多裂筋は硬さより働き方。腰痛で変わる反応・持続力・タイミング
セラピスト向け
腰の奥で起きる「反応の遅れ」を拾う
多裂筋は、腰を押した時に硬いかどうかだけで評価する筋ではありません。腰痛では、萎縮、持続力、反応のタイミング、そして押圧による刺激まで含めて見たい筋です。
腰痛の患者さんを見た時、多裂筋という名前はよく出てきます。
ただ、臨床では「腰の奥が硬いから多裂筋を緩める」「圧痛があるから押す」という方向に寄りすぎることがあります。
もちろん圧痛や局所の反応を見ること自体は大切です。
でも、多裂筋はそれだけで終わらせるにはもったいない筋です。
腰椎を細かく支える。姿勢や動作の前に反応する。痛みの後に働き方が崩れる。椎間関節とも神経支配の面でつながる。
つまり、「硬さ」よりも「働き方」を見た方が臨床で使いやすいことがあります。

まなぶ先生

瀬谷崎
腰椎を静かに支える深部システム
多裂筋は、腰椎の深部に位置する筋です。
大きく関節を動かすというより、腰椎の分節的な安定性に関わる筋として扱われます。
腰部では、傍脊柱筋深層の大きな割合を占めるとされ、腰椎の細かなコントロールに重要な役割を持ちます。
ここで大切なのは、多裂筋を「強くすればいい筋」とだけ見ないことです。
多裂筋に求めたいのは、最大筋力というよりも、必要なタイミングで入ること、必要な時間だけ保てること、他の筋に仕事を奪われすぎないことです。
多裂筋は、腰椎を大きく動かす主役というより、腰椎を細かく支える筋として見ます。評価では「硬いか」だけでなく、「反応するか」「保てるか」「代償していないか」を確認したいところです。
痛みが引いたのに、筋は戻っていないことがある
多裂筋で臨床的に厄介なのは、腰痛後に萎縮や機能低下が残る可能性がある点です。
急性の初回腰痛を対象にした研究では、痛みが軽快して日常活動へ戻っても、多裂筋の回復が自然には十分に起こらない可能性が示されています。
ここが怖いところです。
患者さんは「痛みが減ったから治った」と感じる。
施術者も「痛みが取れたから終了」と判断する。
しかし、腰を支える深部筋の働きが戻っていなければ、再発しやすい状態が残っているかもしれません。
短期的に軽快しやすい所見。患者さんの実感としては最も分かりやすい。
痛みが落ち着いても、筋の状態が自動的に戻るとは限らない。
支える機能が戻らないまま活動量だけ戻ると、腰痛を繰り返す要因になり得る。
もちろん、すべての腰痛で多裂筋だけを問題にする必要はありません。
腰痛は多因子です。
ただ、腰痛を繰り返す人や、痛みは落ち着いたのに動作への不安定感が残る人では、多裂筋の働きは見ておきたいポイントになります。
強さより、10秒保てるかを見る
多裂筋や腹横筋などのローカル筋を見る時、通常のMMTのように「どれくらい強く押し返せるか」だけでは評価しにくいことがあります。
むしろ見たいのは、低い出力で安定して保てるかです。
例えば、一定の肢位で10秒程度の等尺性収縮を保てるか。
保持しようとした時に腰部や骨盤が動いてしまわないか。
筋が細かく震えるような収縮パターンにならないか。
ここを見ると、「筋力がない」というより「支える出力を保てない」という状態が見えてくることがあります。
- 骨盤や股関節が動いてしまう
- 腰を反る、丸めるなど大きな動きで代償する
- 低い出力を保てず、すぐ力が抜ける
- 保持中に筋が震えるような反応が出る
- 呼吸を止めないと姿勢を維持できない
ローカル筋は、関節を大きく動かすための筋ではありません。
そのため、トレーニング中に骨盤や股関節が大きく動く場合、別の筋が代償している可能性があります。
腹横筋と多裂筋は、タイミングが命
腰椎の安定性は、筋力だけで決まるものではありません。
大切なのは、必要な瞬間に必要な筋が入ることです。
上肢や下肢を動かす前に、体幹深部筋が先回りして準備するような働きがあります。
腰痛では、このタイミングが遅れる、あるいは消える、逆に過剰に固めるように入るなど、反応の質が崩れることがあります。
この状態で、いきなり負荷の高い体幹トレーニングを行うとどうなるか。
グローバル筋で固める。
呼吸を止める。
股関節や骨盤でごまかす。
それっぽく動けているように見えても、腰椎の細かな制御は置き去りになることがあります。

