梨状筋症候群、坐骨神経痛、肩インピンジメントという名前に引っ張られないために
症状コラム
その病名、本当に「原因」まで言い切れていますか
名前がつくと、なんとなく分かった気になります。でも、梨状筋症候群、坐骨神経痛、肩のインピンジメント。よく聞く名前ほど、かえって見方を狭くしてしまうことがあります。
病名は、考えるための入口です。名前だけで原因を決めつけるのではなく、症状の出方、所見、生活背景を合わせて見ることが大切です。
身体の不調には、いろいろな名前がつきます。
坐骨神経痛。梨状筋症候群。肩峰下インピンジメント症候群。
こういう名前を聞くと、「ああ、原因はそこなんだ」と思いやすいですよね。
でも、少し待ってください。
病名や疾患名は便利です。患者さんに説明する時にも、医療者同士で共有する時にも役立ちます。
ただし、便利な言葉ほど、気づかないうちに思考を固定します。

まなぶ先生

瀬谷崎
名前があると、原因を見つけた気になりやすい
たとえば「梨状筋症候群」と言われると、梨状筋が坐骨神経を圧迫しているようなイメージが浮かびます。
「肩峰下インピンジメント」と言われると、肩の中で骨と腱がぶつかっているように感じます。
「坐骨神経痛」と言われると、それ自体がひとつの病気のように聞こえるかもしれません。
でも実際には、その名前の中にいろいろな状態が混ざっていることがあります。
少し辛口に言うと、病名を言っただけで説明した気になってしまうのは、施術者側の都合です。患者さんにとって大事なのは、「で、自分の場合は何が関係していそうなのか」です。
もちろん、昔から使われている言葉を全部やめよう、という話ではありません。
ただ、その言葉がどんな思い込みを連れてくるのかは知っておいた方がいいです。
よく聞く3つの名前を、少しだけ疑ってみる
ここでは、臨床でよく耳にする3つの名前を例にします。
どれも患者さんにもなじみがある言葉ですが、病態をそのまま表しているとは限りません。
| よく使われる名前 | 気をつけたい思い込み | 広く見たい視点 |
|---|---|---|
| 梨状筋症候群 | 梨状筋だけが原因だと考えてしまう | 深殿部症候群として、殿部深部の神経・筋・腱・周辺組織を含めて見る |
| 坐骨神経痛 | 疾患名のように扱ってしまう | 症状の呼び名として捉え、腰椎由来か、殿部由来か、神経根の関与かを整理する |
| 肩峰下インピンジメント | 肩の中で何かがぶつかっていると決めつける | 肩峰下痛症候群として、腱板・滑液包・石灰沈着・痛みの感受性などを合わせて見る |
気をつけたい思い込み:梨状筋だけが原因だと考えてしまう。
広く見たい視点:深殿部症候群として、殿部深部の神経・筋・腱・周辺組織を含めて見る。
気をつけたい思い込み:疾患名のように扱ってしまう。
広く見たい視点:症状の呼び名として捉え、腰椎由来か、殿部由来か、神経根の関与かを整理する。
気をつけたい思い込み:肩の中で何かがぶつかっていると決めつける。
広く見たい視点:肩峰下痛症候群として、腱板・滑液包・石灰沈着・痛みの感受性などを合わせて見る。
こうして見ると、名前そのものが悪いわけではありません。
問題は、名前が原因を狭く決めてしまうことです。
梨状筋症候群という言葉の狭さ
梨状筋症候群は、殿部の奥で坐骨神経が刺激されるような症状を説明する時によく使われます。
ただ、「梨状筋」という名前が前に出すぎると、評価も施術も梨状筋に寄りすぎます。
殿部の奥には、梨状筋以外にも多くの筋肉や腱、結合組織があります。坐骨神経の周辺で問題が起きるとしても、梨状筋だけを犯人にするのは早いです。

