えにして、考えることから降りてしまうと、そこで学びは止まります。

これは、新人だけの話ではありません。

この仕事に就いた時点で、一生、答えがあるかどうかも分からない問題に対して、悩み、考え続けていくことになります。

「正解がない中でどうするか」に向き合い続けること。それ自体が臨床なのだと、僕はそう考えています。

派手な一手より、戻れる基礎

では、何を学ぶのか。

ANOアカデミーが繰り返し戻るのは、評価と鑑別の基礎です。

たとえば神経症状を見るとき、腱反射や知覚、徒手筋力検査(MMT)といった基礎的な評価があります。

ところが現場では、ここを飛ばして、いきなり整形外科的な徒手検査から入ってしまう場面も少なくありません。

一見、徒手検査の方が「効きそう」「専門的」に見えるからです。

けれど、基礎的な評価をていねいに取れることの方が、正確な鑑別への近道になりやすい。これは僕自身、何度も実感してきたことです。

派手な一手より、長く使えるのは、迷ったときに戻れる基礎です。

手技を増やす学び方
効く一手を探し続ける

新しい手技を次々に足していく学び方です。うまくいく時もありますが、外した時に立ち戻る場所がなく、当たり外れになりやすくなります。

ANOアカデミーの学び方
戻れる基礎を厚くする

問診、評価、鑑別という土台を厚くします。手技はその上に乗せるので、外した時にどこを見直せばよいかが分かりやすくなります。

「効いた」を、どう説明できるか

もう一つ、一発で治す方法を掲げにくい理由があります。

仮に施術後に痛みが軽くなったとして、それを「この手技で治った」と本当に言い切れるのか、という問題です。

施術以外にも、安静、時間の経過、患者さんの安心感など、症状が変わる理由はいくつも重なります。

徒手検査も同じで、いくら適切に数字を扱っても、僕らが事前に「真実」を知り得るわけではありません。

だからこそ、「自分が治した」と言い切る前に、なぜ良くなったのかを一度立ち止まって考える習慣が大切になります。

学びの落とし穴

「この手技で治る」と言い切れるほど、臨床は単純ではありません。一つの介入や一つの所見を過大評価すると、次に外した時の修正が効かなくなります。

これは、患者さんを不安にさせるための話ではありません。

むしろ、対応できること、慎重に扱うこと、医療機関への相談を考えることを、落ち着いて切り分けるための姿勢です。

伊藤聡史
伊藤聡史

教える時も、僕は答えを先に渡さないようにしています。先に言い切ってしまうと、外した時に本人が戻れなくなりやすいので。練習会では、なぜそう考えたかを自分の言葉で説明してもらっています。

瀬谷崎
瀬谷崎

正解が一つに決まらない領域だと、答えを渡すほど、かえって動けなくなることがあるんですよね。だから渡したいのは、答えそのものより、迷った時に戻れる基準のほうかもしれません。

だからアカデミーは「考え続ける」設計にしている

一発で治す方法を渡さない代わりに、ANOアカデミーでは、考え続けるための仕組みを置いています。

たとえば実技練習会では、同じ評価を、何度も繰り返し練習します。院内では、10回連続でできるまで終われない「10回チャレンジ」と呼んでいる練習法もあります。

派手な技ではなく、基礎的な評価を、いつでも同じ精度で出せるようにするためです。

カンファレンスでは、自分の症例を出して、思考の飛躍や見落としに気づく時間を作ります。

序盤に学ぶべきことは、序盤に学ぶ。基礎が後から効いてくるからです。

そして、臨床では意外と教わらない「分からない時にどう対応するか」も、扱うテーマにしています。

  • 痛い場所だけで判断せず、発症経過と生活背景まで確認する
  • 腱反射・知覚・MMTなどの基礎評価を飛ばさない
  • 一つの所見や一回の変化だけで原因を決めつけない
  • 「なぜ良くなったのか」を、施術以外の要因も含めて考える
  • 分からない症例を、そのままにせず相談や練習に出す

とんとん整骨院が大切にしていること

とんとん整骨院では、臨床を「効く一手」のコレクションにしないことを大切にしています。

手技そのものを否定しているわけではありません。良い手技は、確かにあります。

ただ、それを「これさえやれば」という形で渡してしまうと、外した時に戻る場所がなくなります。

一発で治す方法を教えない理由は、遠回りに見えて、長く臨床を続けるための近道だと考えているからです。

受講を検討している方へ

募集人数や受付状況、内容の詳細は時期によって変わることがあります。最新情報はANOアカデミー公式ページでご確認ください。

「考え続ける力」は、現場で長く効く

「これさえやれば」を探し続けると、うまくいっている間はいいですが、外した時に立て直せません。

評価と鑑別という基礎を厚くしておくと、迷っても戻る場所があります。

ANOアカデミーが一発で治す方法を教えないのは、考え続ける力の方が、現場で長く効くと考えているからです。

瀬谷崎
瀬谷崎

一発で治す方法があれば、確かに楽です。でも、目の前の患者さんは一人ひとり違いますし、正解は文脈で変わります。だからこそ、答えのない問いに悩み続けられること自体を、力として育てていきたいですね。

瀬谷崎将也
株式会社とんとん/とんとん整骨院 代表。臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」主宰。

とんとん整骨院 代表。柔道整復師として、都内に鍼灸整骨院4店舗・鍼灸院1店舗を運営。多くの患者と関わる中で、「痛み」や「慢性疼痛」への深い理解の必要性を痛感し、EBM(根拠に基づく医療)・バイオメカニクス・BPSモデル(生物心理社会モデル)を軸とした臨床を実践。その知見をもとに、臨床系セラピストスクール「ANOアカデミー」を主宰し、セミナー運営など施術者の育成・教育にも精力的に取り組んでいる。

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