まなぶ先生

瀬谷崎
椎間関節と後枝内側枝がつなぐ悪循環
多裂筋を考える時、椎間関節との関係も無視できません。
腰椎椎間関節は、後枝内側枝による神経支配を受けます。
この後枝内側枝は、多裂筋にも関わります。
そのため、椎間関節やその周囲で炎症や刺激が起きると、多裂筋の反射性の攣縮や防御的な緊張につながる可能性があります。
逆に、多裂筋の過緊張が椎間関節周囲の負担を高め、痛覚過敏のような状態を助長する可能性も考えられます。
腰部の限局した痛み、伸展・回旋での再現性、椎間関節周囲の圧痛、多裂筋周囲の防御的な反応が重なる場合、単純に「筋が硬い」で片付けず、椎間関節とのつながりも考えます。
この時、殿部や大腿外側まで痛みが広がることもあります。
すると、神経根症状や末梢神経障害と紛らわしくなる場合があります。
だからこそ、筋だけでなく、神経学的所見、腰椎運動での再現性、疼痛範囲の広がり方を合わせて見る必要があります。
強く押すほど、腰が守りに入ることがある
多裂筋周囲に圧痛があると、押したくなります。
硬いなら緩めたい。
痛いならそこが悪い気がする。
その気持ちは分かります。
ただ、痛覚感受性が高まっている状態や、防御的な攣縮が強い状態では、強い押圧そのものが侵害刺激になることがあります。
その結果、患者さんの腰がさらに守りに入り、多裂筋の緊張が強くなる可能性もあります。
多裂筋を「硬いから押す」で処理すると、うまくいくケースもありますが、悪化させるケースもあります。押した後に動きが良くなったか、痛みへの警戒が減ったか、呼吸や動作が自然になったかまで確認したいところです。
徒手介入をするなら、刺激量はかなり大切です。
押した瞬間の気持ちよさだけでなく、その後の動作、痛みの戻り方、患者さんの安心感まで見ます。
多裂筋は、黙らせる対象ではなく、もう一度働ける状態に戻す対象として扱いたい筋です。
多裂筋は、硬さではなく反応として見る
腰痛における多裂筋は、かなり重要な筋です。
ただし、それは「多裂筋が硬いから腰痛」という単純な話ではありません。
痛みの後に萎縮しやすい。
低出力の保持が難しくなる。
腹横筋と一緒に働くタイミングが崩れる。
椎間関節や後枝内側枝とのつながりで防御的な反応が出る。
強い押圧でさらに守りに入ることもある。
ここまで含めて見ると、多裂筋は単なる「押す筋」ではなくなります。
腰痛を繰り返す人、動作への不安が残る人、体幹トレーニングをしても腰が変わらない人では、多裂筋の反応・持続力・タイミングを確認してみる価値があります。

瀬谷崎
参考資料
- Hides JA, Richardson CA, Jull GA. Multifidus Muscle Recovery Is Not Automatic After Resolution of Acute, First-Episode Low Back Pain. Spine. 1996.
- Freeman MD, Woodham MA, Woodham AW. The role of the lumbar multifidus in chronic low back pain: a review. PM&R. 2010.
- Saragiotto BT, et al. Motor control exercise for chronic non-specific low-back pain. Cochrane Database Syst Rev.
- Wong AYL, et al. Do changes in transversus abdominis and lumbar multifidus during conservative treatment explain changes in clinical outcomes related to nonspecific low back pain? Pain. 2014.
- Perolat R, et al. Lumbar Zygapophyseal Joint Pain. Orthopaedics & Traumatology: Surgery & Research / review on PMC.