まなぶ先生

瀬谷崎
近年は、梨状筋だけでなく殿部深部のさまざまな要因を含めて、深殿部症候群という見方が使われます。
患者さんにこの言葉をそのまま使う必要はありません。むしろ、いきなり専門用語を増やすと分かりにくくなります。
大事なのは、施術者の頭の中で「梨状筋だけに絞りすぎない」ことです。
坐骨神経痛は、病名というより症状の言葉
坐骨神経痛という言葉は、とてもよく使われます。
お尻から太ももの裏、ふくらはぎ、足先にかけて痛みやしびれが出ると、「坐骨神経痛ですね」と言われることがあります。
ただ、坐骨神経痛は本来、症状の出方を表す言葉です。
なぜその症状が出ているのかは、別に考えなければいけません。
「坐骨神経痛です」で説明を終えると、原因を説明したように見えて、実は症状に名前をつけただけになってしまうことがあります。
腰椎椎間板ヘルニアが関与しているのか。脊柱管狭窄が関係しているのか。殿部深部で神経が刺激されているのか。あるいは、神経そのものではなく関連痛として出ているのか。
ここを整理しないと、施術方針も生活指導もぼやけます。
肩のインピンジメントも、ぶつかっている前提に注意する
肩を上げると痛い時、「インピンジメントですね」と説明されることがあります。
インピンジメントという言葉には、どこかで組織が挟まっている、ぶつかっている、というニュアンスがあります。
でも、肩の痛みはそんなに単純ではありません。
腱板、滑液包、関節包、石灰沈着、筋力、肩甲骨の動き、痛みの感受性。いろいろな要素が関係します。
「ぶつかっています」と言われると、患者さんは肩を動かすのが怖くなります。説明の言葉ひとつで、身体の使い方は変わります。
近年は、肩峰下インピンジメントという言い方よりも、肩峰下痛症候群という少し広い表現が使われることがあります。
これも、患者さんに難しい名前を覚えてもらうためではありません。
「ぶつかっているから痛い」と決めつけず、肩の痛みをもう少し広く見るための考え方です。
言葉が変わると、施術の考え方も変わる
名前が変わるだけなら、現場には関係ないように見えるかもしれません。
でも、言葉は施術の方向を決めます。
「梨状筋症候群」と考えると、梨状筋を緩めたくなります。
「インピンジメント」と考えると、ぶつかりを避けるような説明をしたくなります。
「坐骨神経痛」とだけ考えると、神経痛という名前に引っ張られて、腰・股関節・殿部・生活動作の整理が甘くなることがあります。
言葉は便利ですが、便利な言葉ほど危ないです。名前をつけた瞬間に、見なくなるものが出てきます。
少し辛口に言うと、昔からある病名をただ使っているだけでは、臨床の中身はアップデートされません。
大切なのは、用語を知っていることではなく、その名前が何を見せて、何を隠してしまうのかを考えることです。
とんとん整骨院が大切にしていること
とんとん整骨院では、病名や画像所見だけで施術を決めるのではなく、今の症状がどのように出ているのかを確認します。
どの動きで痛いのか。どの姿勢で楽なのか。しびれの範囲はどこか。力の入りにくさはあるか。日常生活で何に困っているのか。
こうした情報を合わせることで、名前だけでは見えない部分が見えてきます。
- 病名だけで原因を決めつけない
- 症状の出方と検査所見を合わせて見る
- 必要に応じて医療機関での確認も考える
- 患者さんが怖くなりすぎない説明を心がける
- 施術の目的を、その人の生活に合わせて整理する
しびれや脱力が強い、排尿・排便の異常がある、外傷後から強い痛みが続く、安静時にも痛みが強いなどの場合は、整骨院だけで判断せず、医療機関での確認が必要になることがあります。
こんな方は一度ご相談ください
- 坐骨神経痛と言われたが、何が原因なのかよく分からない
- 梨状筋ストレッチを続けても、殿部や脚の症状が変わらない
- 肩のインピンジメントと言われ、動かすのが怖くなっている
- 病名は聞いたけれど、生活で何を気をつければいいか分からない
- 症状に対して、もう少し納得できる説明を受けたい
症状の名前だけではなく、自分の場合は何が関係していそうかを整理したい方は、店舗ページからご相談ください。
名前を疑うと、見えるものが増える
病名や疾患名は、患者さんの状態を整理するために役立ちます。
ただ、その名前が強すぎると、原因を決めつけたり、施術の選択肢を狭めたりすることがあります。
大事なのは、名前を捨てることではありません。名前を使いながらも、その奥にある症状の出方、身体の反応、生活背景まで見ていくことです。

瀬谷崎
参考
- Hernando MF, et al. Surgical Management of Deep Gluteal Syndrome Causing Sciatic Nerve Entrapment: A Systematic Review. Arthroscopy. 2017.
PubMed - Martin HD, et al. Deep gluteal syndrome. Journal of Hip Preservation Surgery. 2015.
PMC - Diercks R, et al. Guideline for diagnosis and treatment of subacromial pain syndrome. Acta Orthopaedica. 2014.
PMC - Minagawa H, et al. Prevalence of symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears in the general population. Journal of Orthopaedic Science. 2013.
ScienceDirect













