足根管症候群を疑ったときのトリプルコンプレッションストレステスト(TCST)。手順と検査精度の読み方
施術・検査ガイド
底屈・内反・圧迫の3つを重ねて確かめる
足裏のしびれや灼熱感で足根管症候群を疑ったとき、足根管が狭くなる肢位を作ってから圧迫を加える検査があります。トリプルコンプレッションストレステスト(TCST)の手順と、報告されている検査精度の読み方を取り上げます。
足根管症候群を疑ったときに使うトリプルコンプレッションストレステスト(TCST)について、足根管で何が起きているか、3つの負荷を重ねる手順、陽性とみなす条件、報告された感度・特異度をどう受け取るか、他の所見と組み合わせる考え方までを順にたどります。
結論:TCSTは、足関節を最大底屈・足部を内反させて足根管が狭くなる肢位を作り、内果後方を30秒圧迫して、脛骨神経の支配領域に普段の症状が再現されるかを見る検査です。報告された特異度は極端に高く、そのまま目の前の方に当てはめるより、症状の分布やチネル徴候とセットで使います。
足根管で何が起きているか
足根管は、内くるぶし(内果)の後ろから下にかけて、屈筋支帯という帯状の組織で覆われた通り道です。ここを脛骨神経と後脛骨動静脈、後脛骨筋腱、長趾屈筋腱、長母趾屈筋腱が一緒に通ります。
脛骨神経はこの中またはすぐ先で、足底の内側を支配する内側足底神経、外側を支配する外側足底神経、踵の皮膚を支配する踵骨枝に分かれます。足根管症候群で訴えの出る場所が人によって違うのは、どの枝が刺激を受けているかで変わるためです。
足根管は、足関節の肢位によって内側の広さが変わります。底屈と内反を組み合わせると屈筋支帯の下が狭くなり、神経が圧を受けやすい状態に近づきます。
TCSTという名称の3つは、最大底屈・内反・内果後方への圧迫を指します。狭くなりやすい肢位をこちらで作ったうえで、さらに外から圧を足して、症状が出るかどうかを確かめる構成です。ふだんの生活で症状が出る条件を、検査台の上で意図的に再現していると考えると理解しやすくなります。
実施の手順
背臥位でも座位でも行えます。足部を保持しやすい高さに置き、次の順番で負荷を重ねます。
- 足関節を最大底屈するつま先を下げる方向へ、抵抗を感じるところまで動かします。痛みで途中までしか動かない場合は、無理に押し込まず、その範囲で行います。
- 足部を内反する足の裏が内側を向く方向へ倒します。底屈位を保ったまま内反を加えることで、足根管が狭くなる肢位ができます。
- 内果後方を30秒間圧迫する母指または示指・中指で、内果のすぐ後ろにある足根管の上を圧迫し、そのまま30秒保持します。強さは痛みを与えるためではなく、圧を保つ程度にします。
保持している間は、患者さんに感じ方の変化を言葉にしてもらいます。押した瞬間だけでなく、時間の経過とともに症状が広がるかどうかも情報になります。
反対側でも同じ手順を行い、左右で反応を比べます。無症状側で同じ反応が出るなら、圧の強さが過剰である可能性を考え直します。
何をもって陽性とするか
陽性とするのは、足底・踵・前足部・足趾に、普段感じている痛み、しびれ、灼熱感、感覚の異常が再現される、または強くなった場合です。
押した場所が痛いというだけでは陽性としません。脛骨神経またはその末梢枝の支配領域に、症状が再現または増悪することを重視します。局所の圧痛は、腱や皮下組織の反応でも起こります。
確かめたいのは、いつもの症状かどうかという点です。検査で初めて感じる種類の違和感が出た場合は、それを陽性とは扱いません。
- 再現された症状は、来院理由になっている症状と同じ質か
- 出た範囲は、内側足底神経・外側足底神経・踵骨枝のどこに沿うか
- 反対側に同じ操作をしたとき、同じ反応が出ないか
- 圧を解いたあと、症状がどれくらいで戻るか
報告された検査精度をどう読むか
TCSTを直接検証した研究では、感度85.9%、特異度100%と報告されています(Abouelela & Zohiery, 2012)。特異度100%は、その研究の対象のなかで偽陽性が1例も出なかったという意味です。
臨床でよく使われる徒手検査の値としては、かなり極端な部類に入ります。極端な値が出る背景には、研究の作り方が影響します。
| 対象の選び方 | 症状のはっきりした方と健常な方を比べる構成では、判断に迷う境界的な例が含まれず、値が高く出やすくなります。 |
|---|---|
| 判定する人の情報 | 検査する人が事前に病態を知っている状態で判定すると、結果の読み方が影響を受けることがあります。 |
| 比較の基準 | 何を正解として比べたか(神経伝導検査、画像、症状経過)によって、同じ検査でも数字は動きます。 |
報告された数字がそのまま目の前の方に当てはまるとは限らない、という前提で受け取ります。バイアスの可能性を織り込むと、実際の特異度はもう少し低いところにあると考えて使うほうが安全です。
もうひとつ押さえたいのが、感度85.9%という値です。足根管症候群があっても、14%ほどはこの検査で反応が出ないことになります。陰性だからといって足根管の関与を外してしまうと、そのぶん見落としが増えます。
同じ陽性でも、症状の分布が足根管の支配領域に合っている方と、まったく合わない方とでは意味が変わります。検査の値は、その検査を使う集団にどれくらい足根管症候群の方が含まれるかによって、実際の当たり具合が変わるためです。感度・特異度と基準値の関係はカットオフ値とROC曲線の記事で扱っています。
他の所見と組み合わせて読む
TCSTは、他の所見と組み合わせて初めて判断の材料になります。伊藤も、チネル徴候や症状の領域といった所見とセットで用いるようにと伝えています。
- 症状の分布(足底の内側か外側か、踵か、足趾の間か)
- 内果後方のチネル徴候(軽い叩打で足底へ響くか)
- 荷重や靴、立ち仕事など、症状が強まる条件
- 足部アライメント(回内や扁平で神経が牽引を受けていないか)
- 糖尿病など、末梢神経の背景になる全身の要因
足根管を狭くする肢位で症状が出るなら圧迫側の関与を、背屈・外反で伸ばす肢位で症状が出るなら牽引側の関与を、それぞれ考えます。どちらで再現されるかは、荷重時の姿勢や靴の助言を考えるときの手がかりになります。
鑑別として並べるのは、朝の第一歩が痛む足底腱膜炎、左右対称にしびれる糖尿病性ニューロパチー、下腿後面から続く腰椎神経根症あたりです。評価の全体像は足根管症候群を内くるぶし後方から疑う記事と後脛骨神経の絞扼とTinelの記事にまとめてあります。
医療機関につなぐ場面
内果の後ろに腫瘤を触れる、症状が短期間で強まっている、感覚の低下や筋力低下がはっきりしている場合は、ガングリオンや静脈瘤などの占拠性病変が背景にある可能性を考えます。
この判断は画像検査を必要とする領域で、当院で確定できる範囲を超えます。所見が揃ったときは、施術を進める前に医療機関の受診をすすめます。
強い圧迫を長く続けると、それ自体が神経への負担になります。30秒という時間と、症状の再現を見るために必要な最小限の圧にとどめます。検査後にしびれが残る場合は、無理に繰り返しません。
Abouelela AA, Zohiery AK. The triple compression stress test for diagnosis of tarsal tunnel syndrome. The Foot, 2012.(図解の検査精度はこの報告からの引用改変です)





